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これが一番可愛いから
しおりを挟むギルドは仕事の斡旋の他に、獣や魔物の素材の買い取りをしてくれる。
だけど亜空間倉庫の買い取りはやっていなかった。
仕方なく相場だけでもと思い聴いてみると、容量によるが小さいモノでも金貨数十枚、大きいモノは上限が無いという。
ちなみに小さいモノというのは見た目が巾着程度で中身は大型の旅行鞄くらい。
マリスさまが作った革袋を見せたら、
「はっきりとは言えませんが、金貨百枚以上はするんじゃないでしょうか?」
とのことだった。
そしてギルドで雑貨屋と魔導具屋の場所を訪ねた。
イロハスの街には雑貨屋が三軒、魔導具屋は一軒あるという。
マリスさまはその四軒を回り一番高い値段を付けた店に売ると言っている。
ただ一度に多く流すと値崩れが怖いので、とりあえず一つだけ。
ちょうどチトちゃんが帰ってきたので三人で雑貨屋と魔導具屋を回ることにした。
三軒の雑貨屋はどこも買取金額金貨一五〇枚前後を提示した。
ところが魔導具屋の店主は、買値を告げず胡乱な目を向けてきた。
皺くちゃな顔の中でギロリと黒い眼が光っている。
一〇〇歳はゆうに超えていそうな老婆だ。
「これをどこで手に入れた? これほどの容量のものは滅多とない。今の時代にこんなモノを作れる魔導具師をワシは知らん。古代の魔導具かとも思ったが、見れば新品の様に新しい。いったいどこの誰が造った?」
それってそんなに凄いものなの?
マリスさまはちょちょいと作ってた感じだったけど。
さすがは堕ちても女神さま!
僕はちょっとマリスさまを見直した。
「出所は教えられないわ、聞きたいのはいくらで買い取るのか。それだけ」
「……金貨一七〇枚。造った者の名を教えてくれれば二〇〇出すがどうじゃ?」
「一七〇枚で売るわ」
「残念じゃの……」
結局値段交渉はそれで終わった。
亜空間倉庫――革袋――は金貨一七〇枚で買い取ってもらった。
チトちゃんは金額の大きさに目を回しそうになってた……。
お金は全部マリスさまが握っちゃったけど、なんだか僕まで大金持ちになった気分だ。
まぁこれで当分お金に困ることはないだろう。
魔導具店には色々な魔導具が売っていた。
せっかくなのでちょっと見せて貰うことにした。
魔導具とは様々な魔法の効果が付与されたアイテムのことで、稀代の魔導具師が造った逸品なのだそうだ。
大抵の物は魔法が使えない普通の人でも使うことが出来る優れもの。
なので非常に高価なものが多い。というか安いものは見当たらない。
そんな中で小さな可愛いアクセサリーにチトちゃんの目が釘付けになっていた。
大きな瞳を輝かせ、可愛いケモ耳をぴくぴくさせて、食い入る様に陳列棚を覗き込んでいる。
「なにか欲しいものあった?」
「え、いえ、別に……」
ぶるぶると首を横に振っているが、なにか気に入ったのがあるのだろう。
だけど売っている品はどれも安くない。
安いものでも金貨数枚、高いものなら金貨十枚を超える。
まぁ魔導を冠する物なので当然かもしれないけど、やっぱり高い。
だけどチトちゃんも幼いとはいえ女の子、指輪やネックレスに興味を持つのは当然と思う。
なにか買ってあげたい。
僕はチラッと目線をマリスさまに向ける。
マリスさまはその意を酌んでくれたのか小さく苦笑を浮かべた。
そしてチトちゃんに向かって、
「何か欲しいものがあるなら買ってあげるわよ。ちなみに付与されている魔法効果は気にしなくていいから」
そこまで言ってマリスさまはチトちゃんの耳に顔を近づけた。
「魔法の効果はわたしが書き換えてあげる。だから見た目で好きなものを選びなさい」
小声ですごいことを言っている。
さすが女神さまというところだろうか。
「だけど一つだけね。魔導具は多少なりとも装着者の身体に影響を及ぼすわ。でもそういうことに慣れて置くことも必要よ。魔法に耐性も出来るしね」
「でも、こんな高価なものを買ってもらうのは……」
「お金は使うためにあるのよ! それにわたしが良いと言っているの、遠慮は無用よ」
なにか叱りつけるような言い方だ。
チトちゃんは怯えた子猫のように丸くなってしまった。
そんなチトちゃんにマリスさまは、
「ほらッ、どれなの? さっさと言いなさい、ほらッ、ほらッ、ほらッ」
何が何でも買わせるわよといった勢いでせかしている。
怯え切ったチトちゃんが躊躇いがちに選んだのは、細い革紐に吊るされた小さなチャーム――ペンダントだった。
値段は金貨三枚。
金貨三枚といえば庶民の四人家族なら二ヶ月は暮らせる金額だ。
間違いなく大金なんだけど、それでもこの店の中では比較的安い品だ。
「お嬢ちゃんには、こっちの大きめのネックレスなんてどうじゃ?」
勧めてきたのは老齢の店主だ。
それは金貨八枚もする大きめのネックレス。
「魔法の効果は毒や麻痺の耐性に回復力上昇もある逸品じゃ。旅に出るなら途中で悪いものを食ってしまうかもしれん。蛇や蟲に噛まれるかもしれん。そんな時でもこれがあれば安心じゃよ」
なるほど一理あるように思える。
でも大きすぎるネックレスがチトちゃんに似合うとは思えない。
「でも、これが一番可愛いから……」
「たしかにそれはチトちゃんが言うように小さくて可愛らしい。小さなチトちゃんが大きなネックレスを首にぶら下げるのを想像すると少し滑稽だ。そう考えるとチトちゃんが選んだ小さなチャームが一番似合いそうな気がする」
ちなみにチトちゃんが選んだチャームはスミレの花の形をしていて、とても可愛らしい。
スミレの花の花言葉はたしか――ちいさな幸せ。
そしてそのチャームの魔法効果は【運気上昇】だそうだ。
「ならば、こっちのはどうだい?」
あれやこれやと店主は高いものを勧めてくる。
しかしチトちゃんは頑として譲らなかった。
結果、チトちゃんの細い首に小さなチャームがぶら下げられた。
「ありがとうございますマリスさま」
「礼ならキルナに言いなさい! キルナが買えってうるさいから買っただけ」
少し頬を染めてはにかんだマリスさま可愛い。
マリスさまは照れ臭そうに僕に金貨を一握り渡してきた。
「キルナも少しは持ってなさい、いちいちわたしが出すもの面倒だわ」
僕とチトちゃんは目を合わせて小さく笑った。
チトちゃんの屋台に馬を繋ぐと立派な馬車になった。
屋根と壁と扉もある箱型の馬車。
中で人が寝泊まりするので家馬車と言ったほうがいいと思う。
そんな馬車を引く馬は一頭しかいない。
馬を二頭買うと言う選択肢もあったが、馬が増えれば御するのが難しそうだ。
僕は御者をしたことなんてないし、マリスさまが御者をするはずがない。
ちなみにチトちゃんは何度も手綱を握った経験があるらしい。
だけどチトちゃんも二頭以上の馬車の運転は経験がないと言っている。
なので二頭にするという選択肢は消えたんだったけど……。
さすがに一頭の馬で家馬車を引くのは重すぎる気がする。
僕がそんな心配をしていると、マリスさまは馬に魔法をかけてあげるわよと言った。
もちろん馬の魔力量は人間よりも少なく、常に魔力を消費し続ける常駐型魔法は掛けられないらしい。
そこで馬具に魔力供給の源となる魔石を装着し、魔法のルーンを刻めば馬具が立派な魔導具と化すらしい。
では、どんな魔法がいいだろうか?
ちなみに僕は、魔法耐性、物理耐性、冷熱耐性、毒耐性、痛覚耐性、筋力上昇、俊敏上昇、回復力上昇、耐久力上昇を掛けて貰っている。
その中から長旅に適した魔法を僕もマリスさまと一緒に考える。
…………。
筋力上昇は馬の脚の速さに影響するだろう。
重い馬車を引くのだから欲しい魔法である。
回復力上昇も長旅は疲れるからあったほうがいい。
耐久力上昇も同じ理由で重要だろう。
それ以外の魔法耐性、物理耐性、冷熱耐性、毒耐性、痛覚耐性、俊敏上昇などはあまり必要性が無いように思えたので除外。
マリスさまが言うには、魔導具には副作用があるらしいからね。
一般的に魔法の効果が二つくらいまでなら影響はないらしいけど、三つ以上になると悪影響を及ぼすのだとか。
旅に有効だと思われたのは、筋力上昇と回復力上昇と耐久力上昇。
その三つの中から、さらに二つに絞ることにした。
三つの内、どれが一番必要か……マリスさまと僕の意見は一致した。
それは筋力上昇だ。やはり重い家馬車を引くのだから必須だと思えた。
そしてあと一つ、回復力上昇か耐久力上昇か。
両方あれば越したことは無いだろうけど、悪影響があるのならそうも言っていられない。
だけど僕とマリスさまの意見が分かれた。
僕は馬が疲れた時のことを考えて回復上昇を推した。
マリスさまは馬が疲れさせないためにと耐久力上昇を推した。
もちろん意見が分かれれば僕の意見が通るはずもない。
結果、耐久力上昇を掛けることになった。
マリスさまは馬具に指を走らせルーン文字の羅列を刻んだ。
これで馬具に【筋力上昇】と【耐久力上昇】が付与された。
次に馬車本体にも魔法を掛けている。
【結界】という魔法だ。
その効果は僕たち三人以外は馬車に入れないという特殊なもの。
これで準備は完了、いよいよ前途多難な旅の出立である。
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