堕女神と異世界ゆるり旅

雨模 様

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村が見えたよ

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 カタコトと何かの物音で目を覚ました。
 ベッドから下を見るとマリスさまはまだ眠っている。
 相変わらず布団をはだけて、ちょっと目のやり場に困る寝相だ。
 僕は出来るだけ見ないように、すぐにマリスさまを視界の外に放りだした。
 そしてチトちゃんがいないことに気づく。
 物音はどうやら馬車の後部から聞こえている。
 見ればチトちゃんが後部の調理台でなにかしている。

「おはよう、何してるの?」
「あ、おはようございます。今から朝食を作ろうとおもって」
「それは嬉しいな、ありがとうね」
「いえ、私はお料理くらいしか出来ませんので」
「料理が出来れば上出来だよ、それに御者だって出来るでしょ。寝てばっかりのマリスさまとは大違いだよ」

 チトちゃんが苦笑を浮かべる。
 実際にチトちゃんが料理を作ってくれると僕は凄く助かる。
 だってマリスさまが魔法で食事を出せば僕はマナを提供しないといけないからね。
 できるだけマナは吸われたくない。それが僕の本音だ。

「だけど白パンはマリスさまに魔法で出してもらったものですよ。沢山出してもらったので。だから料理って言ってもスープ作るくらいです」

 そういえば沢山出したとか言ってたな。

「いったい幾つくらいパンを出してもらったの?」
「百個くらいありました」
「それは凄いね……」

 少しするとスープの美味しそうな匂いがしてきた。
 その匂いにつられたようにマリスさまも起きてきた。
 起き抜けにマリスさまは洗浄と呟いている。

「朝から洗浄?」

 僕は聴いた。

「当然でしょ、寝汗をかくんだから。あんたたちも綺麗にしておく?」

 そういえば人は平均約五〇〇ミリリットルの寝汗をかくって聞いたような気がする。
 そう考えるとゾッとした。
 僕とチトちゃんも洗浄をお願いした。
 本来ならここでマナ頂戴とか言われそうだけど、さすがのマリスさまもチトちゃんの目は気にするのか言ってこない。
 僕にとっては嬉しい限りだけど……。
 身体も綺麗になったところで朝食となった。

「やっぱり白パンは美味しいです」

 チトちゃんが美味しそうにパンを摘まんでいる。
 そんなに美味しいかな?
 普通のパンって感じなんだけど……。
 そして僕はスープを食べた。
 うん美味しい、美味しいけど、なんだろう、なにか足りない気がする。
 マリスさまもスープを食べて小首を傾げている。

「美味しいけどなにか物足りないわね」
「お口に合いませんでしたか?」

 チトちゃんが恐縮したように俯いた。

「大丈夫だよ、べつに美味しくないわけじゃないよ、ちゃんと美味しいから」
「そうね、たしかに美味しいけどなにか物足りないのよ……」

 まだ言ってるよ。この堕女神さま……。
 チトちゃんが小さな身体をすくませちゃってるじゃないか。
 でも何だろう、このなにか欠けてる感は。
 僕はスープの汁だけをじっくり味わってみた。
 舌先で触れてみたり、舌の上で転がしたり、口の中に含んでみたり……。
 そして気が付いた。

「コショウじゃない? チトちゃんスープにコショウいれた?」
「え、コショウですか? そんな高級なものないです」

 僕はマリスさまを見た。
 マリスさまは僕よりも、もしかしたらチトちゃんよりもこの世界のことを詳しく知っている。
 それだけの知識を街に訪れた初日に習得したらしい。

「そういえばそうね、コショウとかの香辛料ってこの世界では流通してないのよ。ときたま商人が運んでくるけど、それもすぐに王侯貴族や大商人の手に渡る。一般市民がコショウを口にすることはまずないみたいね」

 だったらチトちゃんを責めたら可哀想だ。
 まぁだれも責めてはいないけれど。
 そしてマリスさまが【生成】と呟いた。
 その手には小瓶が握られている。
 蓋を開けて三人のスープに一振りした。

「はいチト、コショウよ。今後料理で使うといいわ。ピリッと香辛料スパイスが効いて、たいていもモノなら美味しくなるから」
「こんな高級なもの、恐ろしくて使えません」
「なに言ってるの、魔法でいくらでも出せるんだから、遠慮しないでどんどん使いなさい。わたしスパイスの効いた料理大好きだから。言っておくけど遠慮しちゃだめよ、どんどん使いなさい。そのほうが美味しいんだから。ネ!」

 チトちゃんは恐る恐るそれを受け取っていた。

 朝食も終わり馬車を出発させた。
 馬車はチトちゃんが運転してくれた。
 僕は必至で欠伸を堪えて景色を眺めて過ごした。
 前方は地平線、左は森があってその向こうが山脈、右は荒野が広がっている。
 その景色は一向に変わることはなかった。
 昼ご飯を食べて午後からは僕が運転を代わった。
 じっと座っているのは眠くてしょうがないからだ。
 でも運転も慣れてくると眠気に襲われる。
 何度か船を濃いでチトちゃんに肩を揺すられた。
 結局危ないからとチトちゃんに手綱を奪われてしまった。
 太陽が少し西に傾いたころ、僕は地図を眺めながら言った。

「いい加減川があってもいいんじゃないのかな。その川を越えたら村があるはずなんだけど」
「ちょっと上から見て見なさいよ」

 馬車の中からそんな声が聞こえた。
 寝てると思ったのに起きていたんだね……。
 僕は馬車から降りて垂直にジャンプした。
 上空から前方を見ると地平線ぎりぎりに川が見えた。
 たしか目線の高さから見える地平線って四キロメートルくらいだったっけ。
 でも三十メートルくらいはジャンプしたと思うし、その高さだとどのくらい見えるんだろう。
 あ、そもそもこの世界が球体かどうかもわからない。
 いや、地平線を見る限り丸みを帯びているから球体には違いないのかな?
 でも地球と同じ大きさとは限らない。
 地平線までの距離の測り方って地球の半径も関係あったはずだ。
 そもそも僕はその計算式をしらない。
 だめだ、わからない……。
 なので適当に言うことにした。

「目測だけど川まで十キロ以上ありそう。村は見えなかったよ」
「そう、ならまだ小一時間は掛かりそうね、わたしは後ろで寝ることにするわ」
「今起きたばかりじゃないの? よく寝れるね」
「寝たほうがマナの回復が早いのよ」
 
なるほど、そういう理由だったんだね。
 だったらずって寝てていいよ……。
 マリスさまは馬車の中に入っていった。

「チトちゃん運転代わろうか?」
「いえ、大丈夫ですよ」

 んーじっと横に座ってるのって眠くなるんだよな、せめて何か話でも出来ればいいんだけど、なにか話題ないかな。
 そんなことを考えながら地図を見る。
 今向かっている村はトガ村と言う名前らしい。
 それ以上の情報は地図には載っていない。
 一体どんな村なんだろうか?

「ねぇチトちゃんって昔は家族で旅をしていたんだよね?」
「はい、わたしが幼いころですけど」

 いやいや今でも君は十分幼いけどね……。

「今向かってるトガ村って行ったことある?」
「えっと、色々な村に行った記憶はあるんですけど、名前とか場所とか全然覚えてなくて……だからその村にも行ったことがあるのか分からないです」
「そっかぁ、まぁ幼かったなら仕方ないよね」
「なんにも覚えてなくてすみません」
「いやいや、謝ることじゃないから」

 そしてしばらくすると前方に川が見えてきた。
 川には大きな石橋が掛かり、川を渡ると左手に村も見えた。

「チトちゃん村が見えたよ」

 チトちゃんが手綱を握ったまま御者台で立ち上がる。

「危ないよ」

 だけどそんなはしゃぐチトちゃんも可愛い。
 村の周囲は背の低い柵が立てられている。
 魔物や獣除けではなく、ただの境界といった感じだ。
 村の入り口には一人の男性が立っていた。
 門番だろうか?
 僕たちが通ろうとしても、止めもしないで「やぁ」と軽く挨拶をされた。

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