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忘れたとは言わせないわよ
しおりを挟む「えっと、寝るのはまだ早いし、お風呂にしようか?」
「そ、そうね……」
「お風呂って、湯あみですよね? じゃお湯の準備をしますね」
チトちゃんは外に出て焚火の準備を始めた。
「なにをしているの?」
「湯あみをするんですよね? だから火を熾します。湯あみ用のお湯を沸かさないといけないですから」
「ストップストップ、そんなことしなくて大丈夫だから、マリスさまはこんなだけど、魔法を使えるから、お風呂も簡単に入れるんだ」
「こんなだけどってどういう意味よ!」
「え、あ、いや、こんなに可愛いけどって意味かな。あはは」
「フン、まぁ釈然としないけど、いいわ。それよりさっさと小屋を出しなさい」
「うん、すぐ出すよ」
僕は言われてお腹の異次元倉庫を開いた。
そこから丸太小屋を取り出し馬車の横に置いた。
それを見たチトちゃんが腰を抜かす勢いで驚いている。
「な、な、な、な、な……、なんですかこれ?」
「お風呂小屋だよ。扉を開けるから中も見てごらん」
僕が扉を開けるとチトちゃんが中を覗く。
「綺麗に磨かれた大きな丸太みたいなのがあります」
「それが浴槽だよ」
「浴槽ってなんですか?」
「あれにお湯を一杯にいれて、そこに浸かるんだよ。気持ちいいよ」
「き、聴いたことがあります。それって貴族様が入るお風呂ですよね?」
ようやくチトちゃんが理解したようだ。
「でもそんなに沢山のお湯をどうやって沸かすんですか?」
「それはわたしが魔法でちょちょいと沸かすから問題ないわ。見ててね」
マリスさまが丸太小屋に入っていった。
浴槽に手をかざし「【温水】!」と唱える。
するとマリスさまの手から、勢いよくお湯が溢れ出した。
それが見る見る丸太の浴槽に溜まっていく。
お湯からは白い湯気が立ち上り、小屋内は真っ白な蒸気に包まれる。
「チト一緒にはいりましょう。服も体も洗浄してあげる」
「はい!」
丸太小屋の中からはお湯が弾ける音と、キャッキャと美少女二人の戯れる声が聞こえてきた。
僕は悶々とした気持ちでそれを聞かされた……。
しばらくして二人が丸太小屋から出てきた。
マリスさまは元もと綺麗だったけど、チトちゃんも身なりが綺麗になりさらに見違えたようだった。
僕がそんなチトちゃんをみていると、
「キルナ、イヤらしい目で見んなッ!」
え、僕そんな目でみてた?
たしかにチトちゃんは髪はサラサラで尻尾もフサフサ、抱きしめて頬ずりしたいなーなんて思ってたけど、それが顔に出てたのかな?
僕はさっとそっぽを向いて知らん顔をした。
でも決してイヤらしい気持ちではなかったんだけどな……。
まぁ気をつけないと……。
そして僕もお風呂に入り、その後で洗浄してもらった。
体も心もスッキリ、これで気持ちよく熟睡できそうだよ。
「そ、それじゃ寝ようか?」
「そ、そうね……」
「は、はい……」
どこか微妙な空気がながれているる。
こういうときは、さっさと寝台に入って布団を被ってしまうべきだ。
と、ここで問題があった。
馬車には折り畳みベッドが三つある。
馬車の後部からみて両側、床から三十センチくらいの場所に一つずつ。
もう一つは右側の上段、床からから一メートルほど上にある。
つまり下段に二つ、上段に一つだ。
僕たちはいま下段ベッドにそれぞれ座っている。
ちなみにベッドを両側二つの広げると、真ん中は三十センチほどしか間隔がなく、歩くのも狭いくらいだ。
それはともかく僕はどこに寝たらいいんだろう。
上段の高いベッドは落ちた時のことを考えるとちょっと嫌だ。
下のベッドは落ちても低いから安全だけど、右側は寝ぼけて上体を起こすと絶対に上のベッドに頭をぶつけそうで嫌だ。
だったら残りは左側のベッドになるんだけど……。
「チトちゃんていつもどのベッドで寝てたの?」
「私はいつもこのベッドを使ってました」
上下二段の下側、いま座っているベッドを差して言った。
だったら残りは二つ、上段のベッドか下段向かいのベッドか。
僕は静かに立ち上がり、向かいのベッドの脚を降ろしてベッドを引き出した
「僕ここで寝ようかな」
「は? なに言っちゃってるの? そこはわたし、キルナは上のベッド、チトはその下、チトもそれでいいわよね?」
「はい、私はいつもこのベッドだったので」
「なんで勝手に決めるのさ? 僕だってここがいいんだけど?」
「なに? そんなに女の子の近くが言い訳? チトも嫌よね? こんなむさい男の近くで寝るなんて。だからあんたは一人で上なのよ。それでいいわよねチト」
「え、いえ、私は特に……はい……」
「ほらチトも嫌だって言ってるわ。まさかこんな幼いチトにまで悪戯しようとするなんて、あー怖い怖い。わたしも以前悪戯されそうになったんだから、チトも気をつけなさいよ」
「え! そうなんですか?」
「な、なんの話だよ。僕がいつ何をしたっていうのさ?」
「あら覚えてないとでもいう気? 以前に河原で野宿した時、わたしの背後から身体をピタッと密着させてきたじゃない、忘れたとは言わせないわよ」
「あれは……ちょっと怖かったから……それで……」
「じゃあ、今日は怖いと言ってチトに抱き付く気?」
「抱き付くって……そんなつもりないよ……わかったよ、僕が上に寝るよ。それでいいんだろ」
「わかればそれでいいのよ。ほらどいて、人のベッドに腰を降ろさないで頂戴」
僕は狭い通路に立たされた。
仕方なく上部のベッドを引き出しその上に登る。
ベッド位置は高くて狭い。
手摺りさえ無いからちょっと寝返りを打っただけで落ちそうだ。
あー怖いな。トホホ。
下をみればマリスさまとチトちゃんが寝る準備を始めている。
「チト、布団はあるのよね?」
「はい、そこの頭元の収納棚の中に三枚はいってます」
マリスさまは、「ここね」と言って収納棚いから布団を取り出した。
「あら、埃臭いわよ。ちゃんと洗ってる?」
「洗濯は月に一回くらい、日干しは晴れた日に出来るだけしてますけど……」
「ていうか、ずいぶん古いわね、これじゃ仕方がないか、これも洗浄しちゃうわね」
「さっきお風呂で私や私の服にしてくれたやつですね」
チトちゃんが期待を込めためでマリスさまを見詰めている。
マリスさまが魔法を使うと、布団からシミや汚れが消えて、新品の様に見違えた。
もちろん臭い匂いも消えている。
「わぁー真っ新になったみたいです」
チトちゃんは喜んでベッドに横になり布団を被った。
そんなチトちゃんにマリスさまは魔法の言葉を呟く。
「【熟眠】」
とたんにチトちゃんから寝息が聞こえ始めた。
そして僕とマリスさまの秘密の時間。
あーーー。
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