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いつから痴漢魔になったの
しおりを挟む夕食も終わるころには空は暗くなり始めていた。
食事の後かたずけをしながら、ふと馬の名前が決まっていないことを思い出す。
ちなみに馬の性別というか雌雄は雄だった。
チトちゃんにそのことを教えると、
「だったらカッコいい名前がいいですね」
なぜか分からないけど笑顔で声を弾ませた。
「どんな名前がいい?」
「んーーーーーーーー」
チトちゃんは身体を左右に大きく揺らしながら考えている。
「シルフィードなんてどうですか? カッコよくないですか?」
「サラブレットならともかく、こんな農耕馬にシルフィードは似合わないわね」
「サラブレットってなんですか?」
「レース用の馬よ。もっと脚が細く長くスタイリッシュな身体つきをしているわ。こんな短足でぼてぼてした感じじゃないの」
「ン~この子もカッコいいと思うんですけど……」
「ドンなんてどう、この馬にピッタリな名前じゃない?」
「ドン、ドンちゃん、うん、ドンちゃん可愛いです。私もドンちゃんいいと思います。キルナさんはどうですか?」
「え、僕? い、いいんじゃないかな?」
二人がどういう意図でドンという名を気に入ったのか理解に苦しむけど、二人が気に入ったんなら僕に文句はない。
こうして馬の名前はドンに決まった。
ドン、お前の意見は聴いてもらえなかったみたいだな。
僕はそっと御者台の扉を開けてドンを窺った。
辺りは日が完全に落ちて真っ暗だ。
ドンの姿がうっすらと見える。
どうやら立ったままの姿勢のようだ。
そのままの姿勢で寝ているのかもしれない。
僕はふと心配になったことをマリスさまに聴いた。
「ねぇ馬車って結界が張ってあるんだよね?」
マリスさまは「ええそうよ」と頷く。
「ドンはどうなるの? 結界に守られてるの?」
「ドンは結界の外だから守られていないわね」
「それは可哀想だよ、ドンも結界にいれてあげようよ」
「簡単に言ってくれるわね。だったらキルナが魔法を覚えてドンまで含む結界を張ればいいじゃない」
「覚えてって、魔法って覚えられるものなの?」
「才能さえあればね?」
以前こんな話をした記憶がある。
その時マリスさまは僕には才能がないと言った。
「僕に魔法の才能ないんだよね?」
「ないけど、無ければ開花させればいいのよ」
「そんなことができるの?」
「わたしを誰だと思っているの?」
マリスさまが形の良い胸を張った。
思わず凝視してしまいそうになるのを必死で堪えて視線を逸らせる。
「じゃ開花させてよ。僕も魔法を使えるようになりたい」
「……いいの? キルナに抑えられるかしら?」
「どういうこと?」
「例えば、目の前からセクシーでボンキュッボンな女の人が歩いてきた。キルナはその女をみてどう思う?」
「え、何、急に?」
「いいから答えなさい」
「んー、そんなこと言われてもわからないよ」
「わたしが歩いてきたと思えばいいでしょ?」
「え…… セクシーでボンキュッボンだよね? どこか?」
「なッ!」
パチンッ!
いきなり頬を張られた。
マリスさまを見れば、頬を膨らませて怒っている。
ごめんなさい、真剣に考えます……。
「えっと……、恥ずかしくて目を逸らすかな?」
「それだけ? ちょっとは中身を見てみたいとか思わない?」
「お、思わないよそんなこと!」
「ほんとに? 少しも思わない? ちょっとくらい思うでしょ? ボンキュッボンなのよ?」
「えっと……」
チラッと横をみればチトちゃんンも興味津々と言った眼差しで僕を見ている。
これは間違っても迂闊なことは言えない。
「ぜったいにそんなことは思わない」
僕は強く言い切った。
「面白くないわね、ここは嘘でも思うって言うところでしょ?」
「いやだよ、チトちゃんの前でそんなこと言えないよ」
「チトの前で聞いたのが失敗だったわね……」
「いったい何の実験なんだよ?」
「仮によ、仮に、少しでも見てみたいとか思ったら、思った瞬間、透視して覗いちゃうか、もしくは女の服がビリビリに破け散って全裸を拝んじゃうか、そんな感じになるってこと」
「なにその痴漢スキルは? 僕はいつから痴漢魔になったのさ」
「でも怖いでしょ? それでも魔法を覚えたい?」
「ぼ、僕は、そ、そんなこと思わないから、だ、大丈夫かな……」
「いう割には声が吃ってるわよ?」
「ご、誤解だよ……」
「じゃあ、もう一つ例をあげるわ。魔法は魔力に依存するって言ったでしょ。魔力が大きければ大きいほど魔法の力は大きくなる。例えば炎の魔法を使うとして、今のわたしが精一杯の魔力を込めて使えば大きなキャンプファイヤーほどの炎がだせるわ。もしキルナが魔法を覚えて同じ炎の魔法を精一杯の魔力で使ったら、果たしてどんな炎ができるのか、わたしにも想像がつかないけど、おそらく一つの街を一瞬で焼き尽くすような炎ができるでしょうね」
ゴクリッ! 僕は唾を大きく飲み込んだ。
まさかそんなと思いつつ、凄いなと憧れる気持ちもある。
「でも、それって力と一緒で加減すればいいんだよね?」
「ええ、普段なら加減すれば問題ないわ。でも……、仮によ、目の前で、わたしやチトが無残に殺されたらキルナはどうなるかしら? 怒り狂うんじゃない? その時、自分の怒りを抑える自信がある? 怒りに任せて魔法を使えば、街はおろか一国すら滅ぼしかねない魔力がキルナにはあるのよ?」
そんなこと考えたこともなかった。
マリスさまやチトちゃんが目の前で殺されたら…………。
僕は、自分を抑える自信なんかない。
「この世界の神がどうして人間に魔法の才を与えているのか、わたしには分からない。でもわたしは、いえ元の世界のわたしたち神は、人間に魔法を与えなかった。それは人間が心の弱い生き物だってわかっているから。まぁ魔法を与えなかったけど、それ以上ともいえる恐ろしい力を人間は自ら造り上げたけどね。キルナも日本人ならよく知っているでしょ? 原子爆弾を。キルナが魔法を覚えるということは原子爆弾の起爆スイッチを常に持ち歩くってことなのよ」
まさか……。
そんな恐ろしい力を僕が持ってるなんて考えもつかない。
いくらなんでも話が大袈裟すぎると思うけど、マリスさまは真剣そのもので、ぜんぜん冗談に聞こえなかった。だから僕は何も言えなかった。
「まぁ、それでも魔法を覚えたいって言うなら相談に乗るけど、わたしは勧められない。だから今はわたしを頼りさない。ドンを含む結界を張ればいいんでしょ。その代わり、わかってるわよね?」
「うん、わかってるよ。でもチトちゃんが寝てからね」
「え、私が、寝たらなんですか?」
チトちゃんが交互に僕とマリスさまの顔を見詰めてくる。
見つめ返すと、真っ赤になって俯いてしまった。
何を想像させちゃったんだろう……怖くて聞けない。
マリスさま聴いてと目で訴えてみる。
嫌よ! という風にそっぽを向かれた。
チトちゃん、君は何を考えたの……。
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