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この変態ッ!
しおりを挟む夕方になってようやく雨は上がった。
平原は西日が差して少し暖かくなった気がする。
雨が上がるとマリスさまとチトちゃんが馬車の中から出てきた。
僕を挟んで御者台の両側に座る。
なんだか二人の距離が近い気がする。
肩と肩が触れてるよ?
美少女二人に挟まれるのは嫌じゃないけど恥ずかしい。
もう少し離れてくれないかな。
顔が茹蛸みたいになっちゃうし、さすがにそんな顔は見られたくないよ。
僕って極端なあがり症なんだろうか……。
なんとか意識を別の方向に向けないと耐えられない。
そうだ!
「ねぇそろそろお腹減ってない?」
これは正直な気持ちだ。
「夕食にはまだ少し早いんじゃない? わたしたちさっき白パンとスープ食べちゃったしそれほどお腹空いてないわよ。ねぇチト」
「そうですね、わたしもまだ大丈夫ですけど……」
「いやいや、二人は食べてたけど僕なにも食べてないから。お願いだから何か出してよ」
「図々しいわねぇ」
マリスさまが半眼で睨んでくる。
ほんと優しさの欠片もないんだから……。
でもチトちゃんは違う。優しくて気が利いて素直で良い子だ。
「じゃ馬車を停めて下さい。わたし何か作ります。串焼きでいいですか? なんなら他の野菜とかも沢山ありますしBBQなんかもすぐできますよ」
ほら、やっぱりチトちゃんは優しい。
僕はそんなチトちゃんの頭を撫でてしまった。
前に良いって言ってたし、大丈夫なはず……。
チトちゃんは嬉しいのか恥ずかしいのか身体をモジモジさせた。
そんなチトちゃんを見ていると僕まで嬉しくなり顔がニヤけてしまう。
それに引き換えマリスさまときたら、向こうを向いて「…………しやがって」と何か呟いて小さく舌打ちしていた。
はっきり聞こえなかったけど何か気に食わないようだ。
僕はおずおずと聞いてみた。
「えっと、なにか怒ってる?」
「別に、フンッ!」
マリスさまは大きく鼻を鳴らした。
完全に怒ってるじゃないか……。
でも言う気はないみたいだ。
だったら放っておくしかない……触らぬ神に祟りなし。
僕は馬車を街道の端に寄せて停車させた。
チトちゃんが馬車の後ろに回り、屋台の炉の準備を始める。
「なにか手伝えることある?」
「いえ、大丈夫です。慣れてますから」
「そっか、じゃぁ僕は馬に干し草でもあげてくるよ」
「あ、はい、お願いします」
僕は亜空間倉庫から両手に抱えるほどの干し草を取り出しそれを馬に与えた。
馬具から解放された馬は美味しそうに干し草を食べている。
桶に入れた水を与えるのも忘れちゃいけない。
そういえばこの馬って名前あるのかな?
僕が知らないだけで、マリスさまは馬を購入するときに聴いてるかも知れない。
「ねぇマリスさま、この馬って名前あるの? 買ったとき聞かなかった?」
「名前、さぁ聞かなかったわね」
「じゃ名前付けようよ、さすがにウマじゃ可哀想じゃない?」
「どうでもいいわ、付けたければ勝手につければ」
あれ? なんかマリスさま怒ってる? いや拗ねてるのかな?
……よくわからないし、まぁいっか。
んー名前なにがいいかなぁ……。
チトちゃんにも相談してみようかな。
「ねぇチトちゃん、馬に名前を付けようと思うんだけど、なにかいい名前ない?」
僕は少し大きな声で馬車の後ろにいるチトちゃんに聴いてみた。
チトちゃんもそれに大きな声で答えてくれる。
「えー、すぐには思いつかないですけどぉ、可愛い名前がいいですぅー」
「可愛い名前かぁ、なにか考えてよぉ」
「えっとぉ、そのお馬さんって男の子女の子どっちですかぁー?」
「あーどっちだろうねぇー……、マリスさまどっちか知ってる?」
「知らないわよ。知りたかったら見ればいいでしょ」
「視てくれるの?」
「自分で見なさいよ」
「ええぇちょっと視るくらいいいじゃん」
「あ、あんた、わたしに何を見せようとしてるのよ。この変態ッ!」
えええ、どういうこと? あ、見るってそういう意味か、てっきりステータスを視るかと思っちゃったよ。
あぁ誤解なのになぁ……また怒らせちゃったよ。
ほんとに気が短いんだから……。
そんなやり取りをしているうちに何か焼きあがったみたいだ。
「キルナさーん、そろそろ食べられますよぉー」
「わかったぁー、すぐ行くよぉー」
僕は急いで馬車の後部に回った。
炭焼きの網の上では串焼きの他に色々な野菜が焼かれていた。
トウモロコシに椎茸にピーマンに玉ねぎ。
白い煙がもわもわと立ち上りとても香ばしい匂いがしている。
そしてタレがジュワーと音を立てて焦げる匂いも堪らない。
マリスさまに魔法で出してもらう料理も美味しいけど、こういった屋台の醍醐味というか雰囲気は味わえない。
んー屋台最高。炭焼き最高。
串焼きを片手に、トウモロコシを掴んだ。
その匂いに誘われたのか、マリスさまもやってきた。
「わたしも何か食べようかしら」
「はいッ! お好きなのをどうぞ。他にもニンジンにシシトウやキャベツ、鶏肉や牛肉、魚、まだまだ色々ありますよ。袋の中を覗いてみますか?」
「ううん、大丈夫よ、とりあえず串焼きを一本貰おうかしら」
「はい、どうぞ!」
マリスさまが串焼き一本を食べてる間に、僕はピーマン、椎茸、玉ねぎを平らげた。
「ちょっとぉ、なに一人で全部食べてるの?」
マリスさまが頬を膨らませて言う。
「マリスさまはお腹減ってないって言ってたじゃないか、僕はお腹ぺこぺこなんだよ」
「それほどっていったでしょ、それに食べないとは言ってない!」
そんな僕たちをみてチトちゃんがあたふたとする。
「あー喧嘩は止めて下さい。すぐに焼けますから」
「ほらぁ、チトちゃんが困ってるじゃないか。マリスさまが意地汚いこと言うからだよ」
「意地汚いですって、キルナが食い意地張って一人で食べちゃうからでしょ!」
「あああ、お肉が焼けましたぁ。ハラミにカルビにロースです。喧嘩しないで食べて下さい。はやく食べないと焦げちゃいますよ。それからなにかリクエストありますか? なかったから勝手に焼いちゃいますよ」
「ありがとチトちゃん」
「チトあんたも食べなさい、キルナ一人に食べさせることないんだからね」
言いながら僕とマリスさまは、互いのお箸で肉の取り合いをしている。
こうして僕たちの賑やかな夕餉は過ぎていった。
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