堕女神と異世界ゆるり旅

雨模 様

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元の世界に帰る?

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「まさかこんなにも早くにドラゴンの情報を聞けるとは思っていなかったわ」

 馬車に揺られながらマリスさまがそんなことを言った。
 いったいどういう意味だろう。

「わたしの旅の目的はドラゴン探しだったのよ」

 はい? なにそれ? 初耳なんだけど。
 聞けば、この世界には『古代の六宝具』と呼ばれる六つの宝があるという。
 その内の一つに『解呪の珠玉』と言うものがあって、それを探し出すのが旅の目的だと言い出した。

「それじゃぁ、チトちゃんの旅に同行したのは、それが目的だったの?」
「そうよ!」
「それじゃぁ僕たちは騙されてたっていうわけ?」
「騙されたってなんの話しよ? いつ誰が誰を騙したの?」
「だって、チトちゃんの串焼きが食べたいからって言ったじゃない」
「言ったわよ。それは事実でしょ。ただ裏にもそういった事情があったってだけ」
「むぅ……た、たしかに、騙されたことにはならないかもだけど、隠していたんだよね? そういう事情があるってことを」
「だって言ったらキルナ反対するでしょ、どうせ怖がって行きたくないとか言うじゃない」
「そりゃ反対するよ。チトちゃんだって嫌だよね?」

 チトちゃんはキョトンと僕を見上げた。

「えっ、わたしは別に……、ドラゴンさん、見てみたいかも……」
「チトちゃんまでそんなこと言うなんて……」

 僕は愕然と項垂れた。

「はい、キルナの負けね。諦めてドラゴン見物行くわよ」
「行くっていったって、ドラゴンが何処にいるのかしってるの?」
「さっきの村を守護してるっていうんだから、この付近の山でしょ。山に向かう路はいくつかあるかもだけど、荷馬車が通れるような路は少ないでしょ、そこを登れば見つかるはずよ」
「どうして路があると思うの? ドラゴンって飛べるんだよね? 人が歩いていけない場所に棲んでるかもじゃないか」
「何言ってるの、荷車一台分の農作物とか家畜を生贄として捧げてるって言ったじゃない。だったら荷馬車が通る路で行けるに決まってるでしょ」

 たしかにそんな話を聞いた。
 馬車は轍のついた細い路を山に向かって進んでいる。

「でもどうしてマリスさまがそんな事を知ってるの?」
「街でこの世界の一般的な知識は吸収したって言ったでしょ。そのなかに『古代の六宝具』とそれを守る六匹のドラゴンの話があったのよ。どこまでが真実かはわからないけど、ドラゴンが存在するなら宝だってあるかも知れない。六匹のドラゴンの話はチトだって知ってるんじゃない?」

 チトちゃんがそれに答える。

「はい、聴いたことあります。宝ものの事は知りませんけど、ドラゴンは世界の各地にいて、神様としてまつられているって聞いたことがあります」
「で、そのお宝があったとして、『解呪の珠玉』ってなんなの?」
「名前のとおり、呪いを解くお宝よ」
「どうしてそんなものが欲しいの?」
「わたしに掛けられた魔力の封印を解けるかもしれないじゃない。もし解けたら元の世界に帰ることだって夢じゃないのよ」
「えっ! それは本当?」
「本当かどうかはわからないわよ。でも可能性はある。六つのお宝ってどれも名前からして普通の魔法使いが造れるようなものじゃないわ。おそらくこの世界の神が造った物じゃないかしら、だとすればわたしに掛けられた封印だって解けるかもしれない」

 それが事実ならすごい発見だ。
 ドラゴンは怖いけど行く価値は存分にある。

「あの……、元の世界に帰るってどういう意味ですか?」

 僕たちが浮かれていると、チトちゃんがそんなことを聴いてきた。
 チトちゃんの前で元の世界の話をするなんて迂闊だった。
 なんとか誤魔化せないかなと僕は思案する。
 ウソは付きたくないけど、このことだけは言う訳にはいかない。
 それなのに、

「あのねチト、わたしとキルナは異世界からこの世界に来たの、だから元の世界に戻りたいわけよ」

 簡単にカミングアウトしちゃってるよ……。

「えっと、イセカイ、ですか? よくわ分かりません……」
「だから簡単に言うと、この世界とは別の世界ってこと」
「海を越えた向こうの大陸のことですか?」
「んーもっと大きな話しね。海を越えた先より、もっともっと遠い世界。こことは全く別の世界なの」
「それって、よく分かりませんけど、すごく遠いんですよね? そこに帰ってしまうんですか? もう会えなくなるんですか?」

 チトちゃんが泣きそうな顔で訴えてきた。
 そんな顔をされると、さすがに帰りたいとか言えない。
 マリスさまも、しまったという顔をしている。
 垂れ髪をいじりながら説明を始める。

「えっと、すぐに帰るって訳じゃないのよ。そ、そうね、チトが大人になって誰かと結婚するくらいまではこっちにいても別に構わないし、わたしにとって十年や二十年なんて一瞬のようなものだし、もちろんキルナだっているわよね?」

 チトちゃんがマリスさまの言葉を聴いて僕を見上げてきた。
 僕はどう答えたらいいの?
 僕にとって十年二十年はすごく大きいよ。
 そんなにこっちの世界に居たら、元の世界に戻っても浦島太郎状態になるんじゃないかな。
 だから帰るなら早く帰りたい。
 でも……僕は帰ってもコミュ障で引き篭もりのニート。
 友達もいないし家族とすら上手くやっていけない。
 正直元の世界に未練なんかない……。
 いや待って、未練あるよ。
 ゲームの世界で仲良くなった唯一の友達。
 彼女には「また後でね」と言ったきりだ。
 このまま別れちゃっていいの?
 でも、しょせんゲームの友達だ。ゲームのサービスが終了したらそれまで。
 それに引き換えこっちにはマリスさまとチトちゃんがいる。
 異世界なんていう見知らぬ世界にやってきて、不安で怖くて早く帰りたいと思っていたけど、マリスさまと数日過ごして、今またこうしてチトちゃんも一緒になって毎日楽しく充実している。
 こんな平穏で楽しい日々が続くなら帰りたくない。そう思う僕がいる。
 でもチトちゃんンが結婚して僕たちと離れちゃって、マリスさまが帰っちゃったら僕はどうなるんだろう……。
 そのとき僕はまた一人になるの? それは嫌だ。
 こんな世界で一人になるなら、まだ元の世界の方がましだ。

「僕はマリスさまとチトちゃんとずっと一緒にいたい。でも……」

 帰りたい気持ちがあるという事実は口に出来なかった
 チトちゃんが嬉しそうにしながらも顔を赤く染めている。

「キルナ、あんたそんな恥ずかしいセリフをよく堂々と言えるわね」

 マリスさまも少し顔が赤いだろうか。
 言った僕も恥ずかしくなってきた。

「だ、だから、当分はそういうことだから、チトちゃんが僕たちと離れたいと思うまではずっと一緒だよ。安心して」

 チトちゃんが嬉しそうに照れ笑いを浮かべて「はい」と頷いた。

「でも僕たちが異世界から来たっていう話は内緒だからね、絶対に誰にも言わないでね」
「はい、わかりました。誰にも言いません」
「マリスさまもだよ」
「わ、わかったわよ。以後気をつけるわ」

 マリスさまが拗ねたように顔を横に向けた。
 僕とチトちゃんは同時にクスクスと笑い合った。


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