堕女神と異世界ゆるり旅

雨模 様

文字の大きさ
35 / 37

願いってなによ!

しおりを挟む

 僕はあまりの恐怖に立ち上がれなかった。
 地揺れで尻餅をついたんだけど、実は腰を抜かしてたみたいだ。
 チトちゃんはマリスさまに手を借りて立ち上がっている。
 だけど僕には手を貸してくれる気はないっぽい……。

「だ、大丈夫ですか?」

 チトちゃんが僕の背中から両脇に手を入れて立たせようとしてくれる。
 それでも立てない僕……、ほんと情けない。
 そんな僕の腰辺りをマリスさまがガツンッと蹴飛ばした。
 痛ッッと僕は前のめりになって、四つん這いの体勢になる。

「ほら、立ちなさい」

 ショック療法だろうか、足に力を入れると何故かすっと立ち上がれた。
 だけど、目の前のドラゴンを見ると、また腰を抜かしそうになる。
 見ているだけで足が震えてくる。
 その巨大な体躯は尻尾までいれると五十メートルくらいあるんじゃないだろうか。
 背中には巨大な翼の様なものもある。
 巨大な口は人間なんて一飲みに出来そうだ。
 長く鋭い爪は一メートルくらいあるだろう。
 硬く厚そうな鱗も一枚が一メートルくらいある。
 象やクジラも比較にならない、それくらい巨大な生物だ。
 と、空気が震えた気がした。

 ――我の眠りを妨げるのは誰じゃ――

 突然そんな声が頭に響いた。
 耳じゃなく、頭に直接伝わる感じだろうか。

「魔法での会話、念話テレパシーよ。ドラゴンは声帯を持っていない。だから普通に喋ることは出来ないの。でも知能は人間以上、そして魔法も使える。もっとも本から得た知識だから、どこまで正確かはわからないけどね」

 マリスさまが知ってる知識を披露してくれた。
 チトちゃんも聞こえた? と聴くと、聴こえましたと頷いている。

 ――村の民かと思うたが違うようじゃな? 我に何か用か?――

 マリスさまが一歩前に出た。
 胸を張り手を腰に当てて、仁王立ちで構えている。

「ちょっと聴きたいんだけど、あなた『古代の六宝具』の一つを持っているわよね? それは何かしら? ものによったらちょっと借りたいんだけど」

 ドラゴンの金の双眸がギロリとマリスさまに向いた。

 ――突然やってきたと思えば、熟眠の邪魔をし、不躾に要求を突き付けてくるか……、面白い小娘じゃ。一思いに喰らってやってもよいが、すこし礼儀を教えようか、まずは我にひざまずくがよい――

 頭の声が途絶えたかと思ったら、ドラゴンがゆっくり大きく口を持ち上げた。

「咆哮が来るわよ! ドラゴンの咆哮は心を砕くと言われているわ、気をしっかり持ちなさい! チトは首のチャームを強く握りしめて!」

 マリスさまの言葉が終わると同時に、ドラゴンが大きく吼えた。
 それは嵐と地鳴りと雷鳴が重奏しているような途轍もない轟音だ。
 心臓が握りつぶされるような感覚に襲われる。
 苦しくて辛くて恐怖で身体がガクガクと震え、僕は立っていられなくて、その場で膝を付いた。
 ち、チトちゃんは、マリスさまは大丈夫だろうか?
 僕はあまりの恐怖に閉じた瞼を持ち上げることは出来なかった。
 やがて嵐が去っていくように、ドラゴンの咆哮は収まった。
 だけど巨大な空洞は少し揺れているようだ。
 僕はなんとか瞼をこじ開けた。
 チトちゃんは首元のチャームを握りしめて、怖かったと震えている。
 マリスさまは一歩も引かず、僕の前でしっかり仁王立ちのままだ。
 それに引き換え僕は四つん這いの状態だった。

 ――ほう……我の咆哮を膝を屈することなく平然としのぐか。本来ならその男の様に情けない姿を晒すものだがな……、とりあえず褒めてやろう――
「あんたに褒めて貰っても嬉しくないのよ。それよりわたしの質問に答えなさい」
 ――どこまでも不遜な小娘じゃな。しかし気に入った。我の願いを叶えてくれるならばその問いに答えよう――
「願いってなによ!」
 ――我には幼き娘がおる。キキよ出てきなさい――

 ドラゴンが呼ぶとお腹のあたりから、もぞもぞと何かが這い出てきた。
 丸くてふわふわした物体だ。
 大きさは人間が膝を抱えて丸くなったくらいだろうか。

 ――我の娘だ。まだ鱗も生えておらぬから初毛に覆われておる――

 チトちゃんが「可愛いぃ!」と駆け寄ろうとした。
 それをドラゴンの前脚が止めた。

 ――近寄ってくれるな! 可愛いと言ってくれるのは嬉しいが、娘は病に侵されておる。そのせいで目が見えなくなり、酷く臆病になっておるのじゃ――

 子ドラゴンの両目を見れば、瞼は開いてはいるけれど、その瞳は白濁としていた。
 その小さな丸い身体は小刻みにブルブルと震えている。

「それで、願いはその眼を治せってこと?」
 ――そこに深い縦穴があるじゃろう。その縦穴の途中に妖精花が咲いておる。その妖精花を摘んできてほしいのじゃ――
「妖精花っていえばエリクサーの材料になるのよね?」
 ――そうじゃ――

 僕の知らない言葉が出てきた。話を折る様で悪いけど、僕は質問する。

「エリクサーとか妖精花ってなに?」
「エリクサーは最上級回復ポーションよ。死以外のどんな状態も完全に元に戻す万能薬。妖精花は薬草の一種、ただ普通の薬草のように群生したりはせず、決まった場所に妖精が気まぐれで咲かせると言われている。だからとても希少らしい」

 なるほど、その妖精花を使ってエリクサーという薬を作って眼を治すのか。

「でもその縦穴は狭すぎて自分では採りに行けない。だからここで見張っていたわけね」
 ――その通りじゃ。ここに妖精花が咲くことは薬師の間では知られた事。しかし場所が場所だけに採りに来る者はいない。そうして待ち続けてお主たちがやってきた。これは何かの巡り合わせじゃろう――
「あんたがこんなことを棲み処にしてるから誰もこないのよ……」
 ――なるほど、言われて見ればそうかもしれん……、しかし我がこうしてこの山を棲み処にしているお陰で人間に害するモンスターも居なくなった。苦も無く来れるはずじゃがのう?――
 マリスさまは呆れたように笑う。

「千のモンスターとあんた、どっちが怖いかってはなしよね……」
 ――ふむ、……しかしお主たちはこうしてやってきた。それで我の願いを聴いてくれるのか否か?――
「場所次第ね、ちょっと見せてもらうわよ」

 マリスさまはその縦穴を上から覗いた。

「深いわね、途中に咲く花って、あの小さな青い花?」
 ――そうじゃ。採れるか?――
「そうね、キルナに行かせてもいいんだけど、わたしが魔力糸で採るほうが簡単だし早いわね」

 言ってる傍からマリスさまは魔力の糸を穴の中に伸ばして、青い花を一輪摘まんで引き寄せた。
 それをドラゴンの鼻先に付きつけて、

「ほら採ったわよ、どうぞ」

 ドラゴンが ムムッと眉間あたりに皺を寄せる。

 ――花だけを我に渡してどうしろと言うのじゃ。エリクサーを造って娘の眼を治せ――

 今度はマリスさまが蟀谷こめかみに縦筋を作った。

「わたしは薬師じゃないのよ、エリクサーなんて作れるはずないでしょ!」
 ――我の願いは娘の眼を治すことじゃ、花を摘むことではない――
「あんたが採ってこいって言うから採ってきたんでしょうが!」

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...