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き、き、キス……うぅぅぅ
しおりを挟むマリスさまとドラゴンが口喧嘩を始めてしまった。
「トカゲの分際で生意気なのよ!」
――だれがトカゲだ。我は偉大なるエルダードラゴンじゃ!――
「エルダーだかショルダーだか知らないけど、トカゲには違いないでしょ!」
――だからトカゲではないと言っておるだろうが、舐めた口を聞いていると終いには喰ってしまうぞ!――
「そんなこと言ってていいの? あんたの娘の眼、わたし治せるんだけど?」
――薬師でないお前がどうやって治すと言うのじゃ?――
「だってわたし女神だしィ、全治癒魔法だって使えるしィ」
――女神じゃと、ふざけたことをぬかしおる。治せるというなら治してみよ――
「治してみよじゃないでしょ、治して下さい女神さまでしょ?」
――もし治せたら足の裏でも甲でも舐めてやるわい――
「いらないわよ! 汚いわねぇ……その代わりあんたが持ってるお宝よこしなさいよ?」
――いいじゃろう。もし治せたら貴様にくれてやるわ――
「最初からそう言いなさいよ、っとに面倒臭いわね……」
マリスさまはぶつぶつ言いながら小さなドラゴンに近づいて行った。
子ドラゴンは怯える様に後退っている。
「ちょっと、チビをじっとさせなさい」
――何をする気じゃ?――
「わたしは全治癒魔法が使えるって言ったでしょ。でも今は魔力が少ないから長時間の行使はできなくて、何度かに分けて行使しないといけない。でも両目だけなら短い時間で可能なはずだから、ちょっと診せてといっているの」
――本当に治せるのだろうな?――
「当然でしょ、わたしを誰だと思っているの」
――お主のような小娘の事など知らんわ――
「ふん、偉そうに…… とりあえず、ちゃっちゃって治すからじっとさせなさい」
――ふむ、キキよ、少しの間だけ辛抱せよ――
くぅ~ん
子ドラゴンは怯える様に小声で鳴いた。
マリスさまはキキと呼ばれた小さなドラゴンの前に立った。
「キルナ、わたしの後ろに来なさい」
「え、どうして?」
「いちいち聞き返すな。あんたは言われた通りにすればいいの」
僕は奴隷ですか……。
仕方なく僕はマリスさまの後ろに立った。
「とりあえずこのチビの状態を視てみるわ、【天眼】」
マリスさまが魔法の言葉を呟いた。
「どう?」
「眼以外に異常は無いようね、これなら一回の全治癒で可能。でも魔力を満タンにしてからね」
マリスさまは僕の首筋に噛みついた。
ちょ! こんな人前で止めてよ……、むにゅ、って胸が……
――こ、こら! いきなり何をしておるッ――
「あわわ……」
ドラゴンとチトちゃんが驚きの声をあげた。
――お、お主ら、小さな娘の前で破廉恥なことはよさぬかッ――
「ま、マリスさまとキルナさんが、き、き、キス……うぅぅぅ」
「ちょっと、チト、なに言ってるの? 少しマナを吸っただけよ? そこのトカゲも破廉恥とか言うなッ!」
マリスさまは必至で言い訳した。
「全治癒は大量の魔力がいるの。今のわたしじゃ魔力を満タンにしないと、完治させられない。だからキルナから魔力を貰っただけ、変な誤解はよしなさい」
「で、でも、き、キスしてるようにしか、見えませんでした……」
「だから、違うから、キスとかありえないから。よく見てなさい、こうして首筋を噛んでるだけだから」
そう言いながらまたマリスさまは僕の首筋に噛みついて来る。
むにゅ、あぁ胸が……。むにゅってなってる。あぁ柔らかい。あぁ動かないで……。
とりあえず、チトちゃんとドラゴンの誤解は解けたのかな?
でもマリスさまの魔力は満タンになったそうだ。
なのでさっそく子ドラゴンの眼を治すと言った。
マリスさまは手を差し伸ばし子ドラゴンの両目にかざした。
「真っ暗な闇は怖かったでしょうね。でも今治してあげるわ。だから少しだけじっとしてなさい」
マリスさまらしくない優しい声音だ。その表情も慈愛に満ちている。本当に女神さまなんだと実感させられる。
「……我が内なる全魔力を癒しの力に変える【全治癒】!」
とたん、マリスさまの全身が光り輝いた。
その光が両手に集束されていき、そのまま子ドラゴンの眼に光が吸い込まれた。
子ドラゴンは恐怖したのか、開いていた瞼を強く閉じてしまった。
強く輝いていた光は、次第に淡く静かに薄れていった。
同時にマリスさまの膝がガクリと崩れた。
「あッ!」
僕は慌ててマリスさまに手を差し伸べた。
すんでのところでその華奢な身体を抱きかかえることが出来た。
「上出来よ、このまま魔力を吸わせてと言いたいところだけど、また変に誤解させるのもあれだし、ちょっとこのまま抱えてて……」
って、これお姫様抱っこだよ。
すごく恥ずかしいです。降ろしちゃだめですか。
マリスさまの身体は完全に力が抜けきっている。
今降ろせば間違いなく立つことも出来ないだろう。
仕方ないので、僕はそのままお姫様抱っこを続けることにした。
チトちゃんが僕たちをジト目で見ている。
誤解だよ、そんな目で見ないで……。
マリスさまはそんなことを気にした様子もなく子ドラゴンに囁きかけた。
「眼を開けてごらんなさい」
マリスさまはさっきのように優しい声で告げる。
それでも子ドラゴンはブルブルと震えて眼を開こうとしない。
――キキよ、眼を開けてみよ――
くぅ~ん
脅えた様な鳴き声だった。
怖いよぉ。僕にはそう聴こえた。
「仕方ないわね、まだ搾りかす程も回復してないんだけど……【強心】」
それはたしか勇気が出る魔法。
一瞬だけ、子ドラゴンの産毛が波打った気がした。
「さぁ、勇気をだして、眼をあけなさい……」
マリスさまの弱弱しい声が子ドラゴンの耳を震わせた。
子ドラゴンの瞼が小刻みに震えながらゆっくり持ち上がる。
そこにあるのは白濁とした球体ではなく、金色に輝く生きた眼球だった。
縦に長い長円瞳孔は猫の様で、どことなく愛嬌があって可愛らしい。
瞼がパチリパチリと開閉を繰り返し、金の瞳がくるくると動く。
くぅん、くぅん、くぅ~~ん、と子ドラゴンが鳴いている。
――おぉ、見えるのか? 見えるのだな? おぉ、我が子よ、キキよ、本当に見えるのじゃな? おぉ、よかった、本当によかった――
巨大なエルダードラゴンの眼にも涙が浮かんでいた。
その眼が僕たちに向けられる。
――人間よ、礼を言うぞ。よくぞ我が愛する娘の眼を治してくれた。お主の願い聞き遂げよう――
「その言葉を待っていたのよ。さぁあんたが所持する宝物は何?」
――我が所持しているモノは『解呪の珠玉』じゃ、欲しければ与えよう――
「えっ、まさか本当に『解呪の珠玉』なの? なんて運が良いんでしょう。わたしが欲しかったのはまさにそれよ、さっさとよこしなさい!」
――せっかちな小娘じゃ、ほれ持っていけ――
僕たちはドラゴンから『解呪の珠玉』を受け取った。
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