堕女神と異世界ゆるり旅

雨模 様

文字の大きさ
37 / 37

僕は元の世界に戻った

しおりを挟む

 マリスさまはドラゴンがら受け取った『解呪の珠玉』をしげしげと眺めている。
 それは径が二十センチくらいの丸い水晶球で、細い銀柱で組まれた立体六芒星の中に納まっている感じだ。

「濃い魔力が篭められてる。間違いなく神の手によって作られたものね」
「見ただけでわかるものなの?」
「見ただけじゃなく、ちゃんと触ってるじゃない? 触れれば篭められた魔力も感じることができる。これほどの魔力を篭めることが出来る人間なんていないわ」

 マリスさまが断言する。
 まぁ僕にはわからないので信用するしかないんだけど、マリスさまが言うと、凄いものなのかなって思えるから不思議だ。

「さぁ、目的の物が手に入ったことだし、とりあえず引き上げましょうか」

 マリスさまは、もうドラゴンには用無しというように、ドラゴンに対して「じゃぁね」と手をひらひらと振っている。
 僕とチトちゃんは恐る恐るドラゴンにお礼を言った。
 ドラゴンは、――礼には及ばん。感謝するのはこちらの方じゃ――、と言ってくれた。
 怖かったけど、少し別れを惜しみつつ、僕たちはドラゴンに別れを告げて大空洞を後にした。
 狭い洞窟を抜けると僕たちは馬車を残して来た開かれた場所にでた。

「さて、洞窟も抜けたし、この辺りで解呪を試してみようかしら」

 マリスさまは【解呪の珠玉】を地面に置いて、僕とチトちゃんに少し離れる様に言った。
 そして透き通る水晶球に向かって聞いたことのない言葉を早口で呟き始めた。
 何を言っているのか全然わからない。でもすごく神聖で荘厳な響きに感じる。神さま世界の言葉なのかもしれないと思った。

 すると地面に置かれた水晶球に黒いシミが浮かび始めた。
 黒いシミはどんどんおおきくなり、やがて水晶球から溢れ出し、黒い霧となって周囲に広がった。
 そしてマリスさまの身体が黒い霧の中に消える。
 いつの間にかマリスさまの不思議な呟きは止んでいた。
 …………。
 そして黒い霧が晴れると、少し疲れた様なマリスさまがそこに居た。

「ふぅ」

 マリスさまが小さな吐息を零した。

「終わったは、解呪は成功よ。見なさい、この溢れる魔力」

 見るとマリスさまが蒼白いオーラに包まれていた。

「もうどんな魔法も使い放題、今なら次元の壁を越えて元の神界に帰ることも可能なはずよ」

 マリスさまはすごく嬉しそうに語っている。

「とりあえず一度、神界に戻って来るわ。こんな目に合わせた大神にも文句を言いたいしね。まぁちょっとだけここで待ってて頂戴」

 マリスさまはそう言って目元でピースサインを作る。

「それじゃぁね、【次元転移】」

 その言葉が言い終わると同時に、目の前の空間に黒い穴が浮かび上がった。
 穴の奥は深い闇が広がっている。

「それじゃぁ行ってくるわ。また後でね」

 言うなりマリスさまはその黒い穴に飛び込んでしまった。
 僕とチトちゃんは声を掛ける暇すらなかった。

「ちょ、ちょっと!」「マリスさま……」

 僕たちの口から同時にそんな言葉が零れていた。
 次の瞬間、閉じかけていた黒い穴が再び大きく広がった。
 そしてその穴からマリスさまが飛び出してきた。

「おっとと、ただいま、一瞬だったでしょ?」
「え、どういうこと、もう行ってきたの? まだ数秒と経ってないよ?」
「次元を越えての転移だからね」
「意味がわからないよ」
「もう、面倒臭いわね……、次元を越えるってことは、異次元に行くってことで時間を進むわけでも逆行するわけでもないの。そもそも自分が存在する時間ばしょって決まっているの。私は今の時から移動したけど、向こうで何時間経とうが、戻る場所は同じ時間なの? わかる」
「よくわからないよ……」
「だから時空を越えたわけじゃないってこと」
「う~ん……」
「理解できないなら聞くなッ!」

 パチンとデコピンをされた。

「それより、キルナは本当に戻らなくていいの? 今なら特別にただで戻してあげるわよ?」

 僕は返事に詰まった。
 簡単に元の世界に戻るとか考えられない。
 僕はこの異世界が気に入っている。
 いや、マリスさまとチトちゃんと三人の暮らしが気に入っている。
 この平穏じゃないけど充実した日々を捨てたくない。
 そんな僕にマリスさまは言う。

「何を考えているのかしらないけど、元の世界に戻ったからって、私がいればまたここに戻ってこれるわよ? まぁそれはキルナの気持ち次第だけどね」
「え、また戻ってくれるの?」
「一回だけならね。どうする? そのまま元の世界で生きるのもいいし、こちらに帰ってきて私たちと一生こっちで過ごすものキルナの自由よ」
「一回だけなの?」
「えぇ、次元を越えるのは身心に掛かる負荷が大きいわ。何度も行えば身心のどこかに異常をきたす」

 それは怖いな。
 実際にどんな異常があるのか知りたいけど、知れば一回のチャンスもやりたくなくなるかもしれない。だから聞かないでおこう。

「じゃぁ一度だけ帰りたい。親しい人がいるわけじゃないけど、両親とか友達とか、ちゃんとお別れの挨拶がしたい」

 僕がそう言うと、チトちゃんは悲し気な目で見上げてきた。
 僕はチトちゃんの前に腰を降ろして目線を合わせた。

「僕もマリスさまみたいに、すぐに戻ってくるから」
「本当に? 約束してくれますか?」
「うん、約束する」

 僕を小指をだしてチトちゃんと指切りをした。

「それじゃあ、マリスさま、お願いしていいかな?」
「いいけど、そのまえに何か置いていきなさい」
「え、どういうこと?」
「いちいち説明させるな。キルナは黙って言うことを聞いていればいいのよ」
「そんな理不尽な……、理由くらい説明してよ」
「もう……ほんとうに面倒臭いわね。じゃあ一度しか言わないからよく聞きなさいよ? あんたが向こうの世界に戻った後、どうやってこっちに戻る気? 自分でこっちに戻ってこれないでしょ。戻る時も私が魔法で呼び戻さないといけないの。それにはキルナを強く感じる物が必要なの、わかる?」
「んー言ってる意味はなんとなく分かるきがする」
「だったら、さっさと何かだしなさい?」
「なにかって……じゃあチトちゃんに渡した時みたいにお金でいい?」

 僕は言いながらポケットから小銭入れを取り出した。
 蓋を開けて一〇〇円玉を取り出そうとしたけど、マリスさまが「それは無理」と止めた。

「コインじゃたいしてキルナを感じられない。もっと肌に直接触れていた物じゃないと次元を越えたあんたを感じることは出来ないと思う」
「そんな物持ってないよ」
「あるわよ、キルナを強く感じる物……あんたのパンツ」
「はぁ? 僕のパンツ?」
「だって、肌身離さずずっと持ってるもってパンツが一番長いじゃない?」
「とにかく、少しでもキルナを強く感じられないと、探すのが大変なの。次元の壁はそれだけ厚いという事なのよ。嫌だって言うなら、戻ることは諦めなさい」
「ええっ、なんでそうなるのさ」
「仕方がないでしょ。簡単な魔法じゃないんだから、文句があるなら自分で行って帰ってきなさいよ」
「そんな無茶苦茶な……わかったよパンツを渡せばいいんだろ……」

 僕は仕方なくパンツを脱いでマリスさまに渡した。
 マリスさまはそれを細い指で摘まんだ。
 そして顔を歪めて汚い物でも見る様な目で見つめている。
 …………。

 そして僕は元の世界に戻った。
 戻った場所は、僕が消えた丘の上だった。
 時間は夜、珍しく辺りに人がいる。
 こんな丘の上にこんな時間に何をしてるんだろう……、まぁいいけど。

 僕は家に帰って両親に別れを告げた。
 両親は何を言っているの? とまったく相手にしていなかった。
 だから僕は両親あてに手紙を書いて部屋の机の上に残すことにした。
 書いた内容は、

『お父さん、お母さん、突然ですが今まで育ててくれてありがとう。僕は自分が生きていく世界を見つけました。なのでこの家を出ていきます。絶対に見つからないと思うので探さないでください。ちなみに自殺とかではないので心配しないでください。それではさようなら。お元気で。
                                キルナ』

 そして僕は大好きなゲームにログインした。
 唯一の友達である一人の女の子と連絡を取るために。

「やぁ久しぶり」
「え、久しぶりって、さっきまた後でねって言ったばかりじゃない」

 そっか、転移した時間にと場所に戻るって言ってたけど、こういうことなんだ。

「ちょっと急なんだけど、報告があるんだ」
「なーに?」
「もうゲームにログインできなくなるんだ。だからこうして話し出来るのも今日が最後なんだ」
「え、どうして? なにかあったの?」
「うん、ちょっと急に引っ越しすることになってね、ネットとか繋げない場所なんだ」
「そうなんだ。寂しいな。ナルさんは唯一の友達だったのに」

 ナルというのは僕のゲームでの名前だ。
 まさか彼女から唯一の友達だったなんた言われるとは思わなかった。
 そんな風に言われると別れるのが辛くなる。
 これ以上話ししていたらダメだ。本当に別れられなくなる。

「ごめんね、そういう訳だから落ちるね。さようなら元気でね」
「うん、ナルさんも元気で、またどこかで会えたらいいな」

 そして僕はゲームからログアウトした。
 自分の気持ちが揺らぐ。
 僕が思い詰めていると、目の前に黒い穴が浮かび上がった。
 深い闇に繋がる黒い穴だ。
 マリスさまが呼んでいる気がした。
 僕はその穴に飛び込んだ。
 次の瞬間目の前に広がった風景は、ついさっきのままだった。

「ただいま」
「おかえり」「おかえりなさい~」
 チトちゃんが僕に飛びついてきた。
 僕はその小さな身体を抱きとめる。
 そんな僕にマリスさまが言った。

「ちょっとキルナ、あんたのこれ、イカ臭いわよ」
「ほ、ほっといてよ!」

 それは僕のパンツだった。

「さぁ、残りのドラゴンでも探しに行きましょうか」
「はい!」
「ええぇぇ、そんな危険なことはやめようよ」
「何言ってるのよ。どうせなら六つともお宝を頂くわよ」
「僕は平穏に暮らしたいだけなのに……」

 そして僕たちの旅は続く。
 この先なにがあっても離れたくないと思う。
 永遠に三人の旅が続きますように……。









 ここでこの物語は終わりです。
 ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
 また別の作品も読んで頂けると嬉しいです。m(__)m
しおりを挟む
感想 7

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(7件)

りんかい
2021.01.22 りんかい

あーもふもふしたいです!

解除
りんかい
2021.01.19 りんかい

吸血行為開始か?(笑)

解除
りんかい
2021.01.16 りんかい

この一行とまた出会いそうな予感がする

解除

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。