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3話最強(最狂)の剣の一振り

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鳥の囀りと共に意識が覚醒する。
目の前には天井らしき物が視界を埋め尽くしていた。
靄がかかっていた思考がゆっくりと晴れ渡り、今現在の状況が理解出来るようになってくる。

「……ここは、ベッドの上か…。なるほど、つまりあれか。隣にはさぞかし美人で可愛い女性が添い寝している異世界でのお約束展開ですか?さてさて、どんな美人さんがいるのかな?」

側から見れば気持ち悪い笑みを浮かべなが、隣にいるであろうまだ見ぬ異世界美人が添い寝しているであろう方向に体を向けながら視線を向ける。

「………いないんだが……」

右を見ても左を見ても異世界美人は存在しなかった。
何て俺に優しくない異世界だと不満を持ったが、居ないものは居ないのだから仕方がないと諦め、ゆっくりと体をベッドから起こす。

周りを見渡すと、大体6畳程度の広さの部屋で、木で出来た机と椅子が1セット設置されていて、壁には見た目からも分かる程、出来の悪い剣が壁に一振り飾られていた。

その部屋の隅には木で出来た丸太にこれもまた出来の悪そうな剣が乱雑に数本立てかけられている。
床には恐らく剣の素材らしき鉄の様な物体がいくつか落ちているのを視界に捉えると、ある1つの答えに辿り着く。

「…ここって、もしかして剣なんかを作製、販売しているいわゆる武器、鍛冶屋なのか?」

ベッドから降りて立ち上がると、床に落ちている素材を手に取り、この建物が何なのか予想する。

晶はその素材を机にコトリと小さな音をたてながら置き、扉へと足を向け歩き出す。

キィィィっと音を立てながら扉をゆっくりと開け、視界に下へと続く階段を捉える。

手すりに手を預けながら、階段をギシギシと木が軋む音と共に降りてゆく。
すると、そこには沢山の剣や槍などが棚や壁に陳列されており、その他にも防具等も幾つか陳列されていた。

別の部屋には剣を作る工房も併設されており、予想していた事がだんだんと真実へと確信していく。

「…やっぱりだ。ここは、剣等を製作、販売出来る店か。つまりあれか?俺が2階で寝ていたと言う事はここは俺の店って事だよな?ほほぅ。あの女神も粋な真似をするじゃないか。にしても、姿形すら前の俺と同じなのか。別にイケメン転生でも良かったんだけど、まぁいいか。さて、では手始めに女神に貰った能力を使って刀剣を作ってみるとしますか」

晶は女神との会話を思い出しながら考えを頭の中で纏める。

「確か、思い描いた刀剣を魔力を使って製作出来ると言っていたよな?魔力…魔力ね。ふむ。どう使うか分からないが、まぁ取り敢えずやってみるか。記念すべき異世界最初の刀剣製作だからな。最強の一振りの刀剣とか作ってみるべきか。それも世界を破滅させるぐらいの能力を持った刀剣なんかを。…なんてな」

そう口から出た言葉と共に晶の手が金色に輝きだした。
その光は今まで体験した事がない程の輝きを放ち、体から魔力らしきものがどんどん消費され、体から力が抜けていく。

数秒後、眩い光を放っていた金色の光は消失し、手には今まで無かった重さを感じ、体勢が崩れる。

手には光り輝く刀が現れており、その重みに体勢が保てず、手から刀がするりとこぼれ落ちる。

その刀は床へと自由落下し、ドシンと重みのある音を立てる。

すると刀から眩い光が放出されると共に晶は意識を手放した。



「……あんた…なんて事してんのよ…」

意識を取り戻し、最初に聞こえてきた声は最近聞いた覚えのある声だった。

晶は声のする方向へと視線を向けると、そこにはやはり数分前に邂逅した女神ディーバだった。

「……一体…何が起こった…?」

今の現実に訳が分からず、混乱する。
すると呆れ返った表情を向ける女神ディーバが、まるでゴミを見る様な冷ややかな視線を晶に向けながらため息を吐く。

「…あんた、どういうイメージをして刀剣を作製したのよ?」

「…いや、どういうイメージって言われても、最強の一振りの刀剣を作製したつもりだけど…」

「…本当にそれだけ?他に何もない?」

女神に更なる質問をぶつけられ、晶は過去の記憶を遡る。

「………あ」

「…思い出したようね。で、何をイメージしたの?」

「……世界を破滅させるぐらいの能力を持った刀剣って言った記憶がある…。だが、あれは冗談みたいな感じであって…」

「…そのイメージが冗談と認識されずに作製されたのよ。そして、あんたはその世界を破滅させる能力のある刀剣を無闇に落とした。それが一振りにカウントされて能力が発動したってわけ。つまり、あんたは異世界を1つ破滅させたって事よ。確かにつまらない世界に変革をって事であんたを異世界に送ったけど、こんな変革…いえ破滅を望んだつもりはないんだけど?」

「…………」

あまりの衝撃に言葉が出ない。
女神ディーバから説明されても頭の中で整理が出来ずにいる。
しかし、1つだけ分かったのは、俺が一瞬で異世界を破滅させてしまったと言う事実だった。
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