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5話 リーベルト公爵家との邂逅

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「…うぅ……ああぁぁっ……」

傭兵風の人物との戦闘を終えたリューグは、突然呻き声を上げながらその場に膝をつく。

顔は苦悶に歪み、右手で服を握り締めながら痛みを堪えるかの様に胸をおさえる。
その様子を馬車の中で見ていたアウギスは馬車の扉を開け、膝をつき苦しんでいるリューグに駆け寄る。
それに続く様にナナリーとリリスも馬車を降り、リューグの側へと駆け寄り、心配そうな表情を浮かべる。

「大丈夫か君!?何処か怪我をしたか!?」

「……ぐっ……や、やめ…ろ……」

リューグの中に巣食う魔神の魂がリューグの意識と聖神の魂を侵食しようと蠢く。

意識は漆黒の闇に呑み込まれながらも、リューグはその意識を全て手放さないように抗う。

「…あああああぁぁぁぁっ!!!」

空に向かってリューグが叫ぶ。



『よこせ。お前の全てを我に委ねよ』


リューグの中で声が反響する。
それは深く、漆黒の悪意が見え隠れする。


「…だれ…が…お前…なん…か…に……」


一瞬たりとも油断出来ない魔神の侵食。
リューグは、丹田に力を入れて腹の底から声を絞り出す。



『……我を拒絶し、抗うか。まぁよい。今回は引いてやる。だが、覚えておくがいい』



『我は必ずお前の存在と聖神の魂を喰らうとな』



悪意に染まる漆黒の囁きはそう言い残すと、霧散するかのように消滅した。

それと同時にリューグを侵食していた魔神の魂は、引き潮の如く徐々に元の位置へと戻る。


「っ、はぁはぁはぁ……」

胸を締め付ける痛みが治まり、体が酸素を求めて荒い呼吸をする。

時間が経つにつれ少しずつ呼吸も安定し、リューグはゆっくりと地面から立ち上がる。

だが、急に立ち上がった影響か、体がフラつきバランスを崩す。
それに気づいたアウギスは倒れそうになるリューグを両腕でしっかり支える。

「…すみません、ありがとうございます」

「いや、謝る必要はない。それに私たちは君に感謝しているのだから。危ない所を助けてくれてありがとう」

「……………え……?」

「?どうしたのだ?不思議そうな顔をしているみたいだが?」

リューグの反応に疑問を抱くアウギス。

「……感謝なんてされるとは思っていなかったから…」

「…何故そう思ったのだ?君は私達を助けた。感謝されるのは至極当然ではないかね?」

「………今まで感謝された事がなかったから。いや、違う。僕は感謝されるような存在じゃないから…。だから……」

小さく震える声でぽつりと言葉を溢す。
瞳には透明な涙が溢れ、今にもこぼれ落ちそうな状態だった。

そんな悲しそうな表情に、アウギスは言葉を失う。


一体何があったのか?


この少年に一体どんな過去があるのか?


着ている服、薄汚れたボサボサの髪


そしてなにより


透き通る蒼色の右眼と、赤黒く光る左眼


私達が想像する以上の何かがあるのだろうとアウギスは目の前の少年を複雑な表情で見つめたのだった。






















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