上 下
7 / 20
無気力転生者、村を出る

5

しおりを挟む
 

 嫌な予感というか、フラグは立てたら負けっていうか。


「父さん、俺達帰っていい?」
「何言ってるんだ。せっかく此処まで来たのに。
もうすぐだぞ~、ほら見えて来た。あの洞窟の中に祠があるはずだ」


 鍾乳洞だって、ライトアップされていなければ恐い思う。
 それなのに魔物が存在する世界の洞窟とか………怪我しに行く様なもんじゃないかっ。

 不気味な空気が漂ってるんですけど。お家帰りたい。
戦闘力ゼロだよ。だって戦闘スキルなんて、お願いしてないもん。普通に田舎で暮らして、老衰で死ぬつもりだし。物騒なスキル要らねーもんっ!
 そもそも、衣食住のスキルすら本当に貰えてるのか分かんねー。
 なんたって田舎の村だからね。スキル鑑定出来る場所なんてねーからっ!


 しかし、俺がぐだぐだ考えているうちに洞窟は目の前に。


「無常だ」
「……お前、たまに渋い言葉つかうよな。カリナに教えられたのか?」
「父さん、ハルトは昔からジジ臭いよ」


 いや。おたくら何で平気なの。 
 出るって、絶対なんか出るって。絶対なんか出るやつだよ。アレ!


「よし、じゃあ入るぞー」


 ギャア───!! 
 父さん行っちゃったよ、おい。
せめてもっと武装してから進んでくれ。


「はあ~めんどくせっ。俺達も行くぞ」
「えっ、兄さんマジで? 勇者なの?」






 帰りたい帰りたい帰りたい。
 マジで恐怖しかない。ひんやりした空気がより恐い。


「ん~、おかしいなぁ」
「どうしたんだ?」
「たしかこの辺に祠があったはずなんだが………」
「父さんの記憶違いだろ。
あと10分探してなかったら戻ろう」


 ナイス兄さん。10分と言わず、3秒で戻ろう。
 あと父さん、帰ったら母さんに告げ口してやるかんな。


「仕方ないか、様子も少し変だしな。
ふぅ~。この洞窟は祠用で、こんなに広くは作られてないはずなんだが」


 もう15分は歩いてますけど?
 驚きの広さだよ、この洞窟。様子が変どころじゃないじゃん。別物って言うんだよ、それは。


「入る洞窟を間違えたんじゃない。ハルトもそう思うだろ?」
「そうだね。帰ろう、今すぐに」


 首をブンブン振って全力で肯定したけど、ウチのバカ親父は聞く耳を持ってくれない。


「いや、洞窟は此処で間違いない。
いったい誰が拡張したんだろうな。祠まで移動させるなんて。ハッハッハ」
「「っんなわけねーだろっっ!!」」


 知らなかった。
まさか父さんが、ここまでバカだったなんて。
 この村生まれ、村育ちのくせに、今に至るまで気付かないわけがない。


「──ハルト、何してるんだ?」
「何って、父さんのバカさ加減をだな……って、え?」
「ハルト! 下がれっ!」


 物凄い勢いで襟を引っ張れ、俺は兄さんの後ろで尻もちをつくはめになった。


「よせっ! 剣を下ろすんだ、カルロ」
「何言ってんだ、今ハルトが襲われかけたんだぞ!」


 んん?
 殺気立って俺を守ろうとしてくれる兄、イケメン。
誰だか分かってる父さんは、冷や汗かいてるけど。


「クロ、何でこんなとこにいるんだ?」
「ハルト、逃げ………は、え。くろ? くろって、あのクロ?」


 話しかけて来た相手はクロだった。
まさかすぎる。だがホッとした。ありがとうクロ!

 兄さんっ。3ヶ月越しに念願のクロに会えたのに………ファーストコンタクトがこれは酷い。つら。


「我の寝床に無断で入って来たのは、お前達の方だろう」
「ここに住んでたのか?」
「まあ寝る時はな。それで何用だ。我に会いに来たのか」


 ふっふっふ。尻尾が揺れているぞ、クロ。可愛い奴め。


「父さんに連れて来られた」
「…………そうか、我に会いに来たわけではないのだな」


 あっ。尻尾が下がった。


「そうだ、クロ。兄さんを紹介するよ!
前に王都の騎士学校に通ってるって言った、兄さんのカルロだ。
で、兄さん。この偉そうなのが、クロ」


 あれ。兄さん固まってる。
 とりあえず、剣を下ろそうか。危ないから。


「兄さん?」
「あー、ハルト、しばらくそっとしてあげなさい」
「??」


 固まる兄さんを見て、父さんは「やれやれ」みたいな感じで肩を叩いてくる。
 ナニ。この俺だけが分かってない感。


 体感5分後。兄さんは、ブツブツ言いながら復活した。
 でも剣は下ろさない。何故だ。


「兄さん、剣がちょっと危ない。クロが恐がっちゃうだろ」
「フンっ。我がこんな小物を恐がるものか!」


 こらクロ。くだらない意地を張っちゃダメだぞ。
剣なんて向けられたら恐いだろ?
俺だったらチビるね。


「なあ、兄さんってば。父さんも何か言ってよ。クロが可哀想だ」
「そうだな。カルロ、下ろせ。命はないぞ」
「んん? 何その物騒な脅し!
兄さん、いったん下ろそ?」


 父さんに同意を求めたら、想像の100倍ぶっ飛んだ言葉が出てきた。
 そして兄さんは、頑なすぎる。意味が分からん。


「無礼な小僧だ。ハルトの血縁でなければ八つ裂きにしてやったものを」


 はい、アウトー。今の発言は拙かったねー。


「黙れ。ハルトに近付くな! 魔物が!」


 って、あれー?
 ちょっと兄さん?


「なにぃっ!?
我が魔物だとっ! 無礼にも程があるぞ! 小僧っ!」
「あばばば。やめろ、カルロ。すぐ謝るんだ!」
「父さん! 何を言ってるんだ!
あんなヤツとハルトを今まで放っておいたなんて!
どうかしてるっ。桁違いの魔力が漏れて………化け物だ。Aランク、いやSランクの魔物だ。すぐに応援を呼んで、何とかしないとっ」


 わあ、パニック。てか、カオス?
しかも、えらい言われようなのに欠伸してるお前って……


「あ~クロ? 兄さんがゴメンな。
今日は母さんにお願いして、クロの好物を作ってもらうから」


 2人をよそに、クロの側に行って謝る。
するとクロは、スリッと足下に寄って来た。
そのまま抱き上げて、お尻をかいてやるとご機嫌だ。


「肉だな。肉が食いたい。
ブラッシングもだぞ。昼寝もするからな」
「はいはい、仰せのままに」




 そう言えば、俺達、何でココ来たんだっけ。




しおりを挟む

処理中です...