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無気力転生者、村を出る
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しおりを挟むふっるい手紙にグロウリア王家の印章なんて、絶対曰く付きだよ。
100%関わらない方が良い。
「そもそも兄さん、何でこの封蝋が王家の印章だって分かるんだよ。おかしくない」
「言われてみればそうだな。カルロ、何処かで見たのか」
「学校で見た。近衛騎士の合格者が持ってた書類に押されてたから」
それは、認めたくはないが、モノホンだ。きっと。
近衛騎士は王族直属だもの。
「父さん、見なかったことにしよう」
「ああ。そうだな」
「無駄な足掻きはやめておけ、ハルト。父さんもだぞ。
一応報告はすべきだと思う。領主か、もしくは騎士学校の総長に渡して、後はお任せすればいい」
「じゃあ兄さんがやってよ。誰でもいいから」
「いや、だが場所が場所だから、クロ様をどう伝えるかが………」
祠に挟まってました。で、よくね?
正直に話しても、頭沸いたと思われるから。
農民には荷が重いって。領主とか無理。泡吹く。
「兄さんが見つけたって言えば大丈夫」
「オレが? どうやって」
「祠を掃除しに来たとかさー。
いくらでも言いようがあるじゃん」
「まあ、クロ様の話をしても、呆れられるか、捕らえに来るかのどっちかだしな。
宿舎に戻ったら、先生経由で渡してもらうわ」
「うんうん。それが良い」
兄さん最高。全部やってくれるってさ。
そうぬか喜びした俺はバカだ。
だから、フラグは立てちゃいけないんだよ。
「ふむ。
中身は読まぬのか? ハルト宛だろう」
「「「…………………はい?」」」
「ほれ、宛名を読んでみろ」
え~、なになに?
──『女神に選ばれし、同志(社畜)へ』──
うん。違う。
まず俺、子供だから。社畜になりようがないのよ。
にしても、なんか懐かしさを感じる字だな~。
「なんだ、脅かすなよ。全然違うじゃん」
「おかしいな。この紙から、ハルトと似た気配を感じたんだが」
「いやいや、気配って」
「「………」」
ん? 父さん達、静かだな。
さては、今さらこの手紙のヤバさに気付いたのか。
王家はないよね。分かる。だってそれ、物語の主要人物の役目だし。村人Aには、荷が重すぎる。ヘタしたら、その場で打首もあり得るパターンだよ。恐ろしい。
「それにな、クロ。この手紙は明らかに古いんだよ。だから、手紙の相手もその時代の人だと思う」
「言われてみれば、そうだな。しかし、残存する魔力が似ているのは何故だ」
「気のせいじゃない?」
「むむ。我の感知能力を疑うのか!」
知らんがな。
「おい、ハルト。本当に知らないのか?
あるいは、お前がイタズラで隠したんじゃないだろうな」
「ナニソレ、心外なんですけど。
父さんは息子のことを何だと思ってるわけ」
「ほれみろ。父親もハルトを疑っているではないか。
やはり我を誤魔化すなど、100年早いわっ」
クロは黙っとけ。
ドヤ顔がムカつくな、おい。
「その、父さんは別に疑ってるわけではないんだ」
「今、イタズラとか言わなかったっけ?」
「それは、まあ、そうなんだが」
そうなんじゃん。兄さんまで、微妙そうな目で見るなよ。
可愛い弟だろ、俺。生まれ変わって10年も経つと、精神年齢だって子供に適応してきたし、暮らしにだって馴染みすぎてるぐらいじゃいっ。
「何? モジモジと気色悪い」
「読めないんだよ」
「何が」
「父さん達には読めないんだ。その手紙の宛名が」
読めない? グロウリア語なのに?
「だから、てっきり外国語だと思ったんだ。
それなのにお前があっさりと読むもんだから、父さんは混乱している。
いつ外国語を習ったんだ?」
「何言っんだよ。俺が字を習ったのは、母さんからで。
別に他の言語なんて、なあ? 兄さん」
これが外国語なわけないだろ。
村から出たことない俺が、違和感なく読めるのに?
「少なくともオレは知らない。それにシャチクって何だ?
シャチクという名前なのか?」
「社畜ってのは、会社に尽くしまくるっていうか、ブラック会社の働きバチってい………う、か」
まてよ、確かに変だ。
宛名なのに人名は書かれていないし、女神に選ばれたって、意味不明だ。
そうだ、おかしい。
違和感なく読めたって何だよ。
グロウリア語だったら違和感を感じるわけがない。
前提が間違ってる。
頭が無意識に拒否しようとして、ガンガン頭痛がする。
それでも、もう一度手紙に目を落とせば、答えは簡単だった。
「これ、日本語だ」
───パアァァッ
ぐ、眩しいっ。急に何が!
「うっ」
「「ハルトっ!!」」
「………ほう」
瞬間、手紙が閃光を放ち、視界はブラックアウトした。
必死な声で父さんと兄さんが俺を呼んだ気がしたけど、眩しすぎて見えんかった。ごめん。
「う~目がチカチカする」
「そう。でも慣れたのではなくて?」
「は」
何でこの人がいんの。
「ずいぶんと幼くなったのね、アサバ ハルト」
「かみ、さま」
「仮にも我に見えた身でありながら、教会に一度も足を運ばないとは。嘆かわしい」
「え? あ、え?」
「お陰で何の力も持たぬ、お前の父に神託をする羽目になったじゃない」
マジで理解が追いつかないんですけど。
何で神様がいんの。
もしかして俺、また死んだ?
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