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無気力転生者、うさ耳族と出会う

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「え~っと、ハルトです。こっちは、クロ」
「リーザよ。ごめんね、名乗りもせずに。
とにかくお礼しなきゃっ、と思って」
「いえいえ。クロの分までご馳走になって、ありがとうございます」
「いいの、いいの!
命の恩人なんだからっ」


 うさ耳美少女リーザさんは、エディンバラを拠点に活動しているソロの冒険者らしい。
14歳から始めて、今は17歳。
なんて危ない人生を送ってるんだろう。
何故その職業を選んだのかと、14歳のリーザさんに聞きたい。


「すごいですね。パーティー組まずに大変じゃないですか?」
「んー。私の場合は色々あって、まあ1人の方が気楽なの」
「なるほど?」


 冒険者というデンジャラスな職業を選ぶ人の心理は、わかるまい。
生い立ちとか、金銭的なものがあるのかもしれない。
だが、俺には関係ないし、推測してもわからないからいいや。


「……ねぇ、ステーキ残ってるけど、食べられそう?」


 食べる為に、今必死で細かく切ってるんです。
噛む回数を減らせる様に。


「もちろんです」
「無理しなくていいよ。私が食べるから」


 私が食べるだとっ。それって間接キ………はい、違いますよね。すみませんでした。
 爪が痛い。やめろ、クロ。
そもそもお前が、肉のスープが食いたいって言うからだな。


「あの、本当にすごく美味しいんです。
ただ胸焼けがどうしても」
「若いのに情けないわね。
お皿ちょうだい。食べてあげる」


 15歳、食欲旺盛、至って普通の若者ですが。
 リーザさんと2つしか違わないからね。
種族か? 種族の問題なのか?


「すみません」
「君ぐらいの子は、みんなペロッと食べてると思ってた。
口直しにデザートでも食べる?」


 獣人族の話だよな? 頼む、そうだと言ってくれ。
 あと、デザートは別腹派の人じゃないです。


「嬉しいんですが、やめときます」
「そう? 
おっちゃん、消化促進のお茶あったよねー」
「あるには、あるが……まさかリーザが飲むのか?!」
「いやいや、彼に」
「ああ」


 店員の驚きっぷりからの、俺見て納得。みたいな落差は何。
そこまで酷いのか。俺のもやしっぷりは。


「ほらよ、カミさん直伝の煎じ茶だ」
「ありがとうございます」


 香りだけでムカつきがスッキリする感じがする。
 世のサラリーマンにぜひ常備させてあげたい。


「あ、飲みやすい」
「うそ。すごい薬草臭いよ、それ」
「そうですか?」


 あっさりしたハーブティーっぽいけど。
 やっぱ、鼻が良いのかな。
クロも鼻隠してるし。


「それで、いつ立つ?
私、今依頼受けてないから、いつでも大丈夫よ」
「わあ、行く前提だ。
……気持ちだけで十分です。
ご飯も奢ってもらってますし」
「ダメよ。それじゃお礼にならないわ」


 シンプルにお金がない。察してくれ。


「クロもいますし」
「でも獣魔じゃないんでしょ?
それに馬車代も自分の分は出すわ」
「んー、そんなに持ち合わせがないので、荷馬車にでも乗せてもらおうとしてたんです。はい」


 つらい。馬車代も払えない田舎者だとバレてしまった。
 俺だって、可愛い女の子には見栄張りたい。
そういう年頃だから今。二度目の思春期迎えてるからさ。


「なんだ。だったら尚更私と行こう。
馬車は任せといて。道中の食事だって全部持つわ」


 何その大盤振る舞い。貴女は神か。


「護衛料って」
「バカね。お礼なのに、お金取るわけないでしょ」
「貴女が神か!」


 見栄とか何それ。
快適な旅に勝るものなし。ありがとうございます。
クロが冷たい目で見て来る気がするけど、気にしない。
お前だって、荷物と一緒に縮こまるより人と運ばれたいだろ。


「じゃあ決まりね!
早い方がいいなら、この後手続きしに行くけど」
「ぜひお願いしますっ」


 貴女の気が変わらないうちに!
 煎じ茶をぐいっと飲み干し、立ち上がる。


「ふふ。決まりね!
ギルドに報告して来るから、そうね~1時間後に広場で待ち合わせとか、どう?」
「了解です」
「食料とか必要そうな物は、用意しとくから」
「何から何まで、ありがとうございます!」


 さて、どうするか。
 至れり尽くせりすぎて、やる事ないしな。


「宿戻って、とりあえず身支度するか」
「身支度も何も、荷物全部持ってるじゃないか」


 しょうがないじゃないか。父さんが、荷物は全部まとめて移動しろって言うから。


「一応、今夜も泊めてもらうかもって言って出たから、一言伝えに行く」
「律儀だな。別に気にせんと思うが」
「いいんだよ。それに宿の人が、クロの事気に入ってただろ? サービスしてもらったんだからお礼言わないと」


 そう。昨日の夕飯に限らず、朝は有料のお湯までサービスしてくれたのだ。
おかげで、朝から顔も洗えて快適だった。
桶を渡してくれてるのに、1回もこっち見なかったけど。
視線はベッドのクロ一直線。逆によく溢さずに運んでくれたものだ。
 きっとお湯も、クロ見たさ50%、クロに朝風呂させてあげたい50%だったに違いない。
「洗顔用のお湯どうぞ」なんて言うから、違うんだろうなと思いつつ、言葉通り使ったよね。
 もちろん、自分の顔を洗うより先にクロの手入れをしたけど。
ホットタオルを作って毛並みに沿って拭いてやればこの仕上がり。


「む。なんだ、ジロジロと」
「ツヤツヤだなと思って」
「ふん、当然だ。その締まりのない顔をやめろ。気持ち悪いぞ」


 その高級毛並みは俺のおかげだろうが。
 どんなに疲れていてもブラッシングを欠かさない俺は、褒められて然るべきだ。


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