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Ⅱ.冬の静寂(しじま)
28 誕生日3
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「左じゃなくて右」
アルビーは、左の掌を上に向けて僕にさしだした。その上に右手を重ねる。なにかを握りこんでいるアルビーの右手が、手品でもしてみせるように僕の手をさらりと撫でて重なる。温かな熱をもったなにかを薬指に感じた。
種明かしの掌が開く。
銀色に輝く蜥蜴――。
小さな手足を這わして、くるりと尻尾を指に回して絡みついている銀の蜥蜴。約束の火蜥蜴。僕は涙が滲んできて必死に奥歯をくい縛った。
唇をひき結んでアルビーを見ると、彼は僕の反応が意外だったような顔をしていた。
「もっと喜んでくれるかと思ったのに」
残念そうに吐息を漏らしている。
「なんで蜥蜴?」
「だってコウ、カメレオンが好きだろ? いつも僕のコーヒーカップを嬉しそうに見ているじゃないか」
カメレオン? これ、カメレオンなの? そういえば、アルビーの専用マグカップに描かれている虹色のカメレオンに似てなくもない。この指輪の方が、もっとリアルでおしゃれな感じだけど――。
「そんなふうに、見えたかな……」
アルビーは、サラマンダーは本来火蜥蜴の姿をしているって知らないんだ。あの赤毛の人形とこの蜥蜴は、彼の中で繋がってない。単純に、僕が好きだと思った蜥蜴の指輪をくれたんだ。
「これ、アルビーが作ってくれたの? ありがとう」
やっと、にっこりと笑ってお礼を言えた。マリーにもちょっと自慢気に右手の甲を向けてみせる。
「今回ずいぶん時間がかかってたわね、アル」
マリーの呆れ声。マリーは、知っていたのか。
「二つ分だから」
アルビーがマリーに自分の右手の甲を向ける。
「え!」
僕は仰天してアルビーの横顔を見つめ、継いで、いきおい彼の右手を掴んでその長い指に嵌る指輪をまじまじと見つめた。
つきあってる、というのとは違うのかもしれないけれど、アルビーはマリーとキスするような仲だろ! 僕とお揃いの指輪を身につけるのはマズいだろ! それともそう思うのは僕だけ? 意識しすぎ? 二人ともそんなことは気にしないのかな?
困惑する僕をみてアルビーはくすりと笑い、そのままゴロリと間に置いてあったコシヒカリの米袋を枕にして半身を横たえる。
「アルビー、」
「しぃ!」
マリーは唇に指を立てている。
「食べ物を枕にするなんてダメだよ!」
若干声音を下げて囁くように言い、アルビーの頭の下の米袋を床におろして代わりに膝枕をしてあげた。
「あんたのそれを作るのに時間をとられて、ほとんど寝ていないのよ。ただでさえ、忙しい時期だったのに!」
マリーも声を押さえて囁いている。
マリーはお揃いの指輪だってこと、とくに気にしてないみたいだ。僕はほっとして、大した意味はないのだと思うことにした。アルビーが爬虫類が好きなのは、なんとなく知っているしね。
アルビーを起こさないように、マリーと声を殺して喋べりながらケーキを食べた。なんだか内緒話をしているみたいで楽しかったな。
一頻りしてから、マリーは「それじゃあ戻るわね。明日の課題が大変なのよ。アルはたぶん朝まで起きないから、あんたも適当に休みなさいよ」と自室に戻っていった。
僕も明日の予習をしておかないと。と頭では解っているのだけど、ローテーブルの上の蝋燭に照らされたアルビーの無防備な寝顔から目が離せなくて――。それに、こんなに近くにある彼の額が気になって。
無意識に息を止め、そっと、彼の額にかかる柔らかな髪をかきあげていた。
「この傷が気になる?」
瞼は閉じられたままなのにゆっくりと彼の唇が動き、柔らかな声が漏れ聞こえた。
アルビーは、左の掌を上に向けて僕にさしだした。その上に右手を重ねる。なにかを握りこんでいるアルビーの右手が、手品でもしてみせるように僕の手をさらりと撫でて重なる。温かな熱をもったなにかを薬指に感じた。
種明かしの掌が開く。
銀色に輝く蜥蜴――。
小さな手足を這わして、くるりと尻尾を指に回して絡みついている銀の蜥蜴。約束の火蜥蜴。僕は涙が滲んできて必死に奥歯をくい縛った。
唇をひき結んでアルビーを見ると、彼は僕の反応が意外だったような顔をしていた。
「もっと喜んでくれるかと思ったのに」
残念そうに吐息を漏らしている。
「なんで蜥蜴?」
「だってコウ、カメレオンが好きだろ? いつも僕のコーヒーカップを嬉しそうに見ているじゃないか」
カメレオン? これ、カメレオンなの? そういえば、アルビーの専用マグカップに描かれている虹色のカメレオンに似てなくもない。この指輪の方が、もっとリアルでおしゃれな感じだけど――。
「そんなふうに、見えたかな……」
アルビーは、サラマンダーは本来火蜥蜴の姿をしているって知らないんだ。あの赤毛の人形とこの蜥蜴は、彼の中で繋がってない。単純に、僕が好きだと思った蜥蜴の指輪をくれたんだ。
「これ、アルビーが作ってくれたの? ありがとう」
やっと、にっこりと笑ってお礼を言えた。マリーにもちょっと自慢気に右手の甲を向けてみせる。
「今回ずいぶん時間がかかってたわね、アル」
マリーの呆れ声。マリーは、知っていたのか。
「二つ分だから」
アルビーがマリーに自分の右手の甲を向ける。
「え!」
僕は仰天してアルビーの横顔を見つめ、継いで、いきおい彼の右手を掴んでその長い指に嵌る指輪をまじまじと見つめた。
つきあってる、というのとは違うのかもしれないけれど、アルビーはマリーとキスするような仲だろ! 僕とお揃いの指輪を身につけるのはマズいだろ! それともそう思うのは僕だけ? 意識しすぎ? 二人ともそんなことは気にしないのかな?
困惑する僕をみてアルビーはくすりと笑い、そのままゴロリと間に置いてあったコシヒカリの米袋を枕にして半身を横たえる。
「アルビー、」
「しぃ!」
マリーは唇に指を立てている。
「食べ物を枕にするなんてダメだよ!」
若干声音を下げて囁くように言い、アルビーの頭の下の米袋を床におろして代わりに膝枕をしてあげた。
「あんたのそれを作るのに時間をとられて、ほとんど寝ていないのよ。ただでさえ、忙しい時期だったのに!」
マリーも声を押さえて囁いている。
マリーはお揃いの指輪だってこと、とくに気にしてないみたいだ。僕はほっとして、大した意味はないのだと思うことにした。アルビーが爬虫類が好きなのは、なんとなく知っているしね。
アルビーを起こさないように、マリーと声を殺して喋べりながらケーキを食べた。なんだか内緒話をしているみたいで楽しかったな。
一頻りしてから、マリーは「それじゃあ戻るわね。明日の課題が大変なのよ。アルはたぶん朝まで起きないから、あんたも適当に休みなさいよ」と自室に戻っていった。
僕も明日の予習をしておかないと。と頭では解っているのだけど、ローテーブルの上の蝋燭に照らされたアルビーの無防備な寝顔から目が離せなくて――。それに、こんなに近くにある彼の額が気になって。
無意識に息を止め、そっと、彼の額にかかる柔らかな髪をかきあげていた。
「この傷が気になる?」
瞼は閉じられたままなのにゆっくりと彼の唇が動き、柔らかな声が漏れ聞こえた。
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