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Ⅱ.冬の静寂(しじま)
49 大晦日の夜1
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大晦日の夜、ショーンに連れて来られたナイトクラブは、青い海の底でみんなごちゃごちゃになって溺れながら揺蕩っているような、そんな場所だった。
とんでもなく広いホールに、とんでもなく沢山の人が寿司詰め状態で蠢いている。いや、正しくは踊っているのだろうけれど、余りに多すぎて海藻がゆらゆら揺れている様にしか見えない。そんな彼らの頭上に、ミラーボールが白い泡を振り散らす。まるで酸素補給しているようだ。
隣でショーンが何か言っているけれど、大音響に邪魔されて聴こえない。入り口から真正面に見えるステージで歌っているバンドの音が強烈過ぎて。
「何飲む? もらってくるから!」
背中から被さるようにしてショーンが耳許で叫んだ。僕も負けじと叫び返す。彼の指差す光のあまり届かない壁際のソファーに眼をやると、また、「あそこから動くなよ」と耳許で叫ばれた。音楽とショーンの声で、鼓膜がビリビリする。
言われた通りに、闇に溶け込む黒のツルツルしたソファーに座って彼を待つ。ぐるりと壁に沿って張り巡らされたここで休んでいる人は、まばらだ。
来たばかりだと言うのに、疲れた。この調子でカウントダウンまで何時間も過ごすのか? アルビーの行っているパーティーも似たような感じなのかな……。
僕は手持ち無沙汰から辺りを見廻す。居心地悪くてそわそわと落ち着かない。
今いるソファーの後ろには透明プラスチックの柵に囲まれた中二階があり、そこはテーブル席になっている。フロアを挟んだ向こう側もそうだ。上の席に行けば、この水底から抜け出て少しは落ち着けるのではないかと思うのだけど、予約席とか、VIP席とかそんなのだろうか? とにかくこんな所に来たのは初めてなので、勝手が判らない。
ぽつんと置き去りにされ、不安が先だつ。時折青い照明に染まる空間に、赤や黄色のプラズマが走る。うねるような音楽と光の洪水で目が回りそうだ。
やっとショーンが戻って来た。友だちと一緒だ。紹介され握手を交わしたけれど、ほとんど名前は聞き取れない。さすがに会話が成り立たないと思ったのか、ショーンは中二階へ移動しようとみんなを促した。
「ほら、あいつも来てるぞ」
フロアから少し外れるだけで、会話がしやすくなった。突然ショーンに肩を叩かれ振り返る。彼は意味ありげに笑っている。僕の肩を抱いて「見ろよ、相変わらずの王様ぶりだな」と、ステージに近いテーブルに顎をしゃくる。
なんだってアルビーがいるんだ? 僕が話した時は一言もそんなこと言わなかったくせに!
僕は狐につままれた気分でぽかんと、彼を見つめてしまった。
アルビーは、煌びやかなドレスを着た女の子や見るからにお洒落な男たちに囲まれて、いつものように気怠げで退屈そうに長ソファーの中心にいた。前にパブで遭った時と同じだ。違うのは今回はみんなドレスアップしていることくらいで。
彼に気を取られつつも、僕たちは空いているテーブルに着き乾杯を交わした。ちゃんとノンアルコールを頼んだので、僕のはカクテル風にグラスの縁を塩とオレンジで飾ったジュースだ。
でもアルビーの方が気になって、ショーンたちの話が頭に入ってこない。どのみち大した話はしていないと思うけれど。
ステージの演奏が緩やかな曲に変わると、照明が紫に変わった。派手な女の子がアルビーを引っ張り立たせてテーブル横の狭いフロアに連れ出した。
ぴったりと躰を密着させて踊り始めたので、僕は唖然としてまじまじと凝視してしまった。でもそれはアルビーたちが特別な訳ではなくて、同じようなカップルが他にも何組もいる。「チークタイムだからな、気にするなよ」ショーンが僕に同情的な視線を向ける。そこから、彼の友だち連中もアルビーに気づいたのか噂話が始まった。
それすら耳に入らなかった。だって、アルビーがその女の子にキスしている。それとも、女の子の方が彼にキスしているのか。
「エロいキスするよなぁ。見ているこっちの方が照れちまう」
「凄いな。連れの女の子より、よっぽどあいつの方にそそられる」
ショーンの友だちが口笛を鳴らす。
「さすがにアルビー・アイスバーグだな」
アルビーが僕に気づいた。ちらりと僕を見た。間違いなく。口の端で笑った。それなのに、彼は彼女とのキスを止めなかった。
とんでもなく広いホールに、とんでもなく沢山の人が寿司詰め状態で蠢いている。いや、正しくは踊っているのだろうけれど、余りに多すぎて海藻がゆらゆら揺れている様にしか見えない。そんな彼らの頭上に、ミラーボールが白い泡を振り散らす。まるで酸素補給しているようだ。
隣でショーンが何か言っているけれど、大音響に邪魔されて聴こえない。入り口から真正面に見えるステージで歌っているバンドの音が強烈過ぎて。
「何飲む? もらってくるから!」
背中から被さるようにしてショーンが耳許で叫んだ。僕も負けじと叫び返す。彼の指差す光のあまり届かない壁際のソファーに眼をやると、また、「あそこから動くなよ」と耳許で叫ばれた。音楽とショーンの声で、鼓膜がビリビリする。
言われた通りに、闇に溶け込む黒のツルツルしたソファーに座って彼を待つ。ぐるりと壁に沿って張り巡らされたここで休んでいる人は、まばらだ。
来たばかりだと言うのに、疲れた。この調子でカウントダウンまで何時間も過ごすのか? アルビーの行っているパーティーも似たような感じなのかな……。
僕は手持ち無沙汰から辺りを見廻す。居心地悪くてそわそわと落ち着かない。
今いるソファーの後ろには透明プラスチックの柵に囲まれた中二階があり、そこはテーブル席になっている。フロアを挟んだ向こう側もそうだ。上の席に行けば、この水底から抜け出て少しは落ち着けるのではないかと思うのだけど、予約席とか、VIP席とかそんなのだろうか? とにかくこんな所に来たのは初めてなので、勝手が判らない。
ぽつんと置き去りにされ、不安が先だつ。時折青い照明に染まる空間に、赤や黄色のプラズマが走る。うねるような音楽と光の洪水で目が回りそうだ。
やっとショーンが戻って来た。友だちと一緒だ。紹介され握手を交わしたけれど、ほとんど名前は聞き取れない。さすがに会話が成り立たないと思ったのか、ショーンは中二階へ移動しようとみんなを促した。
「ほら、あいつも来てるぞ」
フロアから少し外れるだけで、会話がしやすくなった。突然ショーンに肩を叩かれ振り返る。彼は意味ありげに笑っている。僕の肩を抱いて「見ろよ、相変わらずの王様ぶりだな」と、ステージに近いテーブルに顎をしゃくる。
なんだってアルビーがいるんだ? 僕が話した時は一言もそんなこと言わなかったくせに!
僕は狐につままれた気分でぽかんと、彼を見つめてしまった。
アルビーは、煌びやかなドレスを着た女の子や見るからにお洒落な男たちに囲まれて、いつものように気怠げで退屈そうに長ソファーの中心にいた。前にパブで遭った時と同じだ。違うのは今回はみんなドレスアップしていることくらいで。
彼に気を取られつつも、僕たちは空いているテーブルに着き乾杯を交わした。ちゃんとノンアルコールを頼んだので、僕のはカクテル風にグラスの縁を塩とオレンジで飾ったジュースだ。
でもアルビーの方が気になって、ショーンたちの話が頭に入ってこない。どのみち大した話はしていないと思うけれど。
ステージの演奏が緩やかな曲に変わると、照明が紫に変わった。派手な女の子がアルビーを引っ張り立たせてテーブル横の狭いフロアに連れ出した。
ぴったりと躰を密着させて踊り始めたので、僕は唖然としてまじまじと凝視してしまった。でもそれはアルビーたちが特別な訳ではなくて、同じようなカップルが他にも何組もいる。「チークタイムだからな、気にするなよ」ショーンが僕に同情的な視線を向ける。そこから、彼の友だち連中もアルビーに気づいたのか噂話が始まった。
それすら耳に入らなかった。だって、アルビーがその女の子にキスしている。それとも、女の子の方が彼にキスしているのか。
「エロいキスするよなぁ。見ているこっちの方が照れちまう」
「凄いな。連れの女の子より、よっぽどあいつの方にそそられる」
ショーンの友だちが口笛を鳴らす。
「さすがにアルビー・アイスバーグだな」
アルビーが僕に気づいた。ちらりと僕を見た。間違いなく。口の端で笑った。それなのに、彼は彼女とのキスを止めなかった。
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