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Ⅲ.春の足音
97 旅15 雑談
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「コウは見かけによらないね」
と、バズに言われた。
解っている。昔からよく言われたから。大人しそうな顔をしている癖に、辛辣だって。口を開けばキツイことしか言わないから黙っとけって。そんな苦い教訓をつい、忘れてしまっていたんだ。
コリーヌに、かなり酷い言い方をしてしまった気がする。でも、彼女は怒らなかった。僕が議論に乗り気だと受け取って、いろんなことを質問してきたし、自分の意見もこれでもかと主張してきた。
僕はお互いが外国語である英語を喋っている事実を自覚して、感謝したよ。母国語じゃない。それだけで言葉の裏に隠された感情を、オブラートに包むことができた気がする。
尤も口に出してしまってから、すぐに後悔して逃げ腰になってしまっていたけれど。別にコリーヌが嫌いな訳でも、ベジタリアンに偏見を抱いている訳でもないんだ。他人に迷惑をかけている訳ではないのだから、僕がどうこう言うことじゃないし。それよりも、自分の態度の方が問題だ。この糾弾口調のせいで、僕は人に嫌われるんだもの。
「コウの意見、面白かった。理解するのは難しかったけれど、すごく視界が開けた気がする」
バズは人懐っこい笑顔を向けてくれ、そう続けた。
シチューを食べ終え、お互いが自分の意見を主張するだけの不毛な議論を僕が終わらせたがっていることを察してくれたのか、バズは「数学をみて欲しい」と僕の腕を引っ張って、テーブルを離れるきっかけをくれた。コリーヌとショーンは、議論を続けたがっていたみたいだったけれど。戻って来たミシェルのお陰で、なんとなく場が途切れたのも丁度良くて、僕はバズの頼みを聞いていち抜けた。
「ショーンがね、コウは大学進学準備コースの仲間の中で、一番頭が良くって努力家だって言ってたんだ。だから、こうしてコウに逢えて嬉しいよ」
ぽかんとしてしまっている僕を、バズはますます嬉しそうに褒めちぎってくれた。僕はこんなふうに言われるのは慣れていなくて。なんだか恥ずかしくてムズムズする。アルビーは特別なんだと思っていたけれど、やたらと褒め上手なのは国民的気質なのだろうか? いや、裏を返してイギリス人特有の嫌味とか……。そうじゃないってことは、バズの優しい眼つきで解ってはいるけれど。
多分、僕は今、耳まで赤くなっているに違いない。なんとか気持ちを落ち着かせようと、彼の数学のテキストをパラパラとめくった。
「どの辺りが引っ掛かっている? 何でも訊いて。この範囲なら応えられると思うから」
でも彼は、数学の質問がある、と言うよりも僕に興味があるみたいだ。人文系の選択なのにどうしてそんなに数学が得意なのかと訊かれた。
「そうだね、このテキストのレベルよりは、日本でやっていた受験勉強の方が難易度は高かったからかな」
「これ、Aレベルの過去問だよ!」
「英国と日本じゃ、大学入試のシステムそのものからして違うんだよ」
簡単にその違いを説明した。僕は日本の大学入試に失敗して留学してきたことも。
「Aレベルの過去問は楽勝なのに、志望校に入れなかったの!」
バズは心底驚いた様子で声高に叫んだ。
「残念ながらね。でも過酷な受験勉強を何年も続けていたお陰で、今、助かっているよ。課題文献を読みこなすのもさほど苦労とも思わないし、こうしてきみとも会話できるしね」
「英語、上手だよ」
「ありがとう。でもね、スラングが解らなくて。メモしておいて後から調べたりするんだ。なんだかさ、いかにもってやつ、他人に訊けなかったりするだろ?」
クルージングとか……。
僕は内緒話をするように、ちょっと声を落として意味深に笑った。
「解るよ、その気持ち」
僕の言いたい意味を理解して、バズもくしゃっと笑った。なんだか一気に打ち解けて、いろんな話をした。
もちろん彼の勉強も手伝ったけれど、脱線してばかりだったよ。
と、バズに言われた。
解っている。昔からよく言われたから。大人しそうな顔をしている癖に、辛辣だって。口を開けばキツイことしか言わないから黙っとけって。そんな苦い教訓をつい、忘れてしまっていたんだ。
コリーヌに、かなり酷い言い方をしてしまった気がする。でも、彼女は怒らなかった。僕が議論に乗り気だと受け取って、いろんなことを質問してきたし、自分の意見もこれでもかと主張してきた。
僕はお互いが外国語である英語を喋っている事実を自覚して、感謝したよ。母国語じゃない。それだけで言葉の裏に隠された感情を、オブラートに包むことができた気がする。
尤も口に出してしまってから、すぐに後悔して逃げ腰になってしまっていたけれど。別にコリーヌが嫌いな訳でも、ベジタリアンに偏見を抱いている訳でもないんだ。他人に迷惑をかけている訳ではないのだから、僕がどうこう言うことじゃないし。それよりも、自分の態度の方が問題だ。この糾弾口調のせいで、僕は人に嫌われるんだもの。
「コウの意見、面白かった。理解するのは難しかったけれど、すごく視界が開けた気がする」
バズは人懐っこい笑顔を向けてくれ、そう続けた。
シチューを食べ終え、お互いが自分の意見を主張するだけの不毛な議論を僕が終わらせたがっていることを察してくれたのか、バズは「数学をみて欲しい」と僕の腕を引っ張って、テーブルを離れるきっかけをくれた。コリーヌとショーンは、議論を続けたがっていたみたいだったけれど。戻って来たミシェルのお陰で、なんとなく場が途切れたのも丁度良くて、僕はバズの頼みを聞いていち抜けた。
「ショーンがね、コウは大学進学準備コースの仲間の中で、一番頭が良くって努力家だって言ってたんだ。だから、こうしてコウに逢えて嬉しいよ」
ぽかんとしてしまっている僕を、バズはますます嬉しそうに褒めちぎってくれた。僕はこんなふうに言われるのは慣れていなくて。なんだか恥ずかしくてムズムズする。アルビーは特別なんだと思っていたけれど、やたらと褒め上手なのは国民的気質なのだろうか? いや、裏を返してイギリス人特有の嫌味とか……。そうじゃないってことは、バズの優しい眼つきで解ってはいるけれど。
多分、僕は今、耳まで赤くなっているに違いない。なんとか気持ちを落ち着かせようと、彼の数学のテキストをパラパラとめくった。
「どの辺りが引っ掛かっている? 何でも訊いて。この範囲なら応えられると思うから」
でも彼は、数学の質問がある、と言うよりも僕に興味があるみたいだ。人文系の選択なのにどうしてそんなに数学が得意なのかと訊かれた。
「そうだね、このテキストのレベルよりは、日本でやっていた受験勉強の方が難易度は高かったからかな」
「これ、Aレベルの過去問だよ!」
「英国と日本じゃ、大学入試のシステムそのものからして違うんだよ」
簡単にその違いを説明した。僕は日本の大学入試に失敗して留学してきたことも。
「Aレベルの過去問は楽勝なのに、志望校に入れなかったの!」
バズは心底驚いた様子で声高に叫んだ。
「残念ながらね。でも過酷な受験勉強を何年も続けていたお陰で、今、助かっているよ。課題文献を読みこなすのもさほど苦労とも思わないし、こうしてきみとも会話できるしね」
「英語、上手だよ」
「ありがとう。でもね、スラングが解らなくて。メモしておいて後から調べたりするんだ。なんだかさ、いかにもってやつ、他人に訊けなかったりするだろ?」
クルージングとか……。
僕は内緒話をするように、ちょっと声を落として意味深に笑った。
「解るよ、その気持ち」
僕の言いたい意味を理解して、バズもくしゃっと笑った。なんだか一気に打ち解けて、いろんな話をした。
もちろん彼の勉強も手伝ったけれど、脱線してばかりだったよ。
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