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Ⅳ 初夏の木漏れ日
175 湖畔
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僕はまたアルビーに嘘をついた。いや、嘘と言うよりも、本当のことを告げなかった。どちらにせよ、アルビーは僕の戯言に引っ掛かってはくれなかったけれど。
ホテルに戻るとすぐに、付属のレストランで夕食にした。
余りお腹は空いていなかったけれど。湖の見える窓際の席で、やっと傾きかけてきた柔らかな日差しを眺めながら、初夏の長い一日をこうして無事終えることができることに安堵する。
モダンな内装のホテルとは異なり、レストランはこげ茶色を基調にしたクラシカルで落ち着いた雰囲気だ。煌びやかなシャンデリアの下、テーブルを埋めるお客さんの年齢層は様々だけど、女性は一様にドレスアップしているあたり、ここはやはり人気の観光地でちょっと贅沢なホテルなのだな、と思ってしまう。
こんな背景に、アルビーはとてもしっくりと馴染む。
「料理、気に入らなかった?」
ぼんやりと彼に見とれていたのを、勘違いされてしまった。
「美味しいよ、とっても」
僕は慌ててカトラリーを握り直す。アルビーはほっとしたように微笑んで、優雅に骨つきラム肉のグリルを切り分け、地野菜の刻み込まれたソースを絡めて口に運んでいる。僕の方はと言うと、不器用にロブスターと格闘し、彼にくすくす笑われている。殻付きのままのこれの食べ方なんて、僕に判る訳がないじゃないか。
でも、こんなことで彼が笑ってくれるならいいんだ。ちょっとくらい、綺麗に食べられなくたって。付け合わせの春野菜も、コロッケに似た小さなフィッシュケーキもとても美味しかったしね。
食事を終えて、アルビーと湖のほとりを散歩した。水辺を囲む稜線に落ちる日没を見るためにか、この道沿いをそぞろ歩いている人は意外に多い。
とろりと蕩けそうな目玉焼きの黄身に似た太陽が、山々の狭間にかかろうとしている。半熟の黄身が零れて流れ出したみたいに、その輝きは湖面に映え、赤みがかった金色の道になる。
「ほら、ここにも道ができている」
僕はその湖面を走る金の道を指差した。
「本来は、ひとは死んだらこの道を辿って彼岸へと向かうんだ」
アルビーは黙ったまま、僕の指し示す方向を見つめている。
「かつては、彼らのために自然の用意した道が至るところにあったのに。今はその多くが分断され、歪められてしまっているんだ。魔法陣で開く道もそうだよ。時空間を歪め、本来の道を歪めることに繋がる」
「アーノルドは、その禁忌を犯したってことだね?」
静かな彼の問い掛けに、僕は神妙に頷いた。
「同じ言葉を使っているように思えても、彼らが受け取る意味合いは違う可能性が高い。本来、ひとの言葉が通じ合う相手じゃないんだ」
それでも、彼らはひとの魂を欲しがるけれど。
「アビゲイルをモデルに使った人形は、何体くらいあるんだろう?」
「え?」
「アーノルドの家にあるのと同じ人形だよ。同じタイプがもっとたくさんあるんだよね? 彼の出世作だもの」
「ああ、子どもができなかった頃に作らせたものだね」
「作らせた?」
「工房だからね。粘土の原型と試作品は彼自身の手で作るけれど、それ以降、石膏型を取って磁器に焼き上げるのは職人だよ。彼自身が全部仕上げたものは少ないんだ。今は、自分だけでやっているけれどね。それらは巷に出回ることはないしね」
アルビーの皮肉気な口調に、あの小屋裏の砕かれた人形の山が脳裏を過る。
ごめん、アルビー。いつまでも、こんな話を続けてしまって。でも、もう少しだけ確かめたいんだ。後、少しだけだから……。
「アビゲイルの髪の毛を使っているのは?」
「うちにあるのがそうだよ。それに、彼の手許にあるものと。それくらいじゃないかな」
なぜ……?
僕はよほど納得のいかない顔をしていたのだろう。アルビーはそんな僕を見て小首を傾げた。
「スティーブ……。彼に預けたのか!」
パズルのピースがまたパチリと嵌った。
ホテルに戻るとすぐに、付属のレストランで夕食にした。
余りお腹は空いていなかったけれど。湖の見える窓際の席で、やっと傾きかけてきた柔らかな日差しを眺めながら、初夏の長い一日をこうして無事終えることができることに安堵する。
モダンな内装のホテルとは異なり、レストランはこげ茶色を基調にしたクラシカルで落ち着いた雰囲気だ。煌びやかなシャンデリアの下、テーブルを埋めるお客さんの年齢層は様々だけど、女性は一様にドレスアップしているあたり、ここはやはり人気の観光地でちょっと贅沢なホテルなのだな、と思ってしまう。
こんな背景に、アルビーはとてもしっくりと馴染む。
「料理、気に入らなかった?」
ぼんやりと彼に見とれていたのを、勘違いされてしまった。
「美味しいよ、とっても」
僕は慌ててカトラリーを握り直す。アルビーはほっとしたように微笑んで、優雅に骨つきラム肉のグリルを切り分け、地野菜の刻み込まれたソースを絡めて口に運んでいる。僕の方はと言うと、不器用にロブスターと格闘し、彼にくすくす笑われている。殻付きのままのこれの食べ方なんて、僕に判る訳がないじゃないか。
でも、こんなことで彼が笑ってくれるならいいんだ。ちょっとくらい、綺麗に食べられなくたって。付け合わせの春野菜も、コロッケに似た小さなフィッシュケーキもとても美味しかったしね。
食事を終えて、アルビーと湖のほとりを散歩した。水辺を囲む稜線に落ちる日没を見るためにか、この道沿いをそぞろ歩いている人は意外に多い。
とろりと蕩けそうな目玉焼きの黄身に似た太陽が、山々の狭間にかかろうとしている。半熟の黄身が零れて流れ出したみたいに、その輝きは湖面に映え、赤みがかった金色の道になる。
「ほら、ここにも道ができている」
僕はその湖面を走る金の道を指差した。
「本来は、ひとは死んだらこの道を辿って彼岸へと向かうんだ」
アルビーは黙ったまま、僕の指し示す方向を見つめている。
「かつては、彼らのために自然の用意した道が至るところにあったのに。今はその多くが分断され、歪められてしまっているんだ。魔法陣で開く道もそうだよ。時空間を歪め、本来の道を歪めることに繋がる」
「アーノルドは、その禁忌を犯したってことだね?」
静かな彼の問い掛けに、僕は神妙に頷いた。
「同じ言葉を使っているように思えても、彼らが受け取る意味合いは違う可能性が高い。本来、ひとの言葉が通じ合う相手じゃないんだ」
それでも、彼らはひとの魂を欲しがるけれど。
「アビゲイルをモデルに使った人形は、何体くらいあるんだろう?」
「え?」
「アーノルドの家にあるのと同じ人形だよ。同じタイプがもっとたくさんあるんだよね? 彼の出世作だもの」
「ああ、子どもができなかった頃に作らせたものだね」
「作らせた?」
「工房だからね。粘土の原型と試作品は彼自身の手で作るけれど、それ以降、石膏型を取って磁器に焼き上げるのは職人だよ。彼自身が全部仕上げたものは少ないんだ。今は、自分だけでやっているけれどね。それらは巷に出回ることはないしね」
アルビーの皮肉気な口調に、あの小屋裏の砕かれた人形の山が脳裏を過る。
ごめん、アルビー。いつまでも、こんな話を続けてしまって。でも、もう少しだけ確かめたいんだ。後、少しだけだから……。
「アビゲイルの髪の毛を使っているのは?」
「うちにあるのがそうだよ。それに、彼の手許にあるものと。それくらいじゃないかな」
なぜ……?
僕はよほど納得のいかない顔をしていたのだろう。アルビーはそんな僕を見て小首を傾げた。
「スティーブ……。彼に預けたのか!」
パズルのピースがまたパチリと嵌った。
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