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8.変化する日常 ※
しおりを挟む「テオドール様、恐れていて申し訳ございませんでした」
「え?」
急にメイドたちに謝られて意味が分からなかった。別に彼女たちに何かされたり、嫌味を言われたりしたことはない。怯える素振りはあったけど、ちゃんと彼女たちは仕事をしてくれた。
「彼女たちにテオのことを聞いた。いつも感謝の言葉をかけてくれたとか、荷物も調べていいと言ったとか、紅茶を美味しいと言ってくれたとかな」
「それって普通ですよね?」
「テオは可愛いな」
そう言って抱きしめられた。僕が可愛いわけない。僕は可愛いとは真逆の場所にいるんだから。
フィリップ様は僕を疑うことをやめたと思ったら、今度は僕を揶揄って遊ぶようになった。
フィリップ様と行動を共にするようになってから、周りの騎士も敵意を向けてくる人は少なくなった気がする。だからだいぶ息がしやすくなった。
「テオドール様、手合わせしていただけませんか?」
「分かりました」
「テオ、いいのか?」
毎回断るのも悪いし。僕はたまに受けることにしている。そしたらなぜか、その躱し方を教えてくれと言われるようになった。
「大将の剣でも受け流せるんだから、テオドール様が弱いわけない」
なんて言われたけど、僕は本当に弱いんです。
「テオ、結婚しような」
「え?」
「おい、『えっ』とはどういうことだ? お前は俺に嫁いできたんじゃないのか?」
「僕はフィリップ様を殺すかもしれませんよ?」
冗談だけどそんなことを言ってみた。僕だってずっと疑われて苦しかったんだから。
「俺のものにならないなんて許さないからな」
そう言うとフィリップ様にガシッと腕を掴まれて、風呂に引き摺るように連れていかれた。
抵抗する暇もなかった。僕の力じゃ抵抗しても意味ないと思うけど。
「フィリップ様? 湯浴みならメイドを呼びましょうか?」
「黙ってろ」
フィリップ様は怒ってるみたいだった。冗談でも、殺すかもなんて言ったから怒ったのかもしれない。
僕はフィリップ様に着衣を剥ぎ取られていくのを、他人事みたいに眺めてた。冷水でも浴びせられて、頭を冷やせとか言われるのかな。
「尻を出せ」
「え?」
僕が戸惑っている間に、腰を掴まれて、お尻を割り広げられたと思ったら指が入ってきた。水を注がれて、たぶん中を洗われてる。
「あっ……」
「なんだ? 気持ちいいのか?」
僕は恥ずかしかった。こんな明るいところで裸を見られるのも、お尻なんて見られるのも。
ブンブンと首を振って違うと訴えたけど、伝わったかは分からない。
タオルでわしゃわしゃと雑に拭かれると、引き摺るようにベッドに連れていかれた。
心の準備が……
フィリップ様はきっと慣れてるから、任せておけば大丈夫だよね? 僕は、また睨まれてるって言われないように目を閉じた。こっそり深呼吸をして覚悟を決める。
視覚が無いと、いつもより感覚が敏感になる。肌に触れたフィリップ様の手が熱いことに気付いた。唇が重なって、舌が滑り込んでくる。少しだけ、フィリップ様がどんな表情をしているのかが気になったけど、僕は目を開けなかった。
僕のフィリップ様より薄い胸がフニフニと揉まれて、乳首をカリッと指先で引っ掻かれた。
ビクッと反応してしまった自分が恥ずかしい……
「気持ちいいか? 言え」
「きもち、いい、です」
恥ずかしい。僕は初めてなのに、フィリップ様だって僕が初めてだって知ってるはずなのに、なんでそんな恥ずかしいこと言わせるの?
「いい子だ」
目を閉じていると、フィリップ様が何をしているのかが触れられる感覚でしか分からない。お尻にすぐに挿れると思ってたのに、そうじゃなかった。必要ないのに、僕の陰茎を握って、優しく扱いてる。
「やっ……」
「嫌じゃないだろ? 気持ちいいと言え。それとも気持ちよくないのか?」
「きもち、いい……」
「ほら、先走りが溢れてきたぞ。いやらしいな」
「ああっ……」
やだ……気持ちいいけど、視界がない中で人に快楽を与えられるのは怖い。知らない感覚ばかりに襲われて、怖いよ。
「イってもいいぞ」
フィリップ様のその言葉に反応したのか、快楽がグイッと引き上げられて、ビュルッと吐精したのが分かった。
「気持ちいいな? いい子だ。ほら膝を抱えろ」
僕は膝を抱えさせられると、フィリップ様のたぶん指が僕の中に入ってきた。怖くて息が乱れる。覚悟を決めたのに、やっぱり怖い。
ハッ、ハッと短い息を繰り返して、必死に酸素を取り込んだ。息を乱すことを悟られないなんて無理だった。
「ああっ……」
内側から快感の波が押し寄せてきて、僕はどこかへ連れ去られるんじゃないかと不安になる。手に触れたシーツを、千切れるほどギュッと掴んだ。
「テオ、なぜ目を閉じてる?」
「睨んでないのに睨んでるって言われるから」
「そんなこと気にするな。俺をしっかり見ろ」
僕はそっと目を開けてフィリップ様を見たら、フィリップ様の目はギラギラと血走っていた。そんな目で見られたのは初めてで、怖いんだけど目を逸らすこともできなかった。
「怖いか?」
「少し……」
「テオ、俺のものになれ。俺と結婚しろ。いいな?」
「はい」
僕はフィリップ様のその熱い目に囚われて、「はい」と返事をしていた。
返事をすると、フィリップ様のものがゆっくりと僕の中に入ってきた。硬くて熱くて苦しかった。
フィリップ様は僕と子作りをすることが嫌じゃないんだ。やっと受け入れてもらえたような気がして嬉しかった。
「テオ、なんて顔をしてる」
「んん、ごめんなさ……目、閉じるから」
「閉じるな。俺から目を逸らすな。俺だけを見ていろ」
僕はまた、睨んでるって勘違いされるような目をしていたんだと思う。それなのにいいの?
「ああっ……」
「テオ、俺のこと好きになれ」
うんうん。僕はフィリップ様に色々言われたけど、全然理解してなくて、何か言われる度に、ただうんうんってずっと頷いてた。
僕の全てはフィリップ様の熱に焼かれていく。
フィリップ様の全部が熱くて、中だけじゃない、触れる指先も、キスしてくれる唇も、抱きしめられた時は、触れた胸もお腹も熱かった。
「テオ、可愛い。俺以外にその顔見せるなよ」
「睨んでる顔?」
「違うけど、まあいい」
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