10 / 19
10.好きの意味
しおりを挟む「テオ、どんな男が好きなんだ?」
「優しい人、でしょうか」
「分かった」
なんだ? 何がしたいのか分からない。
「マリア、フィリップ様が言う『好き』ってどういう種類の好きだと思う?」
すっかり仲良くなったメイドのうちの一人に聞いてみた。
「恋愛ですね。愛しているという意味です」
「そうなのか」
女性は恋とか愛とか好きだよな。乙女心というやつか?
「ピーター、フィリップ様が言う『好き』とはどういう意味の好きだ?」
騎士のピーターにも聞いてみた。
「は? そんなのテオドール様のことを愛してるって意味に決まってます」
「そうなのか? 僕のことを? まさかな」
ピーターも年頃なんだろうか? 貴族の結婚に愛なんて無いのが普通だ。家のためか国のために、決められたところへ嫁ぐ。それでも嫌いだと思う相手と一緒にはなりたくないから、見合いというものがある。
フィリップ様が僕のことを好き? 僕は人に恋をしてもらえるような人物ではないと思う。顔は怖いし、頭がいいわけでも、強いわけでもない。兄のように美しく頭のいい人なら分かる。
僕には、子を産めるという体質以外に需要なんかない。それは僕自身が一番よく分かってる。
「テオ、王都に行くぞ」
「王都? なぜです?」
「テオ、お前も一応貴族なんだろ? 建国記念の夜会が王城であるからだ。忘れたのか?」
もうそんな時期か。暑いのにわざわざ王都まで行かなければならなくて大変だと聞いていた。
僕の実家は幸い王都から近い場所だから、暑い中の移動もそんなに大変じゃなかったけど、ここから王都まで行くのは大変そうだな。
来る時は十一日かかったから、王都までとなるとプラス二日か三日かそれくらいか。夏の馬車って暑いんだよな。
正装も暑いし。僕は夜会にはたまにしか行かなかった。それはなぜかというと、僕が孕み腹だから。襲われて妊娠でもしたら大変だと言われて、参加は自由になっていた。だから今までに二回しか参加したことがない。
それくらい貴族で孕み腹の男というのは貴重なんだ。それなのにこんなに見合いを断られ続けているのだから、人気がないことは火を見るより明らか。僕が誰かから愛されるとか、あり得ないんだ。
参加したところで、誰も寄ってきやしない。面倒だということで不参加だったんだが、嫁いだらそうもいかないのか。
「行きたくなさそうだな」
「ええ、まあ……」
「俺が守ってやるから心配するな」
フィリップ様が自信満々という感じで言うから、一応「はい」と返事はしたものの、守られなくたって誰も僕になんて寄ってこないから大丈夫です。
でも、両親や兄に会えるのなら、参加するのはありかもしれない。
王都へ向かう馬車の中、屋根で陽射しを遮ることができる馬車はまだマシなのかな? 護衛騎士のみんなは防具も着けているしすごく暑そうだ。
休憩になると、僕は騎士のみんなに水を配って歩いた。
「テオドール様、ありがとうございます。あなたはこんなこと、なさらなくてもいいんですよ」
「みんな暑い中、大変でしょ? 僕にはこれくらいしかできないから」
馬たちにも水を配って歩いてると、フィリップ様がムッとした様子で向かってきた。
「結婚するんだからキスくらいはしていいか?」
「いいですよ。子作りもしていいですよ」
「ダメだ。テオがどうしても俺に抱いて欲しいと言うならしてやるが」
「してください」
子を産むために嫁いだんだから、子作りは必要でしょ? フィリップ様は時々よく分からない。結婚延期って言ったのも。取り消しってことなら分かるけど、延期する理由が分からない。
はぁ~
フィリップ様は大きなため息をついた。
色気がなくて、その気になれないってこと? 困ったな。僕には色気なんて元々無いのに、フィリップ様はその気にさせてみろよって言ってるのかもしれない。
「こっちに来い」
フィリップ様は僕の腕を掴んで茂みの奥へと歩いていく。僕は黙って付いていくと、大きな木の幹に押し付けられた。
「お前は弱いんだから騎士連中の辺りを彷徨くな。襲われるぞ」
「まさか。そんなわけないです。僕なんかを好んで襲う人なんているわけない。それに僕はフィリップ様の夫ですよ?」
「警戒心を持て」
警戒心か、確かにそれは必要かもしれない。せめて短剣は携帯しておこう。
「分かりました」
「いい子だ」
そう言ってフィリップ様は僕にキスをしてくれた。久しぶりのキスだ。舌がぬるりと滑り込んできて、フィリップ様の熱い吐息がかかる。
「ん……」
気持ちいい。温かくて、胸の奥がキュッとした。離れていく唇が寂しい。
「もっとしてほしいか?」
「してほしいです」
フィリップ様を見つめると、フィリップ様は今までにない激しいキスをした。舌の動きが激しくて付いていけなくて、唇も取れるかと思うくらい吸われて、軽く噛みつかれた。
「戻るぞ」
フィリップ様は僕の手を引いて歩いていくけど、今までにないキスで僕はドキドキしたままだった。
1,431
あなたにおすすめの小説
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる