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10.好きの意味
しおりを挟む「テオ、どんな男が好きなんだ?」
「優しい人、でしょうか」
「分かった」
なんだ? 何がしたいのか分からない。
「マリア、フィリップ様が言う『好き』ってどういう種類の好きだと思う?」
すっかり仲良くなったメイドのうちの一人に聞いてみた。
「恋愛ですね。愛しているという意味です」
「そうなのか」
女性は恋とか愛とか好きだよな。乙女心というやつか?
「ピーター、フィリップ様が言う『好き』とはどういう意味の好きだ?」
騎士のピーターにも聞いてみた。
「は? そんなのテオドール様のことを愛してるって意味に決まってます」
「そうなのか? 僕のことを? まさかな」
ピーターも年頃なんだろうか? 貴族の結婚に愛なんて無いのが普通だ。家のためか国のために、決められたところへ嫁ぐ。それでも嫌いだと思う相手と一緒にはなりたくないから、見合いというものがある。
フィリップ様が僕のことを好き? 僕は人に恋をしてもらえるような人物ではないと思う。顔は怖いし、頭がいいわけでも、強いわけでもない。兄のように美しく頭のいい人なら分かる。
僕には、子を産めるという体質以外に需要なんかない。それは僕自身が一番よく分かってる。
「テオ、王都に行くぞ」
「王都? なぜです?」
「テオ、お前も一応貴族なんだろ? 建国記念の夜会が王城であるからだ。忘れたのか?」
もうそんな時期か。暑いのにわざわざ王都まで行かなければならなくて大変だと聞いていた。
僕の実家は幸い王都から近い場所だから、暑い中の移動もそんなに大変じゃなかったけど、ここから王都まで行くのは大変そうだな。
来る時は十一日かかったから、王都までとなるとプラス二日か三日かそれくらいか。夏の馬車って暑いんだよな。
正装も暑いし。僕は夜会にはたまにしか行かなかった。それはなぜかというと、僕が孕み腹だから。襲われて妊娠でもしたら大変だと言われて、参加は自由になっていた。だから今までに二回しか参加したことがない。
それくらい貴族で孕み腹の男というのは貴重なんだ。それなのにこんなに見合いを断られ続けているのだから、人気がないことは火を見るより明らか。僕が誰かから愛されるとか、あり得ないんだ。
参加したところで、誰も寄ってきやしない。面倒だということで不参加だったんだが、嫁いだらそうもいかないのか。
「行きたくなさそうだな」
「ええ、まあ……」
「俺が守ってやるから心配するな」
フィリップ様が自信満々という感じで言うから、一応「はい」と返事はしたものの、守られなくたって誰も僕になんて寄ってこないから大丈夫です。
でも、両親や兄に会えるのなら、参加するのはありかもしれない。
王都へ向かう馬車の中、屋根で陽射しを遮ることができる馬車はまだマシなのかな? 護衛騎士のみんなは防具も着けているしすごく暑そうだ。
休憩になると、僕は騎士のみんなに水を配って歩いた。
「テオドール様、ありがとうございます。あなたはこんなこと、なさらなくてもいいんですよ」
「みんな暑い中、大変でしょ? 僕にはこれくらいしかできないから」
馬たちにも水を配って歩いてると、フィリップ様がムッとした様子で向かってきた。
「結婚するんだからキスくらいはしていいか?」
「いいですよ。子作りもしていいですよ」
「ダメだ。テオがどうしても俺に抱いて欲しいと言うならしてやるが」
「してください」
子を産むために嫁いだんだから、子作りは必要でしょ? フィリップ様は時々よく分からない。結婚延期って言ったのも。取り消しってことなら分かるけど、延期する理由が分からない。
はぁ~
フィリップ様は大きなため息をついた。
色気がなくて、その気になれないってこと? 困ったな。僕には色気なんて元々無いのに、フィリップ様はその気にさせてみろよって言ってるのかもしれない。
「こっちに来い」
フィリップ様は僕の腕を掴んで茂みの奥へと歩いていく。僕は黙って付いていくと、大きな木の幹に押し付けられた。
「お前は弱いんだから騎士連中の辺りを彷徨くな。襲われるぞ」
「まさか。そんなわけないです。僕なんかを好んで襲う人なんているわけない。それに僕はフィリップ様の夫ですよ?」
「警戒心を持て」
警戒心か、確かにそれは必要かもしれない。せめて短剣は携帯しておこう。
「分かりました」
「いい子だ」
そう言ってフィリップ様は僕にキスをしてくれた。久しぶりのキスだ。舌がぬるりと滑り込んできて、フィリップ様の熱い吐息がかかる。
「ん……」
気持ちいい。温かくて、胸の奥がキュッとした。離れていく唇が寂しい。
「もっとしてほしいか?」
「してほしいです」
フィリップ様を見つめると、フィリップ様は今までにない激しいキスをした。舌の動きが激しくて付いていけなくて、唇も取れるかと思うくらい吸われて、軽く噛みつかれた。
「戻るぞ」
フィリップ様は僕の手を引いて歩いていくけど、今までにないキスで僕はドキドキしたままだった。
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