【完結】全ての記憶を無くしても君の感触は体が覚えている

cyan

文字の大きさ
5 / 36

クラウディオの父

しおりを挟む
 
「クラウディオ。」
「何ですか?父さん。」
「うっ、」

クラウディオに凍り付くような目線を向けられた父は狼狽え、一瞬言葉に詰まった。

「あ、いや、学園を優秀な成績で卒業したんだから就職口などどこでもあっただろう。仕事が決まっていないようだが、これからどうするつもりだ?」
「私は4男ですし、捨て置いてくれていいですよ。勝手にどこぞで野垂れ死ぬだけです。」
「いや、そういうわけには・・・。心配なんだよ。何が気に入らないんだ?前はもっと明るく優しい子だったろ?」
「はぁ、私も大人になったということです。子供のように無邪気に愛想を振り撒いているだけでは生きていけませんから。」
「そ、そうか・・・。」
「私は家を出ます。私がいることで家の中の空気が悪くなっていることくらい気づいていますし。」
「いや、そんなことはないぞ。」
「無理しなくていい。私は1人でも生きていけますから。」
「そうか・・・、すまない。」

クラウディオの父もまた、ニコニコと穏やかなクラウディオがこんな風に変わってしまったことに心当たりはあった。
婚約など、させなければよかった。
そうすればきっと、クラウディオは今でも穏やかな笑みを浮かべ末っ子として天真爛漫に過ごしていただろうに。
本当に2人は仲が良かった。記憶操作と報告は受けていたが、人格にまで影響を及ぼすものだとは知らなかった。
こんなことになるくらいなら、クラウディオは死んだことにして秘密裏に国外へ逃してやるとか、国と国との間に関わらない方法で2人を添い遂げさせてやることなどもできたのではないか。
事がここまで進んでしまっては、もうどうしようもないが・・・。
きっとジョルジーノの人格にも影響が出ているだろう。
あちらの侯爵家とは10年以上の付き合いで、親戚になるということで仲良くやってきた。王太子や姫のことは残念だったが、どちらにも非はあったし、王家ほど憤慨しているわけでもないだろう。一度相談してみてもいいかもしれない。
私は国に見つからないよう、3男がよく連んでいるという冒険者にこっそり手紙を届けるよう依頼した。間に何組かの冒険者を挟むことで工作をし、準備は念入りに行なった。

私が認めたしたためたのは、息子の人格の変化と、一緒にならせてやりたいと思っているという内容で、相手の出方次第で、更に内容を詰めていくつもりでいた。

そして侯爵から返答が来たのは1週間後のことだった。
内容は、やはりジョルジーノの人格も変わってしまったということと、あちらもできれば2人を一緒にしてやりたいし、元の息子に戻って欲しいと書かれていたが、あまりに乱暴者になってしまったため、家族でも手に負えないと諦めているようなことも綴られていた。
そして、近々家を出ていくようで、こちらの家族では止めることができないと。

なるほど。うちのクラウディオも家を出ると言っていたな。
今から最速で手紙を出しても、ジョルジーノが出立した後に手紙が届くことになるかもしれない。無念だ。
私もクラウディオの出立を止められないのだから、お互い様だな。

私は、今後もそちらの侯爵家とは敵対するつもりがないこと、もし奇跡が起きて2人の記憶が戻るような事があれば、亡命させてでも2人を一緒にするつもりだと書いて手紙を出した。

その後、3日もするとクラウディオは少量の身の回りの物を鞄に詰めて家を出ていった。家の者は誰もクラウディオが家を出ていったことに気付かないかった。
最後にクラウディオの姿を確認したものから話を聞くと、ちょっと街まで、というような荷物で家を出ていくのを見たそうだ。
行き先も告げず、一体どこへ行ってしまったのか。

しかし、王城で開かれる新年の夜会には顔を出した。
愛嬌がありいつも人の輪の中でニコニコ微笑んでいたクラウディオの変化に、皆も驚いている様子だった。しかしクラウディオは笑顔を失っても容姿は美しい。令嬢や令息にダンスを申し込まれている様子が見受けられた。
もしかしたら新たな出会いがあり、その者と愛を育むことがあるかもしれないと思い見守っていたが、クラウディオは誰からの誘いにも応じなかった。
記憶を封じられてもやはりクラウディオの中にはジョルジーノへの気持ちがあるのかもしれないな。

クラウディオはずっと誰かを探しているような素振りをみせていたが、夜会も後半に差し掛かると、私や家族に挨拶もせず、いつの間にか会場から消えていた。
貴族どもの挨拶など無視して、せめてどこで何をしているのかは聞いておけば良かった。
後悔とは先に立たないものである。それ以降はどの夜会に参加してもクラウディオの姿を見ることはなかった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

処理中です...