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73.伯爵家次男タクト
しおりを挟むコンコン
「ランディー様、お話役として参りました。タクトと申します。」
「どうぞ。」
翌日、ファルマ様はなぜか私に話役という人物を送ってきた。きっと私の様子を逐一ファルマ様へ報告する役目を担ったものなんだろう。
「ランディー様、国に戻られてすぐに王城まで連れてこられたと聞いています。大変でしたね。」
「えぇ、まぁ、そうですね。」
「お話役と言っても、別に貴方様の様子や話されたことをファルマ様に報告する義務を持っているわけではありませんので、何でも気軽にお話しください。」
「そうか。分かった。」
私の心を読んだかのようにそんなことを言うタクトという男。私より少し上くらいだろうか?
ファルマ様のような気安い感じは無く、真面目で誠実そうな青年で安心した。
彼は伯爵家の次男で、兄になかなか子が生まれず、家を出ることもできないまま、たまに兄を手伝ってフラフラしているのだとか。
フラフラしているのは私も同じだな。
長らく離れていたこの国のことを色々教えてもらった。部屋から出ることはできなかったが、王都で人気の菓子やお茶、本なども持ってきてくれて、毎日話が尽きることは無く、楽しい時間を過ごした。
「私はいつ解放してもらえるんだろうか。」
「すみません。私も帰り際にファルマ様へランディー様の解放を訴えてはいるのですがなかなか頷いてはいただけません。」
「いえ、タクト様が謝ることはありませんよ。」
タクト様はそんなことをしてくれていたのか。彼にとっては何のメリットも無いのにいい人だな。
そう思っていると、私の手が両手で握られた。
「美しい手ですね。しかし美しいだけではない。」
「え?」
「いえ、手の甲から見ると指先までしなやかでとても美しい。でも手のひらを見ると美しい手には似つかわしくないタコが当たって意外と分厚く逞しい手だ。」
「あぁ、私は剣や槍を嗜むから、手のひらはどうしても硬く厚くなってしまう。」
「素敵です。」
「そうか?」
しっかりと積み重ねてきた努力を褒められるのは嬉しいものだ。
「しかし、とても指先が冷たい。緊張しているのか、それとも疲れですか?」
「そりゃあな、王城に閉じ込められれば不安はある。自分のことだけでなく、家のことも。ふぅ、帰りたい・・・。」
本当にファルマ様はいつまで私をここに閉じ込めておくつもりなんだろうか?
「必ず私がランディー様を解放して差し上げます。」
そう言うと彼は私の肩にポンと触れてから帰っていった。
彼はそんな権力を持っているようには見えないが、何か策があるのだろうか?
その日は空が雲に覆われて、薄暗く蝋燭の火を何ヶ所かに灯していた。
家に帰りたいという思いはあったが、ファルマ様に放置されて軟禁されていても、退屈しなかったのは彼のおかげだ。
優しく私の心に寄り添ってくれる彼に感謝をしていた。
「タクト様が話し相手としてきてくれて助かっています。ありがとう。」
「私も楽しいですよ。ファルマ様にも困ったものです。いつまでランディー様を閉じ込めておくつもりなのか。
それでどうなのです?ランディー様はファルマ様のお気持ちに応える気はお有りですか?」
「無いですよ。全く。
私は解放していただけたらすぐにでも帝国へ戻るつもりですし。」
「私もついていきたい。」
驚いた。タクト様がそんなことを言うとは思っていなかったし、目的も分からないしな。やんわり断っておくか。私が唆したと言われても困る。
「それは難しいのでは?お家の問題もあるのでしょう?」
「そうですね。でも、私はランディー様を気に入っている。」
「そうですか。私もタクト様のことをいいお友達だと思っていますよ。」
「お友達ですか。」
「ええ。」
それ以外に何があるのか分からないな。
「私がランディー様のことを好きだと言ったら?」
「私もタクト様のことをお友達として好きですよ。」
「友達ではなく、貴方がほしい。ランディー様がほしいのです。」
ギラギラと光る彼の目はとても普通ではなくなっていた。あぁ、この男もファルマ様と同じだったのか。友達になれたと思ったんだが、そう思っていたのは私だけだったらしい。
まさか私を襲う気ではないよな?
彼は拳を握りしめたまま、目を閉じた。そして再び開いた時にはいつもの優しい目に戻っていた。
「驚かせて申し訳ありません。また明日来ます。私は諦めません。ファルマ様より私を選んでいただけるよう努力します。」
そう言うと、私の返事も待たずさっさと部屋を出て行った。
は?ファルマ様は無いと言ったのを聞いていなかったのか?努力されても、私がタクト様を選ぶことはないんだが。
困った。明日また来ると言っていたが、部屋に入れてもいいものだろうか?
今日は何もしてこなかったが、あの目は危険な気がする。
コンコン
「タクトです。今日は綺麗なお花を持って参りました。」
私は細くドアを開けて、そっとタクトの様子を見た。彼が手に持った小さな鉢植えには、白い可憐な花が咲いている。
いつもの優しい目に、うっすらと浮かべた笑みは嘘には見えなかった。
「ありがとう。」
「私が怖いですか?何もしませんよ。貴方が嫌がることはしない。」
この男、私の心が読めるのか?
私は彼の言葉を信じて部屋に招き入れることにした。
「どうぞ。」
彼から鉢植えを受け取ると、日が当たる場所の方がいいだろうと思い、窓辺に向かって歩いて行った。
コトリと窓辺に花を置いて花を眺める。やはり花を置くなら窓辺がいいだろう。この花は匂いがキツくなくていいな。ふんわりと香る甘い香りに顔を近づけた。
あ、そうだタクト様が来ていたんだ。花を眺めていて放置してしまった。
私が慌てて振り返ると、すぐ後ろにタクト様がいて、そのまま抱きしめられた。
え?これは不味い展開なのでは?
「タクト様、離してください。」
「少しだけ。」
そう言いながら逃しはしないという風に力を込められた。
昨日しっかりと断りの返事をしなかったせいで期待を持たせてしまったのか?
「タクト様、申し訳ないが私は貴方の気持ちに応えられない。」
「やはりファルマ様がいいのですか?王子だからですか?」
「いや、ファルマ様の気持ちにも応える気はない。私はこの国に長居する気はないんだ。」
「では私も連れて行って下さい。」
「無理だ。たまに家を手伝っているとは言っていたが、タクト様は他国に行って自分で稼いで生活していけるのか?自分の身は自分で守れるか?」
「それは・・・」
私も人のことは言えないが・・・
いつもマルクに守られてばかりで。しかし私はハンターとして登録したのだし、マルクと共にハンターとして活動すれば自分の食べる分くらいは自分で稼げる。自分でキジだって狩れる。
あの村にいれば、野菜を育てる手伝いだってできると思う。
ガックリと肩を落としたタクト様は、ようやく私のことを離して、タクト様はそのまま帰っていった。
友達を作るって難しいんだな・・・。
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