【短編】スラム育ちの俺がお母さんとか無理じゃね? 〜夫は敵兵ですが何か?〜

cyan

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「今日は雨が降るんだって。雨の日はいいよね。各所からの叫び声も雨にかき消されてうるさくないし。ぬかるんで足場は滑りやすいけど、それはそれで違う楽しさがある」

 カプリスが嬉々として戦場に出かけた日、俺はとうとう実行に移した。カプリスにさえ見つからなければ、俺は逃げられると確信していた。雨で音が遮られるというカプリスの何気ない言葉も俺の後押しをした。

 逃げるのは簡単だった。最近は俺が逃げる様子がないと拘束も緩かったし、スルッと抜けて、最初に出くわした奴から剣を奪うと、もう何も怖くなかった。
 拠点に残っている奴は僅かだったし、残っている奴は夜の見張りをしていた奴らだからほとんどは部屋で静かに寝ていた。
 トイレか水を飲むためか知らんが、出くわした奴は運がなかったってことでサヨウナラ。

 俺は敵国へ逃げた。その方が見つからないと思ったからだ。俺が逃げるとしたら、自国だと誰もが思うだろう。そこで僅かでも時間を稼げればいい。
 俺は別に国に忠義があったわけじゃない。国に思い入れもない。どこの国でもいいんだ。

 走って走って、更に走って、辺鄙な田舎の村に辿り着いた。剣を隠して村にヨロヨロと近づいた。
「おい、あんた大丈夫か?」

 俺の設定は逃げた奴隷だ。
 そこからは村人に溶け込んで暮らした。力はあったから、畑仕事では重宝された。

 おかしいと思ったのは村に馴染んで二ヶ月も経たないくらいの頃だ。何をしても気持ち悪くて、毒でも盛られたのかと思った。しかし村人が俺に毒を盛る理由がない。
 気持ち悪さはあるし、食事もあまり取れないが、畑仕事はできた。死ぬかと思ったが意外と死ななかった。
 しばらくすると食事は食べられるようになって、気持ち悪さもなくなっていった。しかし次に訪れたのは別の変化だ。腹が張っている。

「あんたもしかして孕み腹か? 子が腹にいるんじゃないか?」
 村長にそう言われて、まさかと思った。
 だが、日に日に腹は大きくなり、中で何かが動いている。もう認めるしかなかった。

 生まれてくる子はカプリスとの子なんだよな?
 そう思うと不思議な気分だった。
 腹が痛くなって、生まれてきた子は男の子だった。

「この子の名前はどうする?」
 長老が聞いてきて、名前が必要なのだと知った。親が与えてやるものなのだと。
 名前。リオランにしよう。初めてできた俺の守るべきもの。俺の宝だ。

 こいつはいつも泣き喚いて、全然言うことを聞かない。言葉も話せないし、俺の言葉も理解していないようだ。
 しかもこいつは歩くこともできず自分で用を足しに行くこともできないんだ。歯もないから、普通の飯も食えない。
 液体を飲んで寝て出すだけの存在。
 だが、可愛いと思えた。

「お前俺の腹の中に住んでたんだぞ」
「あーうー」
「言っても分かんねえよな?」
 子育てなんかしたことない俺を、村のみんなは手伝ってくれた。
 このままこいつと二人、ここで幸せに暮らしていけると思ったんだ。

 
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