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57.帰宅
僕はドラータ王国に戻って、真っ直ぐにあの木に向かった。
メレディス様と出会ったあの木。
宿に泊まるお金も無いし、僕は今日はこの思い出の木の上で寝ようと思ってたんだ。
それで明日起きて、メレディス様の姿を一目見たら、また国を出て別の国にでも行こうかなって思ってた。
ドンッ
え? 何?
僕が登った木にぶつかられたのは今回が二度目。
一回目はお腹を刺されたメレディス様だった。今回は誰だろう? また刺された人じゃないよね?
僕は恐る恐る木を降りて見てみると、そこにはメレディス様が寝ていた。
また刺されたんじゃないよね?
そっとお腹を見てみるけど、刺されてなかった。じゃあ何でこんなところで寝てるの?
「メレディス様?」
「レスター、愛しているよ。夢でもいい。会いたかった……」
そう言いながらメレディス様は僕を引き寄せて抱きしめると、また眠ってしまった。
僕のこと、まだ愛してるって言ってくれるの?
僕はそれが嬉しくて、抜け出そうと思えば抜け出せるけど、そのまま大人しく抱きしめられていた。
何日も木の上で仮眠をとる生活だったから、温かいメレディス様の体温で急に眠気が襲ってきて、起きていられなくなった。
「レスター?」
「あ、」
メレディス様に名前を呼ばれて意識が浮上した僕は、咄嗟に逃げようとした。
「待って。お願いだ。待ってくれ」
でも逃げられなくてメレディス様に腕を掴まれた。
そして腕を引き寄せてまた抱きしめられた。ギュッと力を込められて、今度は逃げられそうにない。
「ごめんなさい」
「謝らなくていい。きっと私が悪かったんだ。レスターが逃げ出したくなることをしたんだ。ごめん。どうか話してくれないか? 直すから。嫌なところは直す。結婚したくないならしなくてもいい。側にいてほしい。レスターは私の唯一なんだ」
唯一? じゃあエイミー様は?
「エイミー様は?」
「エイミー? なぜそこで祖母の名前が出てくるんだ?」
「祖母!? ソボっておばあちゃん?」
「あぁ。私の父を産んだ人だな」
祖母……おばあちゃん……エイミー様はメレディス様のおばあちゃんなの?
「エイミー様の花って……」
「祖父が祖母のために品種改良した薔薇だ。それがどうした? 羨ましかったのか? それなら私もレスターの花を作る。エイミーよりもっと綺麗な花を作るぞ」
メレディス様のおじいちゃんがおばあちゃんのために作った花?
だからメレディス様も咲くと喜ぶの?
「ソファーの下のラブレターは?」
「なんだそれは? レスターがソファーの下にラブレターを置いていったのか? すまない見つけられなかった」
「違います。メレディス様がエイミー様に宛てたラブレター」
「は? なんだそれは。そんなもの知らない。私じゃないんじゃないか?」
「そんな……」
ラブレターはメレディス様が書いたんじゃないの?
「もしかして、レスターはそれを見つけて不安になったのか?
私が他の者を好いていると思ったのか?」
「……はい。ごめんなさい」
「よかった。私のことを嫌いになって出ていったわけじゃないんだな。いや、それもあるのか?」
「嫌いになんてなれません。僕はきっと、一生メレディス様しか愛せない」
「うん。私もだ。後にも先にもレスターだけだ。レスターしか愛せない。
一緒に帰ろう?」
馬鹿みたいにあんなのを信じて逃げ出してしまった僕に、まだ一緒に帰ろうなんて言ってくれるの?
「でも、僕は逃げ出してしまった」
「そんなことなど些細なことだ。レスターが側にいてくれるなら、それ以上に望むことなどない」
「僕、帰ってもいいの? 結婚式も、もう過ぎちゃったよね?」
「大丈夫だ。レスターの帰るところはちゃんとある。私がついているから心配ない」
「うん」
本当は結婚式に間に合うように帰ろうと思った。
帰る場所なんてないかもしれないけど、戻れるなら戻りたいって思ったのも本当なんだ。
でも間に合わなくて、やっと今日、王都に着いたけど屋敷には帰れなかった。
どんな顔して帰ればいいのか分からなかったし、屋敷に入れてもらえないと思ったから、僕はこの木の上で寝ようと思ったんだ。
メレディス様は屋敷に馬車で迎えにくるよう手紙を飛ばした。
「レスター様!」
ゼストは僕を見つけると、涙を浮かべて僕に駆け寄ってきた。
「ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。ご無事で何よりです。さぁ、屋敷に帰りましょう」
「うん」
怒らないの? なんで誰も怒らないの?
メレディス様は僕を膝の上に乗せてずっと抱きしめてて、全然放してくれなかった。
「メレディス様、降ろしてください。僕は歩けます」
「じゃあ、手を繋いでいていいか?」
「はい」
メレディス様は僕を抱っこしたまま部屋へ向かおうとしたけど、僕が降ろしてほしいって言うと少し寂しそうな顔をして降ろしてくれた。
「ソファーを確認したい。レスターが不安に思うようなものは燃やしてもいい」
「そんな……。そこまでしなくていいです」
ゼストにも手伝ってもらって、部屋の中央に置かれたソファーをひっくり返すと、メレディス様はラブレターをじっくり読んでいた。
「なるほど。大好きだと、ずっとあなただけ愛することをここに誓うと。例え叶わなくても愛し続けるというような内容が書かれているな。確かに宛名はエイミーで署名は私の名前だ。私はこんなものは知らんぞ。誰かの悪戯か?」
「もしや……」
「ゼスト、なんだ? 犯人を知っているのか?」
「旦那様が幼い頃によくエイミー様に読んでいただいていた本ではありませんか?」
「本?」
「確かエイミー様の遺品の中にあった気がします。持って参りましょう」
「頼む」
本? 何のことだろう?
ゼストが持ってきた本を一緒に見てみると、誰にも見つからないようにこっそり手紙をやり取りするというゲームのような内容で、その中にソファーの裏に書かれた内容と全く同じ一節があった。
「思い出してきた。書いたような気がする。本の中では宛名に女性の名前が書かれていたから女性の名前を書こうと思ったんだが、母の名前は長かったから祖母の名前を書いたんだ。それ以外に女性の名前など知らなかったからな」
「そ、そうだったんですね……」
そうなんだ……
勝手に勘違いして、いつの間にか家出して、恥ずかしい。
僕は繋いでいない方の手で顔を覆って俯いて、顔を上げられなくなった。
「誤解が解けてよかったですね。私は失礼します。何か御用があればお呼びください」
そう言うと、ゼストは部屋を出ていった。
「レスター、私はレスターのことを愛している。レスターはどうだ?」
「僕もメレディス様を愛しているけど……」
「レスター、私と結婚して下さい」
メレディス様は僕の手を握ったまま片膝をついて僕を見上げた。
「こんな僕でいいの?」
「レスターじゃないとダメだ」
「……はい。よろしくお願いします」
いいの? メレディス様がいいって言ってくれるなら、僕はメレディス様の隣に戻りたい。
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