【短編】門番のおじさんイケメン近衛騎士に唇を奪われる

cyan

文字の大きさ
4 / 10

4

しおりを挟む
 
「ローマンさん、私のこと覚えていますか?」
「え?」
 覚えているとはいつのことだろうか? いつも会釈してくれることを楽しみにするくらい彼のことは大きな存在になっているが、いつのことを言っているのか分からなかった。

「覚えていないですよね。まだ私は子どもでしたし、ローマンさんが助けた人のことを全て覚えていたらキリがない」
 なんの話だ? 雲行きが怪しくなってきた。

「それはつまり、リックが子どもの頃に俺と会ったことがあると?」
「はい! その時からずっとあなたに憧れていました!」
「そ、そうか」
 なるほど? ん?
「聞きたいですか?」
「聞かせてもらえるのなら、聞きたい」

 彼は俺が27の時に遠征で行った辺境の村で助けられたのだとか。当時は5歳の子どもだったそうだ。ということは今は23ということか、若いな……

 森でオークの上位種が出たときに、追われたウルフが村までやってきた。子どもの足では逃げきれずに死んでしまうと思ったとき、俺が助けたそうだ。
 そして泣きじゃくる彼を抱っこしてみんなの元まで連れていった。しかし怖くて俺の服をずっと掴んでいたら、夜眠るまでずっと抱っこしていてくれたのだとか。

 なんとなく覚えている。確かにリックのような湖のような深い青色の髪だった。俺なんかを慕ってくれる女の子など珍しいと記憶に残っていた。あの子は女の子ではなかったか? それがリック? ジッと顔を眺めると、あの頃の記憶と重なる。

「あの時の! すまん、可愛かったから女の子かと思っていた」
「残念ですか?」
「いや、そんなことはない。昔から可愛かったが、そうか大人になるとこんなに美しくなるのか」
 昔助けた子がこんなに立派になったのかと思うと、胸に熱く込み上げるものがあった。

「ローマンさんに憧れて必死に鍛えて18で辺境の領主に取り立てられ、去年推薦していただいて、やっと国家騎士となったのに、あなたは退役していた」
「ああ、俺はもう歳だ。体力的にキツくてな……」

「あの時の絶望。しかし城門であなたを見つけた時の喜び」
「こんなくたびれたおじさんになっていてガッカリしたか?」
「いえ、ますます好きになった。どう声を掛けていいのか分からなくて、我慢できなくていきなりキスなんてして、すみませんでした」
 ああ、そういえば初めて彼と話をしたのは壁際まで追い込まれての「いいですよね?」なんて言葉だった。
 そしてそのままキスしたんだった。

 ちょっと待て、それでは話がおかしくなってくる。これは門番のおじさん落とすという罰ゲームか虐めではなく、本心だったということか?
 俺はさっき彼になんと言った?

 ──エリック様、好きですよ。

 背中を冷たい汗が流れていった。このまま黙っているのは彼を騙すことになってしまう。だが好きだと言ったことは嘘だなんて言ったら、俺は彼を弄んで捨てたことにならないか? とんでもない悪い男のようだ。彼を絶望に落とすのか?
 この手がずっと繋がれたままでいるのは、好きだから?

 それは本当か?
 幼い頃に救ったのは本当だったとしても、落ち目のおじさんを好きだなんてどう考えてもおかしい。ダンディーな紳士だったり、金や地位があるのなら分かるが、俺には何もない。

 俺は動揺し視線を彷徨わせた挙句、ジョッキの縁を見た。

「好きだというのは、その……騎士の理想像として?」
 ジョッキを掴むと申し訳程度に口をつける。

「それもありますが、私のものにしたい」
 っ!!
 俺はエールを吹き出しそうになった。

 想像はしていた。キスされたし、抱きしめられた。理想の騎士だけならば、尊敬という意味で熱い視線を送ったとしても、キスなどしない。
 しかしこうもはっきり言われてしまうと、もう逃げ場はない。彼のことが嫌いかというとそんなことはない。彼は美しいし、見つめられると胸が高鳴る。だが恋と呼ぶにはまだ何かが足りない。
 どうする俺。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

騎士隊長が結婚間近だと聞いてしまいました【完】

おはぎ
BL
定食屋で働くナイル。よく食べに来るラインバルト騎士隊長に一目惚れし、密かに想っていた。そんな中、騎士隊長が恋人にプロポーズをするらしいと聞いてしまって…。

何故か男の俺が王子の閨係に選ばれてしまった

まんまる
BL
貧乏男爵家の次男アルザスは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。 なぜ男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へ行く。 しかし、殿下はただベッドに横たわり何もしてこない。 殿下には何か思いがあるようで。 《何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました》の攻×受が立場的に逆転したお話です。 登場人物、設定は全く違います。

アルファの双子王子に溺愛されて、蕩けるオメガの僕

めがねあざらし
BL
王太子アルセインの婚約者であるΩ・セイルは、 その弟であるシリオンとも関係を持っている──自称“ビッチ”だ。 「どちらも選べない」そう思っている彼は、まだ知らない。 最初から、選ばされてなどいなかったことを。 αの本能で、一人のΩを愛し、支配し、共有しながら、 彼を、甘く蕩けさせる双子の王子たち。 「愛してるよ」 「君は、僕たちのもの」 ※書きたいところを書いただけの短編です(^O^)

パン屋の僕の勘違い【完】

おはぎ
BL
パン屋を営むミランは、毎朝、騎士団のためのパンを取りに来る副団長に恋心を抱いていた。だが、自分が空いてにされるはずないと、その気持ちに蓋をする日々。仲良くなった騎士のキトラと祭りに行くことになり、楽しみに出掛けた先で……。

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

処理中です...