【完結】可愛く転生したのに、僕は生まれ変わっても好きなものを好きと言えない

cyan

文字の大きさ
2 / 44
はじまり

2.

しおりを挟む
  
「フロリアン、また剣術の稽古をサボったな? 罰として今から素振り千回だ!」
 腕を組んで仁王立ちしている父上に怖い顔で言われると、逆らうことはできなかった。

「はい……」
 俺、いや僕の今の名前はフロリアンだ。
 正式な名前はフロリアン・タツオ・ザイフェルト。なぜかミドルネームにタツオという名が入っている。
 今は亡きお祖父ちゃんが付けたそうで、その意味は誰も知らない。僕は知っているけど……。龍男は僕の前世の名前だ。
 雄々しい名前も嫌だった。フロリアンという綺麗な名前は好きだが、タツオという名が入っているのは複雑な気持ちだ。
 お祖父ちゃんって何者? と思ったけど僕が一歳を迎える前に亡くなっているから、もう理由を聞くことは叶わない。
 今のところタツオと呼ばれることはないけど、呼ばれても僕は振り向いてしまうと思う。

 それにしても素振り千回とは父上は無茶を言う。
 龍男のような屈強な身体であれば、剣の素振り千回くらいは余裕だったかもしれない。だが、フロリアンの今の身体は華奢で力が無い。
 鉄の塊のような大きな剣を持たされ、兄さんに監視されながら倒れるまで素振りをさせられた。

「73……74……くっ……」
 もう腕はパンパンで、剣が重くて立っていられず膝をついた。
「もうへばったか。リアンは細すぎる。もっと食え。俺たちと同じ血が流れているからもっとできるはずだ!」
「ごめ、なさ……」
 今、僕の監視をしている兄さんは、二人いる兄のうちの一人で、次男のディートヘルム。僕の二歳上で騎士学校の二年だ。先日卒業したんだったかな? 二週間後には騎士団への入団が決まっている。それで実家に戻ってきているんだ。

 僕の兄はもう一人いる。長男のグレーリ。彼は騎士団の分隊長をしている。分隊長とは、五人前後の部下を持つ小さな隊の隊長で、それが五つ集まると小隊とか何とか聞いた気がする。
 僕より五歳上で、彼も父上やディート兄さんと同じように龍男のような、大きく屈強な体型をしている。聳え立つ岩のような男たちだ。

「リアン兄さんって本当に情けない。私だってもう少し振るえるわ!」
 そして僕にはもう一人兄妹がいる。一歳下の妹のエミーリアだ。名前はとても可愛い。だが前世の天使のように可愛い妹、花恋とは似ても似つかない全く可愛くない妹だ。
 僕より背が高く、筋肉も僕よりある。ガサガサに荒れた手も僕より大きくて、兄さんたちには負けるけど腕は丸太のように太い。
 見た目は仕方ないとしても、性格も仕草も可愛くない。ガニ股で歩くし、大口を開けて笑うし、髪も梳かさずボサボサ。いつも僕のことを馬鹿にして、弱くて情けないと笑う。
 一応うちは男爵家だから貴族なんだけど、とても貴族令嬢とは思えない振る舞いだ。ドレスを着ているところなんて一度も見たことがない。

 うちは騎士の家系だ。ずっと昔のご先祖様の時代から、武功を立てて一代限りの騎士爵を賜ってきた。各世代に必ず自力で騎士爵を得るほどの実力者が生まれていたらしい。
 それが僕の曽祖父の代で功績を立て、世襲制の男爵になって、ザイフェルト家は貴族入りを果たした。
 領地は辺境にあり、山脈に囲まれた田舎だけど、僕は気に入っている。
 高い山脈の向こうは何があるか分からない。父上も母上も知らないそうだ。山脈の山頂付近の白く見える部分は雪で、万年雪と呼ばれ、真夏でも溶けないのだとか。だからその向こうに国があったり誰かが住んでいるのかは分からないけど、敵が山を越えてくることはない。田舎だけど安全な土地だ。

 ザイフェルト家の当主は父上ではなく母上だ。母上もかつては騎士として活躍していた。
 母上の代は女の子しか生まれなかったけど、全員騎士になったそうだ。
 それで武功を立てた父のことを祖父が気に入って婿に迎えた。領地のことは母上と代官がやっていて、父上は一年の大半を王都の騎士団で過ごしている。
 そんな感じだけど夫婦仲は悪くないようで、少しでも時間があれば父上は早馬を飛ばして領地に戻ってくる。
 今も、ディート兄さんに僕の訓練を丸投げして母上のところに行っている。

 母上は結構綺麗な人で、現役を引退して筋肉が落ちたのか、スレンダーな体型だ。僕のような華奢な感じではなく、元騎士なだけあって引き締まっている感じだ。
 母以外の家族は筋肉の塊のような体型だから、僕だけ異質な感じはある。
 でもいいんだ。せっかく可愛らしい見た目に生まれたんだから、僕は堂々と好きなことをして、好きなものを好きだと言いたい。

 手のひらを見ると、剣を振りすぎて皮が捲れて血が滲んでいた。どうりで痛いわけだ。
 ──ヒール
 僕は小さく呟いて、手のひらに治癒の魔法をかけた。そう、この世界は魔法がある。僕は弱いけど、治癒魔法が使える。
 ファンタジー世界のように魔物だっている。僕は見たことがないけど。

 数時間前に龍男の記憶が蘇ったわけだけど、フロリアンの性格は龍男そのものだった。気が小さく争いが苦手で、可愛いものが好き。この世界にはゲームも漫画もないけど、魔法の勉強だけは楽しんでやっていた。争いが苦手だから、魔法の腕は隠している。
 明日も父上とディート兄さんは、山脈の麓に発生した魔物の群を討伐しに行くと言っていた。アイスなんとかと言っていたけど興味がなくて忘れた。
 妹のエミーリアも行くと言っていたっけ……。

「リアン、お前の腕ではまだ無理だ。残念だが留守番だ」
 ディート兄さんに言われてホッとした。全然残念じゃないし、魔物であっても何かを殺すのは怖い。
 妹が情けないだのなんだのと言ってきたけど、僕はそんなの気にしない。
 僕はできれば誰とも何とも戦いたくない。平穏に生きていきたいんだ。

 だがザイフェルト家に生まれてしまった僕は将来が決められている。
 来月から騎士学校に入らなければならないんだ。兄二人も優秀で、代々強い騎士を輩出してきたザイフェルト家は、試験を受けずとも騎士学校に入学できる。

 嫌だと言っても、家を出されたらどうやって生きていけばいいのか分からない。入学は決定だけど、できれば途中で適職を見つけて離脱したいと思っている。
 ぬいぐるみ職人とかどうだろう?
 実はまだぬいぐるみや可愛いカーテンなどを、フロリアンになってからは作ったことがない。街に一人で行かせてもらえないからだ。
 母上は貴族令嬢が嗜みそうな刺繍なんてしないし、針と糸がないかとメイドに尋ねたら、「そんな仕事は私たちがやります」と言って買うことを反対された。
 そのせいで、可愛いガラス瓶や髪飾りを集めることくらいしかできなかった。早く自分で稼げるようになって裁縫道具を買いたい。

 騎士学校は、ディート兄さんが二年で卒業するということは二年通うことになるのだと思うけど、前世の日本のように学校紹介のパンフレットがあるわけでもなく、どんな仕組みかも分からない。分かっているのは王都にあって全寮制ということだけだ。

 せっかくディート兄さんが帰ってきているのだから学校のことを聞けばいいんだけど、顔を合わせると訓練訓練で、話をする隙を与えてもらえない。
 この世界でも僕は誰にも理解してもらえないんだ。

 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

オークとなった俺はスローライフを送りたい

モト
BL
転生したらオークでした。豚の顔とかマジないわ~とか思ったけど、力も強くてイージーモードじゃん。イージーイージー!ははは。俺、これからスローライフを満喫するよ! そう思っていたら、住んでいる山が火事になりました。人間の子供を助けたら、一緒に暮らすことになりました。 子供、俺のこと、好きすぎるのやめろ。 前半ファンタジーっぽいですが、攻めの思考がヤバめです。オークが受けでも別に大丈夫という方のみお読みください。 不憫オークですが、前向きすぎるので不憫さは全くありません。 ムーンライトノベルズでも投稿しております。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

【完結】待って、待って!僕が好きなの貴方です!

N2O
BL
脳筋ゆえ不本意な塩対応を只今猛省中、ユキヒョウの獣人 × 箱入りゆえガードが甘い愛され体質な竜人 愛しい幼馴染が有象無象に狙われて、居ても立っても居られなくなっていく余裕のない攻めの話。 (安心してください、想像通り、期待通りの展開です) Special thanks illustration by みとし (X:@ibarakiniarazu) ※独自設定かつ、ふんわり設定です。 ※素人作品です。 ※保険としてR設定にしていますが、基本健全。ほぼない。

【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話 【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】 孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。 しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。 その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。 組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。 失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。 鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。 ★・★・★・★・★・★・★・★ 無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。 感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡ ムーンライトノベルズにて改稿版を掲載しました。

王子殿下が恋した人は誰ですか

月齢
BL
イルギアス王国のリーリウス王子は、老若男女を虜にする無敵のイケメン。誰もが彼に夢中になるが、自由気ままな情事を楽しむ彼は、結婚適齢期に至るも本気で恋をしたことがなかった。 ――仮装舞踏会の夜、運命の出会いをするまでは。 「私の結婚相手は、彼しかいない」 一夜の情事ののち消えたその人を、リーリウスは捜す。 仮面を付けていたから顔もわからず、手がかりは「抱けばわかる、それのみ」というトンデモ案件だが、親友たちに協力を頼むと(一部強制すると)、優秀な心の友たちは候補者を五人に絞り込んでくれた。そこにリーリウスが求める人はいるのだろうか。 「当たりが出るまで、抱いてみる」 優雅な笑顔でとんでもないことをヤらかす王子の、彼なりに真剣な花嫁さがし。 ※性モラルのゆるい世界観。主人公は複数人とあれこれヤりますので、苦手な方はご遠慮ください。何でもありの大人の童話とご理解いただける方向け。

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

君は僕の道標、貴方は俺の美しい蝶。

黄金 
BL
 小説の中に転生するとかあるんだ……。  仕方ないから最後まで進めてトンズラしよう。そう思っていた主人公………。  だって総受けメンバーの1人とかあり得ないし?   ※ちょっと暗い話書いてみたいなぁで書いてます。  異世界転生(転移)ものです。好きなので。  おまけは本編で悪役側になった人達がやり直しの人生を送れたら…?という話になります。興味があればお読み下さい。  有難う御座いました。

処理中です...