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騎士学校篇
10.
しおりを挟む「あの……」
「なんだ?」
「お名前を聞いてもいいですか?」
どっちにしても救護班に結果を報告しなければならないため、名前の確認は必要だ。
「俺はランドルフ。第二騎士団の団長だが知らなかったか?」
「団長……すみません。名前は知っていたのですが、お顔を拝見するのは初めてで……」
「そう怯えることはない。フロリアンは俺を助けたんだから堂々としていればいいんだ」
「はい……」
「それにしても可愛いな。俺のものになるか?」
「へ?」
第二騎士団の団長ランドルフといえば、我が国の第三王子だ。今まで騎士団の中で僕は見た目だけで少し人気があるという実感はあった。だけど僕に手を出した人はいない。そんな話をすれば、周りにいる友達が割って入って守ってくれるからだ。
でも今、ここに友達はいない。どうやって逃げる?
王族が低位貴族である僕を相手にするはずがない。遊びで夜の相手をさせられ、飽きたら捨てられるのだと思うと怖くて無理だった。
こんなガタイのいい男の相手など、龍男の頃の体であればまだ受け止められたかもしれないが、この細く華奢なリアンの体では無理だ。
「お、恐れ多いことでございます。僕のような者が殿下のそばに侍るなど……」
「そうか、残念だ。だが俺は諦めないからな。覚悟しておけ」
断ったせいでかえって燃え上がらせてしまったかもしれない。
「僕、もうそろそろ戻らないと……」
「ダメだ。もう少しここにいろ。ほら、この手」
殿下が見せてくれた大きな手の指先は、小刻みに震えていた。
「今回こそはもうダメだと思った。今になって震えてやがる。だからもう少しだけ、このままでいさせてくれ」
「はい」
縋り付くようにそんなことを言われたら、断れなくて、僕は大人しく殿下の腕の中にいるしかなかった。
どうせ魔力がほとんどないから戻ったところで救護班の仕事はできない。体もだるいし、もうどうでもよくなってきた。
「魔力切れで辛いだろ? 寝ていろ」
「はい」
どうでもよくなった僕は、殿下の腕の中で再び眠りについた。
*
>>>救護班リーダーの憂鬱
「フロリアンはどこへ行った?」
救護班のリーダーがフロリアンを探していた。
「彼は一応紫を持って団長のところへ行かせました」
「なんだと? 団長はもう……厳しいと聞いている。まさかまだ学生のフロリアンに団長を助けられなかった責任を負わせる気か?」
まだ身罷ったとは聞いていないが、助かる見込みは限りなく薄いと報告を受けていた。
リーダーにとってはそれも悩みの種だった。誰を行かせても助からないが、誰かが看取らなければならない。
王族を死なせたとなれば、その対応によっては不適切だと言われて処分が下ることが考えられた。
「フロリアンは学生です。我らが団長を助けられなければどうなるか分かりませんが、フロリアンなら学生ということで重い責任を背負うことはないと判断しました」
こいつの言うことは一理ある。だが、まだ学生の彼に王族を看取らせるなど……。
「なんてことだ……」
もう息を引き取っている可能性はある。まだギリギリ息をしていれば、彼に責任を負わせることはない。リーダーは少し迷い、まだ未来あるフロリアンを連れ戻すことにした。
「失礼します」
天幕の入り口で一応声をかけてみるが中から返事はなかった。
殿下が身罷り、フロリアンはショックで倒れているのかもしれない。最悪の結果を予想しながら天幕へ足を踏み入れた。
だがそこには眠るフロリアンを抱きかかえて座る殿下がいた。どういう状況だ? 座っているということは、目は閉じているが生きているのか?
「殿下」
恐る恐る声をかけてみると、殿下は目を開けて、シィーと人差し指を口に当てた。
「彼は魔力切れで寝ている。静かに。俺は大丈夫だ」
「分かりました。彼が起きたら、救護班まで来るようお伝えください」
それだけ伝え、天幕を後にした。
天幕を出ると、力が抜けてヘナヘナと座り込んでしまった。
「リーダー、大丈夫ですか? やはり、助からなかったんですね……」
部下が駆けつけてくれたが、少しの間放心していた。瀕死だと報告を受けていたが、それが間違いだったのかもしれない。
だが、フロリアンはかなりヒールを連発してもいつもケロッとしていた。
学生など止血程度のヒールを三回も使えば倒れてもおかしくないのに、彼は止血どころか完治するほど強いヒールを使う。
「殿下は生きている。もう大丈夫だと言われた。だがフロリアンが魔力切れになった」
「魔力切れまでかけ続けても助からない命もありますからね……」
殿下が助からないと思っている部下の、悲痛な表情をみて思わず笑ってしまった。
はははっ
「リーダー、どうしたんですか? 疲れておかしくなりましたか?」
「後で面白いものが見られるかもな」
それだけ告げると、立ち上がって怪我人の元へ向かった。
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