31 / 44
すれ違い篇
31.(※)
しおりを挟むあれからも何度か殿下に呼ばれてお茶をした。毎回抱きしめてもくれた。
だけどキスはしてくれないし、王宮の部屋に招いてくれることはなくなった。
とうとう殿下は僕の体に飽きてしまった。抱きしめてくれるのは、酷い抱き方をしたからお詫びということだろう。
優しいけど残酷な人だ。
第二や王都にいる友達にはやっと戻ってきたと歓迎されて、食堂で僕の帰還パーティーが開かれた。寮にいた他の団の人もたくさん集まった。ディート兄さんは僕が起こした問題の後始末に行っているからいない。グレ兄さんはちょうど遠征から戻っていたから参加してくれた。
おかしな誤解をされることを防ぐためにも、特定の一人と過剰に仲良くしないようにと注意された。ただし愛した相手ならいいと。
グレ兄さんは結婚が決まっている。相手は近衛の女騎士で、ゴリゴリの筋肉に包まれた女の人じゃなく、スレンダーで綺麗な人だ。魔法が堪能で、物理攻撃はあまり得意ではないという僕みたいなタイプの人だった。
きっと二人の間に生まれた子がザイフェルト家を継ぐんだろう。それは楽しみだ。
何ヶ月も殿下とお茶するだけの関係が続くと辛くなってきた。お気に入りの娼館の人のところには、今も通っているんだろうか? そう思うと、僕は殿下にとって何なのかと虚しさが押し寄せてくる。
抱きしめてくれる腕が優しければ優しいほどに泣きたくなる。
「殿下、もう僕の体には飽きてしまわれたのですか?」
思い切って聞いてみた。答えを聞くのは怖かった。殿下に飽きたと言われたら、そこで終わってしまう。こうして抱きしめてくれるのも、お茶の時間さえ終わってしまうのかもしれない。それでも聞きたかった。本当にもう要らないのなら、気を遣わせるだけなら、僕は消えてしまいたかったのかもしれない。
「そんなことはない」
それは優しさなの? それとも本当のこと?
「もう抱かないの?」
「抱いていいのか? 俺が怖いだろ?」
「怖くない。僕は殿下のものです」
もしかして抱かなかったのは、飽きたからじゃなくて前に酷い抱き方をしたからだろうか? それなら、もっと早く言えばよかった。ずっと悩んでいた僕が馬鹿みたいだ。
「今夜、部屋に来るか?」
「はい」
僕は本当にいいのか迷いながら部屋に向かった。久しぶりの殿下の部屋には、僕があげたウサギさんがちゃんと枕元にいて、ずるいと思った。僕だって殿下のそばで一緒に眠りたい。僕が物言わぬぬいぐるみになれば殿下はそばに置いてくれる?
「殿下、ウサギさんの香りが薄れていますね。ラベンダーの花を詰め替えてもいいですか?」
「ああ、頼む」
君は必要とされていいな。僕が作り出したぬいぐるみなのに、ぬいぐるみに嫉妬なんてしても仕方ないのに、僕だって殿下に必要とされたい。
「リアン、俺のことを見ろ」
「はい」
殿下はなんでそんなことを言うんだろう? 全然分からないよ。怖がっている相手を抱くのが嫌だから、怖がらないか確かめているんだろうか?
「リアン、可愛い」
「あっ……殿下……」
僕は殿下に嫌われることは怖いけど、殿下自身を怖いなんて思っていないのに、僕を気遣いながら抱いてくれた。そんなに優しくされたら勘違いしそうになる。今だけは殿下の瞳に僕だけを映してほしい。
あの日は言ってくれなかった「可愛い」を、今日は何度も言ってくれた。
よかった。まだ僕は殿下に望まれてる。
抱いてる時だけでいい。僕だけを見て、僕だけのことを考えてください。
終わると途端に虚しくなる。本当にこれが正しかったのかが分からない。清浄魔法をかけてシーツの皺を伸ばして、僕はウサギさんを抱えた。この部屋を立ち去る瞬間が一番寂しい。
「リアン、まだここにいろ」
「はい」
殿下に背中を向けて出て行こうとした僕を、殿下は引き留めてくれた。僕が寂しいと思っていることに気づいたのかもしれない。
その優しさは、何のためですか?
僕の治癒魔法の腕か、たまに性欲を満たしてくれる都合のいいセフレか、僕の魔法の腕に気づいているってことはないよね?
その答えは、僕の体に飽きたかどうかを聞くより怖い。セフレならまだいいんだ。殿下自身が望んでくれているのだと分かるから。魔法の腕だとしたら、誰かの指示で仕方なく僕をそばに置いて、そして僕の機嫌をとっているだけの可能性がある。そんなことを聞いた日には、僕はまた逃げ出したくなるかもしれない。カールと一緒にはならないけど、国境を越えてどこかに消えたくなってしまうかもしれない。
581
あなたにおすすめの小説
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる