白銀の大地に轟くは

アトラス

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若き苦労者と鋼鉄のお子様

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第2話 若き苦労者と鋼鉄のお子様

 昼間白銀の世界だったこの大地は夜になると光を失い漆黒そのものへと変わる。
 今は吹雪もそんなに強くはなくサーチライトが照らされレーダーも稼働している。

「えーーっと..今日の報告書は..げっ、戦車18両修理と9両の砲身全取り換えぇ? まぁ鋼材なんかは拾って大量に余ってるから良いか..」

渡された紙束をペラペラと捲りながら苦笑する。
ここ最終要塞集落アビスネストの村長 マーズは薄暗い部屋の中1人佇んでいた。
20代後半髭を蓄え、見た目より老けて見えるのは白髪混じりの髪の毛のせいであろう。

「居住区からは..今月の収穫量が増加、研究所からは..少し忙しくなるな」

アビスネスト 人類最後の盾。この巨大な要塞はグロウの脅威から生き残った人類を護る為造られた地上約120m、地下約700mの楔型の基地。

 周辺には大規模な軍需品を生産する工業地帯や屋外訓練所 点在する観測所などが広がり、その周りをバリケードが囲う。
 地下施設は区画整理がされており主に居住区画シェルター広がる。
 非戦闘員を収容するこの区画は元々の生活を送ることを前提に設計 整備されたまたひとつの世界が造られている。

「最後はバベルとノアからの定期通信っと..」

 バベルはここから北へ約1000キロメートルの超巨大な前哨基地。
 日々グロウからの脅威をいち早く察知することが出来る大型の電波塔を誇る謂わば我々の目であり耳である。
 ノアはその中間に位置する 衣服 食料 屑鉄に弾薬と何でもござれの大型の物資の集積基地だ。

「グロウの新型を確認? 大型の4足であることから太古の生命体エレファントと呼称ね。ノアからはっと..新兵器開発資材完成の為随伴部隊の要請か」

 そんな事務作業を毎日夜中まで行い、次の日は朝早くから各部署との連絡と確認、人民との交流に力を入れる。長として模範的な人物だ。

「とりあえず、轟型の子達に連絡を入れないとな..」



「次ストック姉の番」

「り、り..?あぁ、こいつにしよう」

「り..?なにこれ?ストック姉下手すぎだろ」

「うっ..し、仕方ないじゃないかまず人間には誰しも得意不得意があって..」

「ん、通信だ私が確認してやるよ」

 「って僕の話を聞けよ」

2人で絵しりとりをしていたがストックの壊滅的な絵心に絶望するアマリ。
 実際ストックの絵は常人にはついて来れず頭が痛くなるほど奇想天外だった。
そんな暇つぶしの最中、まとめられた作戦書類データが送られてきた。

「明日の任務はノアからの輸送車郡の護衛だとさ」

「久々の輸送任務だね」

「重要な積荷があるから無事に送り届けるよう注意しろって」

「なんだろうな..? ゼフィーとリーにも伝えないとね」

「にっしてもあの二人って風呂長いよな~私なんかすぐだぞ」

「だからそんなに毛がボサボサなんだよ」

「ストック姉こそ同じだろー?」

「貴女達2人とも同じよまったく。言うことを聞いてくれるのはリーだけね!」

 もこもこのパジャマ姿で現れた長女は腕を組み、やれやれと言った表情でくせっけ姉妹に物申す。
 女子力の化身から射す威光に目がくらむストックとアマリであったが実際は後ろにいる姉妹1の胸の大きさを誇るリーから来る劣等感。
 ただそれだけの事を知らないゼフィーはやけに上機嫌に続ける

「そうよね? リー」

「はい..私は姉さん達に髪の毛を手入れしてもらうのが嬉しくて..」

と自慢する訳でもない当たり前のサラサラヘアーを撫でるリーは少し照れくさそうにしていた。

「ま、まぁいいさ戦闘には関係ない」

「そうだ!言っても私と同じくらいだろ?」

あからさまに動揺しながら微妙に噛み合わない会話を交わしながら反論する。
 ゼフィーはそれに気づくはずもなくまた呆れたようにため息を漏らす。

「で、通信があったんじゃないの?」

「そうだった、明日は輸送任務で重要な積荷もあるらしいから無事に届けてくれとさ」

「なるほどね、なら..」

「お?久しぶりにやるか..?」

「もちろん..轟型作戦会議ー!!」

 深夜手前。女子4人の部屋では作戦会議とは思えぬほど大いに盛り上がり、全員が期待するような眼差しで腰に手を当て声を上げたゼフィーを見つめる。

「いいね。僕は何か摘むものでも持ってくるよ」

「なら私はお茶を煎れますね」

「あ、僕コーヒーね」

「ブラックですよね?分かっていますよ」

作戦会議こと秘密のお菓子パーティー。
 ひとつのテーブルを4人で囲いお菓子を食べながら飲み物を飲んでは、おしゃべりを交わす。彼女らにとって最高に楽しい時間が幕を開けた。

「まず日時だが、輸送準備を整えるために明日はノアへ向かい、その翌朝1番で輸送開始。次に詳細で輸送車郡の規模は60台で大型トラック2両がその中に含まれているらしい」

「たくさん時間をかけるのは良いことですね。それに、きっと重要な積荷って言うのはそれですね」

「ならそこを重点的に護らなきゃね。他には?」

「随伴に戦車隊18両 輸送中の交戦も考えられるから装備は常時展開状態にして警戒を厳にだって」

「それってちょっと多くないか?このくらい4人で十分なのにな」

 グロウ勢力圏内での輸送任務において、安全性を確保するのが最優先されるのは言うまでもない。

輸送量を減らし快速且つ隠密に行うスピード型
随伴に武装を施し敵を打ち払う攻撃型
装甲を強化し攻撃を無力化する防御型

など、他にも様々な方法があるが今回の輸送作戦は攻撃型だとしても随伴部隊が多く、その分無駄な被害が広がる可能性があるとアマリは考えている。

「今回は輸送車郡の規模も大きめですし、加えて重要な積荷があるんですから護衛を多めにしたのかもしれませんね」

「ふぉいうもんは?んん~ならまぁひいか」

「口の中が無くなってから話せよ」

 ビスケットを頬張り、膨らませるアマリにコーヒーを啜りながら冷静に突っ込むストック。

「ストックには戦車隊の指揮を執って貰いたいのだけど大丈夫かしら?」

「え? 僕が..? まぁいいか..」

 先程までの冷静さが途切れたかのように面を食らうストックであったが無理もない。

 狙撃や遠距離砲撃を得意とするストックにとっては戦闘中に気が散るのを避けたいことであった。
 しかし、現在の戦車隊の練度はお世辞にも高いとは言えず、このまま戦闘に出せば貴重な人的資源が無駄になってしまう。
 それらの事を考慮し嫌いな作戦指揮を渋々受けるが少し不満げだった。

「それじゃあ頼むわね。リーは大型トラック付近の防衛を固めてちょうだい。そうね、やっぱりあの盾2枚と40mmチェーンガンかしら?」

「扱いには慣れているので、お任せ下さい。何としてでも護ります」

ふふんっと期待されることに喜びを感じ胸を張ると強調され、そこをぐぬぬと恨めしそうに見つめるアマリ。

「よし..!すこし早く終わりすぎたわね」

「でもまだお菓子が残ってますよ?」

「シケシケになったら嫌だし食べちゃいましょ!」

「んむっ、賛成ー!」

「僕全然食べてないんだけど」

 人一倍多く食べてるアマリが子供のように喜ぶとストックもビスケットを1枚口に運ぶ。
 それから4姉妹の楽しいお茶会は結局日の出前の夜更けまで行われた。
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