ワイルドウエスト・ドラゴンテイル ~拳銃遣いと龍少女~

空戸乃間

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第三話 血染め赤ずきん

子羊の群れと流れ鴉 Part.1

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 一夜明けた昼食、もとい遅めの朝食。

 ずれた時間分しっかり睡眠をとったレイヴン達が遅めの食事を頼んだところ、アシュリーに昼食へ誘われたのである。なので現在、空きっ腹を満たしている彼らがいるのは借りている客室ではなく、女将達が普段使っているダイニングテーブルだった。招待された時点でレイヴンはなんとなく予想はしていた、女将やアシュリーにしてみれば、昨夜の危機はまだまだ謎だらけなのだから、きっと色々と訊かれるだろうと。

 そしてやはり、テーブルに並んだ料理がきれいに消えたところで、アシュリーが口を開く。

「あらためて、お礼を言わせて。アイリス、レイヴン」
「気になさらずです、アシュリー。念のため訊きますけど、頭がぼんやりしたりしないです?」
「ええ、すっかり目が覚めたわ。体調も良い感じ、おでこにコブができてるけど、それ以外は。結構大きいのよね、ドコでぶつけたのかしら」
「き、きっと森の中でぶつけたんです。足取りも怪しかったですもん、ね、レイヴン?」
「俺に振るなよ」

 気まずそうなアイリスに助けを求められたレイヴンだが、そいつは自分で何とかしてもらいたい。なにせ、彼女の頭突きをかましたのはアイリス本人なのである。とはいえ、操られたアシュリーを止めるための仕方のない一発だったから、バレたところで問題にもなるまいが。

「そ、それよりもですアシュリー、わたしに訊きたいことがあるんです?」
「そうなんだよ、アイリスちゃん」

 食後のコーヒーを煎れてくれた女将が言う。

「この子が魔法をかけられていたって、昨日、あんたは言ったよね。けれどアシュリーは村から出た事なんて一度もないのさ、あの事件があってからね。だからアイリスちゃんの言うとおり魔法に掛かっていたなら、また同じ事が起きないかあたしは心配なんだよ。なにせ――」
「――魔法をかけた奴は村人の誰かってことになる、女将の不安も当然だな」

 コーヒーをすすりながらレイヴンが二の句を継いだ。愛娘が人知れず消えて戻らない、子を持つ親の底知れない恐怖は、彼でも察せられる。
 と、母の手を握りながら、アシュリーは意を決したように顔を上げた。

「なんとか犯人を見つける方法はないかしら? それが難しいなら魔法から身を守る方法でもいいの。私も、怖いのよ……。まるで夢の中を彷徨っているみたいな感覚で、私の身体が自分のものじゃないみたいだった。いつの間にか森の中にいて、あんなの…………」

 アシュリーの行動範囲を考えれば、術者が村人の中に紛れているのはほぼ確実だ。しかし、一体誰なのか? 思い当たる人間は一人もいない、第一魔女がいるのならアイリスが気付いているはずだ。
 彼女に感じられないほど魔力を隠すのが上手いのだろうか、となれば探し出して始末するのは不可能だ。レイヴン達もいつまでもこの村にいるわけにもいかないから、手を貸してやる方法はあと一つ、身を守る方法を教えてやることだけ。

 ……だが、アイリスは諦めていなかった。

「う~んです。村人の中に術者がいるなら、昨日、アシュリーと会っている人物の中にいるかもですね。昨日最後に会ったのって誰です?」
「ママを抜いたらあなた達よ。晩ご飯のお皿を部屋に取りに行ったとき」
「俺たちを抜いて、最後に会ったのは?」
「ちょっと待って」

 アシュリーは目をつむって昨日一日の行動を思い出しはじめる。

「えっと、ごめんなさい。逆からだと難しいから、朝から思い出すわね、いいかしら?」
「構いませんです」

 アシュリーの記憶をまとめるとこうなった。


 早朝、洗濯物を渡しにレイロウの小屋へ
 戻ってから水汲み、ここでご婦人方とおしゃべり


「どんなお話をしたんです?」
「世間話よ、旦那さんの前だと言えないような」
「結婚した女がみんな幸せになるとは限らないんだよ、アイリスちゃん」
「……俺がいるってわかって言ってるんだよな、それ」

 宿の仕事をしてから昼間に礼拝のため教会へ
 ここでは神父と話し、まだ回復しないダミアンの様子も見てきたらしい。お人好しなことだ。

「ダミアンの様子は?」
「変わらずよ、すごく怯えてたわ」
「ダーシーさんの捜索は続いてるんです?」
「保安官が殺されてからは、誰も森に入りたがらないよ。まったく、ウチの男共ときたらこういう時に限ってすぐ怖じ気づくんだから」

 教会の帰りに買い出しによる、店は通りにある雑貨屋。
 店主は水汲みの時に話したご婦人達の中にもいた女性だそうだ
 夕方前には洗濯物を受け取るためレイロウの小屋へ

「また奴のところか、日に何度寄ってるんだよ」
「し、仕事なんだからいいでしょ、別に」
「レイヴン、意地悪はダメです」
「へいへい」
「…………」
 村の連中にだってバレてるだろうと思ったが、レイヴンは黙っておいた


 そして一番最後が酒場だという


「酒場? お前がか?」
「あなた、お酒を沢山頼んでたでしょう? しかも全部空けちゃうなんて思ってもみなかったわ。在庫分では足りなかったから、酒場に行って買い足してきたのよ。酒場では村長と、他にも数人呑んでいたわね。みんなと少しお話しして帰ってきたわ。それから勿論、マスターと、あとオリバーとも」
「オリバーって誰です?」
「マスターのせがれだろ、線が細くて金髪の優男」
「あぁ~……」

 これは思い出してない『あぁ~』だ。
 しかし何が面白いのか、アシュリーは笑みを浮かべている。

「彼って大人しいからね、あんまり印象に残らないみたいなの。酒場で呑んでる人達も、オリバーはいつの間にか料理を持ってきてるから驚くって言ってる」
「そいつとも付き合いは長いのか」
「幼なじみよ、小さな村だもの。子供の頃から病気がちだったんだけど、ようやく良くなってね。病気が治ってからは、お父さんのお店を手伝ってるのだけど、でも、あんまり楽しそうじゃないのよね」
「そうなんです?」
「人付き合いが苦手だから。だけど優しい子なのよ、動物が好きでね。だから小さい頃は、元気になったら牧場で働きたいって言ってたわ」

 叶わぬ夢ではないだろうが、この村にいる限りは難しいだろう。なにせこの村には牧場がない、敷地の制限されている森の中にある村で飼えるとしたら鶏辺りが精々だ。
 まぁ、そんな事はどうでもいい。

「病気ってのは? 頑丈そうには見えなかったが、患ってるようにも見えなかった」
「肺が弱いのさ、あの子は」

 答えたのは女将だ。
「母親も同じ病気で亡くしちゃってね、オリバーが生まれてすぐのことだよ。あの子も何度も高熱を出して、危ないときがあったのさ」
「三年くらい前にもすごい熱が何日も続いたことがあったの、わたしも、怖くて眠れなかったのを覚えてるわ。確か、サンタウィルまでお父さんが連れて行ってお医者様に看てもらってたのよ、それでようやく落ち着いて。そのおかげか、それからは少しずつ元気になってね、お店に立てるようにまでなったの、病気に勝ったのね」

 オリバーの生い立ちは分かった。だが一人ばかりを掘り下げても仕方がないので、レイヴンはその他の人物達への質問を向けた。

「村長はどうだ、いつからか変わった様子があるとか」
「うーん、わたしが物心ついたときから村長は変わっていないわね。横柄に思えるときもあるけれど、村のことを考えてくれていると思う。……だから、色々言われちゃったんだけど」
「アシュリーがです? どんなことを?」
「……あなた達のことを訊かれたの、レイヴンは怪物になるんじゃないかって、そんな男をいつまで泊めておくつもりなのかって。それから、ママを説得して、あなた達を村から出すように言うように伝えてくれって」

 村長からの言葉だが、村人の総意と取ってもいいかもしれない。薬になるかもしれないレイヴン達だったが、いまや彼らにとっては毒に近い劇薬にも似ているのだろう。あまり居座れば女将達に余計な迷惑をかけてしまうか?

 ――だが、レイヴンの心配を他所に、女将は娘に問うのだった。

 気丈に、そして気高く。
「なんて答えてやったんだい?」
「お二人は礼儀正しく、お金も前払いで頂いています。なので追い出すようなマネは宿屋としての誇りが許しませんって」
「ははは、それでこそあたしの娘だよ!」

 心配する方が余計な世話かも知れない。この親子、予想以上にタフである。と、彼女たちの肝の据わり具合に感心していたが、レイヴンはふと気付く。この話は見当違いな方向に進んでいるのではないか、と――。

「魔法を扱ってるって事は、女を調べなきゃならねえんじゃねえんだよな? アイリス、魔法を扱える人狼は存在すると思うか」
「可能性はあります、人狼でも雌であれば魔女になり得ますよ。ただです、魔法が得意だとは思えないです、聖水で解けちゃいましたからね。本物の魔女がかけた魔法はあれくらいじゃあ解けないです」
「すると、アイリスちゃんは、村の女達の中に魔女の人狼がいるっていうのかい」

 順当に考えればそうなるので、アイリスはこくり頷いた。

「気になる点はありますけど、多分そうです」
「あり得ないよ。村の女達は昔っからここに暮らしているのばかり、古い顔なじみばかりなんだよ? 夫婦喧嘩したかだって顔見れば分かるっていうのに、変わったところがあれば誰かが気付くさ」
「狡猾な奴なのかも知れないぜ?」

 欺かれないコツは、相手の方が上手かも知れないと常に頭の片隅で考えておくこと。相手の油断につけ込み騙すことを得意とするレイヴンは、嘘の要所を知っている。
 怪しきは疑うべきだ、命が掛かっている場合ならば尚更に。

「アシュリー、水汲みに行ったときのご婦人方の様子は?」
「みんな普段通りよ。あなた達のことがあるからちょっとピリピリはしていたけれど、気を遣ってくれていたもの、困ったことがあったら言ってねって」
「う~んです、魔女を見つけるのは苦労しそうです」

 巧みに魔力を隠しているとなると、アイリスでも探しようがない。頼りになるのは目と耳だけ、つまり条件はレイヴンと同じなのである。
 そうなると、まずは行動を起こすこと。相手が隠れているのなら、隠れ家から出てくるように仕向けてやるのだ。

「ここで考えてても仕方がねえ、時間もいい頃合いだし出かけるとするか」
「え、です。レイヴン、どこへ行くんです?」
「付いてくりゃあ分かる」

 そう言って席を立とうとした二人を、アシュリーが呼び止める。彼女は言った、最後にあと一つだけ、訊いておきたいことがあると――

「もしも、気に障るのならお答えいただくなくても構いません、でもどうしても訊いておきたくて。アイリス、貴女は、貴女は……、魔女なの?」
「えっとぉ、わたしはです――
「魔法なんてママも私も知らなかったのよ? それなのにアイリスはとても詳しいんだもの、気になっちゃうわよ」

 アイリスはレイヴンを見上げて、彼は肩を竦めてやる。
 訊かれてるのは彼女の方だ、なら好きに答えてやれば良い。少なからず恩もある、どう義理立てするかはアイリス次第だが。

「わたしは――」

 瞬間考え、アイリスは事実を伝えることにしたらしい。

「――わたしは、魔女ではありませんです。魔法を使えたら便利でしょうけど、下手っぴなので知識ばっかり蓄えてます。わたしたちの旅には必要な知識ですから、ね? レイヴン?」
「……まぁ、そういうこった。信じるかどうかはあんた等に任せるよ。行くぞ」
「はいはいです!」

 そうして日差し眩しい通りに出てから、レイヴンは女将達のことを考える。アイリスがとことんまで真実を口にしていたら、二人は気を失ってしまったんじゃなかろうか、と。

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