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「久しぶりの里帰りなら、そのままいれば良かったのに」
桑嶋は実家を統久と一緒に出ると、帰り際にそう言う。
十年ぶりに帰って懐かしいとは思ったが、あそこは俺のいる場所じゃないと感じた。変わり映えなんてまったくなかったのに、あそこにはもう俺の居場所はなかった。
「別に家にいてもすることねえし」
「親孝行とか……あるだろ」
建物の影に暗くなった並木道をゆるゆると歩きながら、桑嶋は、親がいるんだからちゃんとしとけと呟く。
統久は今度なと返して、ふうっと少し曇った空を見上げる。
「オマエはさっき俺を努力家と言ったけど、人よりあまり努力してない。でも大抵のことは簡単にできちまうんだよ。俺は」
父親に言われた桑嶋の言葉に、統久はなんだか過大評価されているようで、訂正しておきたいと思っていた。
「アンタの部屋には、筋トレ用具と仕事で必要なものしかなかった。仕事の他のことはしてないんだろ」
ある程度のことは出来てしまうから熱中すらしない。
何かに夢中になるようなこと何もない。
だから、やらないといけないことだけに必死になる。
「別にしてえこともないしなあ。趣味すらねえ、つまんねえ男だぜ実際」
昔からそうだ。
……だからかな。
だから、全て持っている恵まれ過ぎた自分のつまらない人生ってのに、オメガだという若干の苦悩が加わったことをおもしれえなと簡単に受け入れることができた。
「アンタはつまらないどころか、かなり変わった人だと思うよ。そんなとこに惹かれるのかもしれない」
桑嶋は、急に立ち止まり統久の肩を軽く掴んで足を止めさせる。
「な、に?」
項に指を這わされ、軽く頭を傾けて顔を覗き込むと、桑嶋はつま先を伸ばして唇を押し付ける。
統久は、これが初めてのキスだなとか思い唇を合わせて軽く吸いあげる。柔らかい舌先の感触が緩く咥内をめぐり、ぞくりと快感の琴線に触れて震えた瞬間に、ゆっくりと離される。
「をい、オマエ……道端だぞ」
桑嶋を統久は咎めはするが、つい感じてしまって声に勢いがなくなってしまう。番に反応するっていうのは、こういうことなんだと実感する。
「運命にさえ嘆かないアンタが、可哀想なくらい感じて辛そうになるのがね、すっごく可愛くて堪らないなって」
「ハッ、オマエ趣味わりいな」
笑い飛ばすが、実際に感じているのは誤魔化しきれないので、軽く腕を引いて身体を少し預ける。
「………好きですよ」
告げられた言葉は何でも持っているはずの彼がずっと心から欲しいと焦がれていたものだった。
「も、いーから、早く帰って子作りすんぞ」
照れ隠し半分に統久は少し大きめの声で言うと、その腕を離さないように強く引いた。
【完】
桑嶋は実家を統久と一緒に出ると、帰り際にそう言う。
十年ぶりに帰って懐かしいとは思ったが、あそこは俺のいる場所じゃないと感じた。変わり映えなんてまったくなかったのに、あそこにはもう俺の居場所はなかった。
「別に家にいてもすることねえし」
「親孝行とか……あるだろ」
建物の影に暗くなった並木道をゆるゆると歩きながら、桑嶋は、親がいるんだからちゃんとしとけと呟く。
統久は今度なと返して、ふうっと少し曇った空を見上げる。
「オマエはさっき俺を努力家と言ったけど、人よりあまり努力してない。でも大抵のことは簡単にできちまうんだよ。俺は」
父親に言われた桑嶋の言葉に、統久はなんだか過大評価されているようで、訂正しておきたいと思っていた。
「アンタの部屋には、筋トレ用具と仕事で必要なものしかなかった。仕事の他のことはしてないんだろ」
ある程度のことは出来てしまうから熱中すらしない。
何かに夢中になるようなこと何もない。
だから、やらないといけないことだけに必死になる。
「別にしてえこともないしなあ。趣味すらねえ、つまんねえ男だぜ実際」
昔からそうだ。
……だからかな。
だから、全て持っている恵まれ過ぎた自分のつまらない人生ってのに、オメガだという若干の苦悩が加わったことをおもしれえなと簡単に受け入れることができた。
「アンタはつまらないどころか、かなり変わった人だと思うよ。そんなとこに惹かれるのかもしれない」
桑嶋は、急に立ち止まり統久の肩を軽く掴んで足を止めさせる。
「な、に?」
項に指を這わされ、軽く頭を傾けて顔を覗き込むと、桑嶋はつま先を伸ばして唇を押し付ける。
統久は、これが初めてのキスだなとか思い唇を合わせて軽く吸いあげる。柔らかい舌先の感触が緩く咥内をめぐり、ぞくりと快感の琴線に触れて震えた瞬間に、ゆっくりと離される。
「をい、オマエ……道端だぞ」
桑嶋を統久は咎めはするが、つい感じてしまって声に勢いがなくなってしまう。番に反応するっていうのは、こういうことなんだと実感する。
「運命にさえ嘆かないアンタが、可哀想なくらい感じて辛そうになるのがね、すっごく可愛くて堪らないなって」
「ハッ、オマエ趣味わりいな」
笑い飛ばすが、実際に感じているのは誤魔化しきれないので、軽く腕を引いて身体を少し預ける。
「………好きですよ」
告げられた言葉は何でも持っているはずの彼がずっと心から欲しいと焦がれていたものだった。
「も、いーから、早く帰って子作りすんぞ」
照れ隠し半分に統久は少し大きめの声で言うと、その腕を離さないように強く引いた。
【完】
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いつもお疲れ様です。
強い男受けは大好物なのでものすごく堪能させて頂ています。
統久さんのシリーズ特に大好きです。続きが気になります。
TERUさん
感想ありがとうございます。
強い男前受好きの方に出会えて嬉しいです!
このシリーズは初めて書いたオメガバースもので、思い入れがあります。
完結編もありますので、アップしていきたいと考えています。