斬り裂くのは運命と識れ【完結編】

怜悧(サトシ)

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「彼のスーツを脱がせたいのだが」
「暴れたりしたら、母胎に傷がつく可能性がありますからね。受精させて着床して、安定期に入るまではスーツでの拘束を外さないように。下腹部だけは柔らかい素材で出来てますから」
「どれくらいの期間なのだ。一週間、二週間か……」
 早く中を確認したいという男の言葉に、白衣の男性は首を振った。
「半年は必要です。大丈夫、部屋もスーツも滅菌されてますから、汚れませんよ」 
 鼻と口元以外を真っ黒なラバースーツで覆われた彼を、あの人だと判断するものは何もなかった。
 意識のないかさついた唇を吸いあげると、微かに甘く太陽のような香りがほんのりとする。
 自分だけが感じることができる特別な彼の香りである。
 青年はその香りを確かめると、バイヤーに指定された金額の入ったトランクを手渡す。
「子供が産まれるまでの分娩までの管理はいたします。それにしても、全買上げとは、珍しいですね」
 大抵は子供だけを買い取るのが多いのだと、バイヤーは不思議がるように彼を見た。
 
 たまたま調査していた新組織が、オメガを売るのではなく足がつかないように、オメガを苗床にして買い手との子供を産ませる事業をしていることを突き止めた。
 アルファ同士の子供はアルファとベータが半々の確率で産まれる。アルファとオメガの場合は、5分の4の高い確率でアルファが産まれる。
 アルファを欲しがる名家では、オメガと結婚させることが多いのだ。
 しかもアルファ家系でオメガが産まれる確立は、1%に満たない。
 彼はその珍しいアルファ家系でのオメガである。
 その事実だけでも相当価値のあるオメガなのだ。
 この組織ではアルファが生まれれば買い手に渡し、オメガが生まれれば買い手が欲しいと求めない限り苗床にするという商法をしているので、苗床を仕入れる必要はあまりない。
 しかも二世からは、アルファ家系の血が混ざることになる。
 しかし正しき血統を気にするアルファのために、組織では名家からオメガを攫うなどの方法をとることがある。

 そこで、あの人の情報を流した。
 行方不明になっても仕方がない職業とキャリア。
 事件に巻き込まれても、誰も不審には思わない。

 唇から苦しそうな呼吸が聞こえる。ラバースーツを着ているのに、艶やかにフェロモンが漂う。
 番がいる彼のフェロモンに反応するのは、世界でただ一人運命の番である自分だけだろう。
 それでも、独り身だった時とは薫りが違う。
「……彼は、僕の運命の人なので。すべてを僕のものにしたいのです」
 例え、犯罪に手を染めることになっても、彼を手に入れられるのであれば厭わない。
 筋肉の動きすら圧縮されて制限されているのか、両脚をM字に拡げられた体勢のままの彼を眺める。
 尻臀もラバーでがっちりと固定されていて、合せ目のあたりが開き晒されたアナルは発情してヒクヒクと愛液を滴らせている。
 初めて触れた時とは違う、艶めかしく濡れそぼるそこはすっかり雄を咥え込み慣れているのか、はしたなく口を開いている。
 汚れてしまった貴方でも、僕は心から愛してあげます。
 だから、何故僕を拒絶したのか、何故僕を見てくれなかったのか、教えてください。
「これだけ濡れていますから、ローションは必要なさそうですね。ここまで誘発剤が効きやすいのも珍しいです。では、私は一旦出ますが、射精したら受精するまでの5分間は動かないでください」
 機械的に告げるバイヤーは頑張ってくださいと告げて部屋を出ていった。
 このスーツを剥いで、その顔を確かめたいと切実に思うが、それで逃げられるようなことがあれば大問題だ。
 こんな情緒もない即物的な方法だが、管理をおこなうためにはそれが一番いいのだろう。
 子供を生産すためだけの、それだけの存在として管理すればいい。
「もっと早く、こうすればよかった」
 ベルトを緩めて微かに漂うフェロモンに昂まった肉竿を引き出すと、蜜に濡れた花弁に押し当ててゆっくりと押し込む。
「――ッ、く……ッあえ、っあ、あえっ、ううッ……ッ、ああッ」
 自殺防止用にか舌を噛まないようにシリコンのカバーをされているので、言葉を発することが出来ない。
 視界を奪われ誰に犯されているかもわからず、漏れ出す声は多分誰だと問いかけているのだろう。
 鼻先はスーツから出ているので、もしかしたらまだ僅かに香るお互いの匂いに気がついているかもしれない。
 声を発したのは、僕の存在に気づいたからだろうか。
 助けを求めたいのかもしれない。
 でも、今の僕は貴方を助ける捜査官ではない。
 彼が押し当てた肉をぐんと奥まで全て収め着ると、身動きができなくて快感を逃せないのかきゅうきゅうと内部が蠕動する。
 番がいる彼にとっては他の男に犯されることは、非常に苦痛なのだろう。唇が歪んでぶるぶると震えを刻む。
「――くぅあ、ああっ、やあめっ……ンッ、っあ、あぐうう、めえっ、ううッ……ッ、ぐッ、ああ、ごふっ、ごふ」
 ぐちゃぐちゃと屹立を動かして肉の隙間を掻き混ぜると、喉が引き攣るような苦痛に満ちた声が漏れ出す。
 胎内の肉は悦んで雄を受け止めて絡み付いてくるのに、咽びながら苦しそうにラバースーツから覗く唇は、拒絶と嘔吐するように唇から濁った体液を零す。
 栄養はすべて注射で補っているので、吐き出すものもないようだ。
「可哀相に……辛いでしょう。すべて、貴方が僕を選ばないから悪いのですよ」
 深々と押し入って子宮口にこつこつと先端を押し当て体液を塗りつけると、激痛にか悲鳴をあげる声を聞く。
 強靭で美しい貴方が、僕の番だと知ったとき悦びと同時に喪失を味わった。もう逃すことはしない。
「ッひ、う、ああッう……や、えおっ、ンッ、えぐうっあ、あぐうう、めえっ、ううッ……ッ、ぐッ、ああ、んっふっ、ふ」
 番のいるオメガが他の男と交わる場合は、拒絶反応があるらしく強烈な吐き気を催しているのが分かる。
 腹いっぱいに食物を詰めていたならば、噴水のように汚物を吐き出し、それに気をとられた捕食者から逃げる時間をかせげるようにするための自衛策なのかもしれない。
「苦しいのは貴方の自業自得ですよ」
 愛しい存在が苦しむ様を見たくはないという深層心理と鬩ぎあいながらも、流れ込んでくる本能的な快感に眼を細める。
 ぐちりと肉の狭間の中の堅くしこる場所へ押し当てた感覚から、熱がじっとりと這い上がってくる。
 そこが子宮口より先の場所と定めると、ぐっと凸状に張り出したノックまで腰を押さえ込んで体の奥からの熱と一体になる。
「ぅう、や、や、あッ……あめっ……ンッ、っあ、あや、ああぐうう、めえっ、ううッ……ッ、ぐッうう、や、ぁあ、ああッ……っうう」
 快感すらも通り越す激痛なのか、歪んだ唇からは悲鳴と苦悶の声しか聞こえない。

 一生彼が快感など得られず、自分は彼に苦痛だけを与えることになっても、それでも……。
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