猛獣のツカイカタ

怜悧(サトシ)

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 先日工藤が無体を働いた事務所の和室で、頭を下げた工藤の目の前に組長は悠然と胡坐をかいて座る。
「随分と可愛い格好だな。甲斐」
 白装束の工藤を見やって、素直に頭をさげている様子に口元を緩めて笑みを浮かべる。組でもまったく頭を下げるなんて行動をしない工藤が、しっかり頭をさげているのを見るのは爽快だとばかりに、組長は腰をあげて工藤に近づいて頭の上に手を載せる。
「……はい。先日の詫びにきました」
 少し力を入れて更に畳に顔を擦り付けるが、特に抗う様子はない。以前ならばその時点で噛み付こうとしてくる性格だったはずである。
 しっかり牙は抜かれたのか。
「ついては余興を見せてくれるとか」
 頭から手をどけて、顎を掴んで顔をあげさせると、怒りを相当な意思で押し込んでいるのか、ぎらつく眼で見上げられる。
 牙は削って押し込んでるが、完全には抜けてはいない。
 牙が抜けた獣は戦えない、極道としてはこちらの方が使える。いい感じで仕上げてきたな。
 組長は感嘆した様子で、ちらっと佐倉を見やって頷く。
「……はい。……衆道を……手習いしてきたんで……ご披露できるかと」
 言葉の意味に、顔を赤くしながらもなんとか言葉を紡ぐ工藤に、組長はその襟元に手をかける。
「ほう。あんこにしてきたんか」  
「こん体で詫びいたしますんで、今回の件は……手打ちにして……ください」
 じっと射るような視線で工藤が組長を見上げるのに、組長はふうっと息を吐き出して、困ったような表情で佐倉を見返す。
「まったく、佐倉。オマエはまた古臭いものを持ち出したなあ」
「親に逆らったんだ、詫びは必要かとね」
 まったく悪びれずに組長を見返して、結構素直になったでしょうと呟く佐倉には悪意は見えない。
「これだけプライドの高い甲斐をこんな風にさせるんだからなあ、躾も大変だっただろう」
「この調教師に頼んだんで」
 組長は工藤の顎先を掴んだまま、佐倉の隣にいる若い男を紹介されて、僅かに眼をそばめた。
 ホストのように華はある端正な顔だが、細められた眼の奥にいちもつもにもつも抱えている男の顔である。力で支配するタイプではないだろう。
 だとすれば、この甲斐を懐柔したのは、なんだ。
 組長は頭をさげる男をじっと見返す。
「初めまして。調教師の串崎一真と申します」
 静かな物言いに、少し眼を伏せてから工藤の顎を離す。
「串崎、頑張ってくれたところ悪いんだが、わしは通風を悪くしてな。そっちは、今さっぱりでな。アンタに甲斐が抱かれるのを目の前で披露してもらおうか」
 試す価値はあるかもしれんな。
「おやっさん……そうとは知らず、すんません」
 佐倉が困った表情で頭を掻いて謝るが、腹のうちはわからない。こちらを擁護してくれているのは信頼がおけるが、何を企んでいるのかわからない怖さがいつもある。武闘派だけでなくこの男は知恵が回るので、敵に回すのは厄介である。
「佐倉、それは別にいいが……悪趣味だな」
「慣例に倣ったつもりでしたが」
 佐倉が一番油断がならない男なのは確かである。これで恩を売っているつもりではないのも分かるのだが、自分が育てた子供のような工藤を簡単に差し出すのが、底が見えない凄みがある。
「まあ、これで甲斐擁護で動く輩も暫くはいなくなるだろうな」
「甲斐さんも男をあげるために組に尽くさねばならなくなりますしねえ」
 一度おんなとされた男が、男をあげるために必死に組に尽くすのは極道の常である。
 工藤にそんな殊勝な心意気があるかどうかはわからないのだが、もうひとつ切り札を見つけた。
 それが本当の意味で切り札になるかどうかは、後でためさせてもらおうか。
「策士、策に溺れるなよ。佐倉」
 組長は昏い笑みを浮かべ、隣の片腕へと視線を投げた。
 
 
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