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怜悧(サトシ)

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「で、何で、アンタが俺のバラックまで付いてくるんだ?」 
ケイルに感謝され幹部達に涙を流して喜ばれ、ルイツは複雑な気持ちで幹部のバラックを出た。
鬱々した気持ちのままで彼がバラックへ戻ると、薄手のチュニックを羽織ったガイザックが、ひょこひょこっとバラックまで付いてきていたのを見つけ、ルイツは呆れたような口調で問いかけた。

ガイザック▪スネークは伝説の男であり、ルイツのような下っ端は普通なら、話すらできないくらいの存在である。
大陸一の剣士にして、大罪を背負いこの盗賊団を立ち上げ、英雄と謳われた伝説の男。
そして王殺しとして処刑されたという男。
噂を耳にしただけでもどんなに屈強な男かと、ルイツは思っていた。
そしてずっと彼の憧れでもあった。

体に施された呪いの効果のせいで、年をとることはなくなるにしても、ここまで美麗というのはイメージとは異なりすぎていて実感がわかないのも事実だった。

「オマエに話して置きたい事があってなァ。迷惑か?」 
長く伸ばした髪を掻きあげながら、嫌な顔をするルイツの傍にまるで嫌がらせのようにべたべたと擦り寄ってくる。 
同じバラックの奴らは興味深々といった表情で、ちらちらとルイツとガイザックを遠慮の無い視線で見てくるのが、また彼には癪なのだろう。
「迷惑に決まってンでしょ。ほら、周りの奴もいるし。アンタ、自分がどう見えるかわかってンの?」 
ギラギラとした視線で無遠慮にガイザックを狙うように見つめる男達に、かなり辟易しながらルイツは答えた。 
綺麗ならなんでも構わないっていう男も、ここには多い。 
ならずものたちの集まりだから、それも仕方のないことなのだろう。 
ガイザックは辺りを見回して、軽く眉をあげて、 
「ああ。分かってンぜ。まァ……別にオレにとっちゃァ、いいオヤツにすぎねえんだけどなァ」 
不敵な笑みを浮かべて、ぼそっと呟く表情にルイツは背筋を凍らせて、関わりたくないと更にこころを決める。
ま、俺は、こいつを抱く必要はないのだから、問題はないけれど。 

「で、話って何?」 
ケイルに新しい剣を貰ってきたのか、容姿に似合わぬごつい大剣に寄りかかりながら座るガイザックを、溜息を漏らしてルイツは眺めた。
身体に合わない大剣だ。こんなのを、軽く扱えるというのだろうか。
「明日旅に出る。出発の準備しといてくれ」 
唐突につきつき蹴られた言葉に、ルイツが二の句が告げずにいると、ガイザックは指先で頬を軽く掻いて声音を潜めた。 
「どーせ、オマエは一味を抜けるつもりなンだろ?どっちにしろ、オマエは軍に追われる。この一味にいれば、犠牲者は多数出るだろう。オレもオマエを守るので精一杯になる。二人で旅をすれば、大所帯にならないだけ軍にも見つからなくなる。後、オレは、早いトコこの呪いを解きたい。」

 結論から話し始めるガイザックの口調にやや戸惑いを覚えるも、確かにその通りだとルイツは納得はする。 
軍は”王殺し”を見つけて処分する為に必死になっているだろう。 

「呪いを解く方法を知っているのか」 

大剣に気だるい表情でしなだれかかる男を眺めて、首を傾げる。 
正気に戻ったという割には、呼吸は少しせわしなくほんのりと肌は火照っているように映る。 
「方法は知らないけどなァ。まァ、呪術師探してはかせりゃあいいだろ?とりあえず、呪術者の名前は覚えている」 
旅に出るという割には計画性も何もない答えに、ルイツは唖然としてガイザックを見やる。 
「呪いを解きたいじゃねえな。解かないとなんねェ。オレの呪いは性奴の呪いだ。人間を操る為の呪いだからな。オマエから体液をもらえれば、辛うじて正気ではいられる。だけど、体の疼きは止まらない。今は、そこで、ギラギラしてるお兄さん達にでも慰めてもらうとするけどさァ、いつまでもそういうの続けるのはなァ……普通に考えて嫌でしょ」
ルイツは、ようやく頷いた。
 さして危機感もない口調なので、聞き流しそうになったが、これはかなり男としての苦痛を伴う呪いであることは確かだ。 
体液だけじゃ、体の疼きが止まらないというのは、同情してしまいそうになるが、同情で男を抱けるわけが無い。 
「主人に抱かれることで、やっと体が正常になるように出来てるンだ。まァ、他の奴と数やれば、体液だけで補えるからオマエは気にしなくてもいい。それも全て封じられれば、オレは理性を保てなくなる。さっきまでのようにな。でも狂い切ってなかったのは、本当に幸いだったぜ」
しっかりとやや自嘲じみた口調で話すガイザックが、バラックで淫らに喘いでいた男とはルイツには思えなかった。 
理性を失った状態が、あの状態なのだろう。 
「分かった。旅には一緒に出る。呪いを解くのもつきあう。これでいいんだろ?」 
「そうだな、オレは、報酬としてオマエの護衛をしてやる。あとオプションでオレの剣術を伝授してやってもいいぞ」 
ガイザックはしなだれかかっている大剣を指差して、少し尊大な口調で彼に持ちかける。 
なるほど大陸一の剣士の護衛と、剣の指南か。 
俺は、強くなりたかった。 
大陸一と謳われたガイザック・スネイクの唯一の弟子が、首領のケイルだった。だからこそ、ルイツはこの賊団に身を投じたのだ。 

「その報酬、忘れるなよ」 
ぼそっと返したルイツの言葉に、ガイザックの顔が僅かに満足げな笑みへと変わり 
「ルイツ、オマエはケイルより素質あるし、磨けば光るぜ。楽しみだ」 
耳元で囁かれる言葉に、一瞬舞い上がりそうになる心地を抑えてルイツは拳を握りしめた。

「ほめても、体液以上のものはやらねえからな」 
ドスを利かせてルイツが言うと、ガイザックは可笑しそうに笑い浮かべて首を振って 
「そりゃあ、残念。でも大丈夫よ、なんてったってオレ様、相手には不自由しねえから」 
ちらっと、周囲でこちらを伺うバラックの荒くれたちを眺めて誘うような視線を向けた。 

「なぁ、ルイツ。かしらから、その男娼下げ渡されたのか」 
ガイザックの誘惑に負けたのか、ハイムが興味深そうに眺めつつ俺に耳打ちしてくる。 
こいつでも、そんな誘惑に負けるのかと意外に思いながら、ルイツはハイムの顔を見返し 
「そういうんじゃねえけど……」 
答えを返そうとするルイツの言葉を遮って、ガイザックがハイムの肩を掴む。
「オレに興味あるの?おにいさん」 
大剣を脇に置いて、ガイザックはハイムの首筋に腕を回して、 
「ルイツさんったら、オレに興味ないんだって。代わりに遊んでよ」 
唇を小さく開いて、誘うような指の動きでハイムを撫で回す様は、生粋の男娼のように映った。 
これが、あの剣士ガイザック・スネイクだと言って、誰が信じるだろうか。 
「俺が興味あるっていうか、周りの奴らが君と遊びたいらしくてな。俺が一番ルイツと仲がイイから聞きにきたんだが」 
満更でもないような表情を浮かべて、男前な顔を少し崩しつつルイツをすまなそうに見返し、
「ルイツ、ちょっと借りてもいいか?あいつら、オマエをやっかんで火の粉が飛びそうなんだが……オマエのもので、手を出されたくないなら、俺がなんとか諌めるが」 
耳元で囁かれる心配そうなハイムの言葉に、ルイツはギラギラした周囲の仲間を見やる。 
「俺のでもねえし……。まあ、度胸あるなら好きにすればイイと思うぜ。こいつも遊びたいらしいし」 
立ち上がると周囲を見回して告げると、ルイツは見たくはないとばかりに、急ぎ足でバラックを後にした。 


憧れていた。

彼は大陸一の剣士の偶像を、汚されたくなかったのだった。 
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