炎上ラプソディ 

怜悧(サトシ)

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「これは遺品だ」
本部長が手渡してきた見覚えのあるリングを受け取り、シェンは呆然として理解できないと首を横に振る。
歯茎に忍ばせたGPSからは生体反応は消えてはいないので、本部長は嘘をついているのは明らかだ。
「意味が、わからない!!ハイルに何が!?」
「彼は企みが露見してすぐに、舌を噛んで自死したのさ」
「な、な、約束と違う!!」
怒号をあげてシェンが本部長に掴みかかると、黒服のSPがそれを止めて引きはがす。
「まさか、我々も彼が死を選ぶとは思わなかったのでね。君はベータだし、所詮オメガの手網など握れまいよ」
宥めるようにシェンの肩をたたいて、首を左右に振る。
「ハイルを、ハイルを返せよ!!人殺し!!ふざけるな」
我ながら熱血だなと思いながら拳を固めてSPを殴り、シェンは演技をしながら指輪を自分の指に嵌めてメモリを読み込む。
「うるさい、口を塞げ」
「この、嘘つき!!非人道!!返せよ!ハイルを、返せ」
さっさと助け出しに行かないとな。
猶予があるかと思っていたが、死んだことにするくらい話は山場に来ている。
この指輪の中には証拠品が入っているはずだ。
「死者をこの世に呼び戻す芸当は、私にはないよ」
辛辣な言葉を告げて、暴れるシェンをSPに任せると本部長は席を立つ。
「ああ、そうだイライズ君。君は退職を希望していたね。退職金も振り込んでおいたから、荷物をまとめて出ていっていいよ」
SPにつまみ出すように、指先を払う動作をして本部長は部屋を出ていき、SPはズルズルとシェンを引きずるようにして出口に向かう。

なるほど、汚いやり口だな。
シェンはSPにビルの外に放り出されると、カチリと指輪のデータを再生する。

「なるほど、ね。だから、オレはお偉いさんが嫌いなのよね」

状況は切羽詰まっている。
ある程度の準備はしたが、それが有効かどうかも賭けである。
すでに中隊長の人格が壊されてる可能性もある、な。
シェンは手に入れたデータを安全なところへ転送すると、自分の指に嵌めてあるもう一つの指輪を軽くさする。
「さて、行きますか」
シェンは宙港へと向かうバスにそのまま乗り込むと、さっきまでいたビルを睨みあげた。

「全部潰してやるからな」


宇宙空港までバスで向かうと、シェンは途中の繁華街で降りて、尾行を撒くように路地裏に入り込み、あらかじめ借りていた部屋の中に入る。
寮の荷物は全て既に廃棄していたので、この部屋に置いておいた戦闘用の制服と、武器を身につける。
メモリに入っていた会話を聞いたところ、この地域の警備隊のトップが黒幕だ。
自分に疑いが向いていないことを考えると、統久は全ての計画を報告していないか、自分の潜入を内密で行っていたかどちらかだ。
多分後者だな。
何考えてるのか分からないが、多分問題が起きた時に責任を負わないようにだろう。
功を独り占めにするような性格じゃないしな。
シェンは腕に仕込んだ端末を起動して、指輪にメモリされていた指示先に連絡をとる。
利用できるものは、利用するという算段かね。

「あと、15分でそこに行きます」

部屋を出ると、備えていたエアバイクに跨り宇宙空港とは逆方面へと向けて走り出す。

ヒヤヒヤしっぱなしで、割に合わないな。
報酬は弾んでもらわないとな。

「ここらへんか」
周りを見回すと豪華なプライベートポートのようで、最新の設備が搭載されている。
「待っていたよ。時間ピッタリだね」
入口までSPを伴って出てきたのは一度だけ顔を合わせた遠野である。
「多忙なところ、空けてもらってすみません」
「前々から彼からの支払いは済んでいる件だから問題ないよ。データも預かっておくし。私にも大切な人なのでね、しっかり取り戻してもらわないと」
ポートに入り用意されていた戦闘機は最新鋭で、かなりの値がはるしろものである。
金はあるところにはあるんだな。

感心して遠野を見返すと、表情は心配で仕方がないようにそわそわしている。
本人にもその感情を出してやれば、うまくいきそうなものなのだが、多分この男はかなりプライドが高く統久相手にそんな素振りはできないのだろう。 

「まあ、戦闘機扱いと潜入捜査は慣れてるんで。なんとかしますよ」

報酬が欲しいのは、こちらも一緒である。
渡されたキーコードを端末に読み込ませると、戦闘機の搭乗口から乗り込む。

グイッと操縦桿を握ると、生体反応が見られたコロニーに向けて発射した。

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