花に嵐

怜悧(サトシ)

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ぽつぽつと話をしていて、ハセガワ兄は、どうやら世間で噂されている鬼やら悪魔やらという男とは程遠い男のようだった。
というか、裏も表もまったくなさすぎる、まるで剥き身のまま勝負しているような感じを覚えた。
さきほど野口さんが持ってきた朝飯で食べきれずテーブルに放置していたおにぎりやらパンを、むしゃむしゃと口に放り込みながら、俺らに気を使うこともなく携帯ゲーム機を手になにやら遊び始めた。

なんというか非常にマイペース過ぎる。

ほどなくして、部屋にやってきたのは、どこぞのアイドルかと思うくらいの美形な男で、明らかに女にモテそうなオシャレな服装をした男だった。
白いバックルコートを脱いでソファーに置き、キャメルのテーラージャケットと灰色と黒のチェックのパンツを履いていて、かなり洗練された着こなしをしている。
「体、大丈夫かな?昨日は挨拶できなかったけど、覚えてはないよね。俺はセイハの幼馴染で日高康史っていうんだ」
特になよっとした感じはしなかったが、このアイドルのような王子は本当に綺麗な顔をしているなと、思わず見返してしまう。
こんだけのイケメンなら女子にはモテモテだろうな。
別に今更女子にもてたいとかは思わないが、なんとなくうらやましいようにも思う。
「あ、はい。俺、西覇と同じ高校の2年で、瀬嵐成春っていいます。昨日は…………すいません、俺、記憶がほとんどなくって……」
「一高でも、君みたいな子いるんだな。ちょっとビックリした」
笑顔も優しく、本当に王子様というのにふさわしい感じの男で、ハセガワ兄とはまったく接点を見出せない。幼馴染みか。
「俺くらいっす…………」
「だよね。あ、トール、服、この子に貸してやってよ。彼の制服ボロボロになっちゃってたし」
「おう、ちっと待ってろ」
携帯ゲームを置いて、クローゼットから服を取り出し、俺の膝の上に置いて、着ていいよとわらいかけられる。
「ヤス、俺、腹減った」
空気も読まずに、さっきまでおにぎりを食べていたのに、腹の無心をするハセガワ兄の様子に王子は背中をぽんと叩いて、
「この子を送っていったら、帰りにハンバーグ屋に寄ろうぜ」
餌付けをするように、慣れた様子ですぐに提案をする。
そういえば、鬼のハセガワの相棒は、めちゃモテモテこの辺で一番のモテ男でのイケメン王子だと聞いたことがある。
この様子だと、ハセガワ兄の彼氏はこの王子のようだ。
ていうか、どう考えても男に走るようには見えないけど。
というより、この男が強姦なんかするようにも見えない。
「成春さん、着替え大丈夫?さっき立てなかったし」
「あ、ああ。痛み止めも効いてるから、平気だ。心配すんな」
実際、朝より随分と楽になっている。
「セイハが他人を心配するなんてな、大人になったなぁ」
感動したように茶々を入れる王子は、からかうように意味深な表情を浮かべる。
「この人が特別なだけですよ」
「へえ。ちょっとトールに似た感じだよね。でも、トールより優しそうな顔してる」
俺の顔をまじまじと見て、ふっと笑みを浮かべる。
「ンだよ、俺の顔が怖いってか?」
背後から王子の襟首掴んで引っ張り寄せて、上から睨みを利かすハセガワ兄に俺はびくっと戦慄した。
って、マジでこええって、顔。
「俺は、トールのこの顔がカッコよくって大好きなんだから、拗ねない拗ねない」
王子はまったくおびえる様子もなく、振り返って怖い顔を撫でて臆面もなく人の目の前でちゅっと口付けをかます。
こいつら、俺らのことはまったく気にする様子もない。
「……おう。俺だってな、オマエの顔が一番好きだ」
ちょっと照れたような表情を浮かべるハセガワ兄も、羞恥心とやらは欠如しているようだ。
「トールが、俺の顔がすげえ好きなのは知ってる」
とんだバカップルすぎる。

西覇は見慣れているのかまったく気にもせずに、自分の制服をとっとと着はじめている。
俺も、借りた服を広げて脚を通す。
動きやすいが、ヤンキーが着ている私服にしてはセンスは悪くない。
「ヤッちゃん、予備校とか通ってて、どこ目指してるんですか?」
「えーと、ここから通える国公立」
アバウトな回答だが、この地域で狙えるところは、北高から狙えるレベルとはいえない。
国公立で必要な学科も、多分授業でカットされているはずである。
「そっか。ヤッちゃんなら一高レベルだしね。高校、アニキに合わせるっていうから、驚いたし」
「別々の高校に通うのは嫌だったし。セイハがトールに受験つきっきりで教えてくれたから、北高にうまく滑り込めたけど。東高だったら、ホント学校で勉強なんか教えてもらえないだろうしな」
「俺も頑張ったぜ」
「もちろん、トールも頑張ったよな」
王子はとことんハセガワ兄に甘いようだ。
こんだけ尽くされてるんじゃ、強姦されたって言ったとしても許してしまうに違いない。

「さてと、送ってくよ。免許は取ってるんだけど、あんまり乗り回してないからちょっと運転荒くなっちゃうかも」
王子は笑いながら車のキーをちらつかせた。


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