花に嵐

怜悧(サトシ)

文字の大きさ
23 / 34

23 side Hasegawa

しおりを挟む
「中学までは、クラスの連中からも先生からも頼られててさ、こんな風な呼び出しとかされたことなんかなかったんだよな」

夕暮れの昇降口で靴を履き替えながら、成春は思い返すようにぼそっと呟く。
一年半かけて貼ってきたレッテルを剥ぐのは、同じくらい、いやそれ以上に時間が掛かるだろう。剥がれた時には卒業みたいな状況かもしれない。
成春は再テストの結果、この間の考査の結果が実力と認められたのと、髪色を変えたことで信用は一応されたと言っていた。
「それは、それまでコツコツ成春さんが努力してたからでしょう。内申もよくなきゃ、うちの高校は入れませんよ」
「そうだな。努力もしてたしな。親もそれなりに期待してたみたいだ。今じゃ、もう諦めたみたいだけどさ」
夕日が校庭を照らすのをなんとなく横目でみながら、校門への道を成春の隣を歩く。
「うちの親なんか、勉強は暇つぶしにやってるとしか思ってないですよ。多分理解もされないので、大学も奨学金とれるところを狙ってます」
「西覇さ、俺には普通にしゃべってくれねーかな。敬語とか使われっと、なんか距離感じる」
そう言って成春に寂しそうな表情をされると、オレもなんだか弱い。
「…………気をつけます。感情が高ぶると素になりますけど、こっちも癖になってて……。意識すればするほど違和感がでちゃって」
オレは成春の肩一個分後ろを歩いているが、その長い脚をゆっくりとして歩調を合わせてくれているのだなと気がつく。
「そっか。まあ、オマエも変えるのはユックリでいいぜ。西覇のおかげで、俺も色々変われそうだ」
「本当のことを言えば、僕は成春にはあまり変わってほしくないです」
オレの言葉に、ぴたりと足を止めて成春はこちらを向いた。
無意識に呼び捨てで呼んでいた。
「…………え」
「つまらない独占欲です。中学のころのように、誰にでも頼られて、いっぱい仲間がいて楽しそうな成春は見たくない」
「それって…………嫉妬してくれるのか」
「多分、嫉妬です。…………できるなら、僕だけの成春でいてほしい」
人なんて見てくれや実力や、そして家柄なんかだけを見て受け入れたり拒絶したりする。
オレもたぶん、兄と父のことが広まれば、きっと周りからは拒絶される。

「……ダチとかできるかわからないけど、そんなもんより西覇が特別だ」

気がつくと駅前までついていて、成春はオレの顔をじっと眺めてちょっと頬の辺りをこわばらせながら耳元で囁く。
「今日、俺の家にこいよ。あのよ……親、出張でいねえから」

こころなしか、首筋が赤くなっている。

オレはごくっと思わず生唾を飲み込んだ。

成春の親は幼いころに離婚していて、いまは母親と二人暮らしだそうだ。
世界を飛び回る商社のキャリアウーマンらしく、仕事で忙しくて、かなり出張でいないことが多いらしい。

ぽつぽつとそんなことを語る成春に、確かに夏休みの前半は殆ど成春の家に通っていたが、母親にでくわしたことがなかったなと今更ながらに思う。

「俺の成績がイイと、そん時だけは喜んでくれるからよ。…………ガキの時は必死で頑張った」
たった一つ与えられた至福の時も、簡単に得ることができないと悟った瞬間に、成春は全部壊したくなってしまったのだろう。
「オマエがさ、いつも、キャベツ弁当必死で食ってるじゃねえか。俺もなんとなく、その気持ち分かる……からさ」
「僕の母も帰ってもいないし、朝帰ってきて寝る前にあの弁当だけ作って寝るから。…………殆ど、弁当としか会ってない感じですけどね。まあ、うちはどんなにイイ成績とっても褒められませんし」
朝起きて対面するのは、いつもあの二段重ねの弁当だけだ。
夕方、手伝いに呼ばれるときと、休日しか顔を合わせない。
オヤジはたまに家にいるが、寝転がっているだけで殆どいないようなものだ。

「首席でもか…………そりゃあ……キツイな」
「んー、うちは腕っ節くらいかな、あの人たちに興味もってもらえるとしたら。僕は苦手なんだけど。あ、そうだ夕飯…………」
興味を持ってもらえるもうひとつのアイテムである、飯のことを思い出す。
今日は平日である。家の夕飯の準備は、いつも大体オレがしている。

オレはスマホを取り出して、ひとつ年下の弟たちに電話をかける。
「お、オレだけど」
『セイ兄……わりい、今忙しい!たたかってる!』
つか戦ってるって、戦いの最中に携帯でるとか、余裕すぎるだろう。
「サナ、今日はオレ帰らないから、夕飯頼む」
『セイ兄、だから、ちょい待って今、敵しばいてるとこだから。キタラは今日も補習してるからそっちかけて』
ガスガスという人を蹴倒している音がする。
どうしてこうもオレの家族は…………こんなのばかりだ。
オレはもう一度、もう一人の弟に電話をかけなおす。
「キタラ。今日、夕飯オマエ作れ。オレ泊まってくから、帰らないんで」
『セイ兄?珍しいねえ、朝帰り?セックス?わかったー!早く童貞治してね!』
元々童貞じゃねえって。
「うるせえ……」
口調は可愛いが下品なことを言う、弟に呆れながらため息をついて電話を切る。
なんでウチにはこういう兄弟しかいねえのだろう。
面白そうに隣で笑う成春を見上げて、肩を落とす。
「俺にもそういう風に話してくれりゃあイイのになァ」
「そんなに敬語嫌いですか」
歩きながら笑顔を見せる成春は、そういうわけじゃねえよと言いながら、オレの肩に手を置いた。
「なんとなく、壁を感じるからかもしれねえな」
成春の家の前に止まり、鉄の門を開くと玄関へと向かう。
「ていうか、嘘くせえ。僕っていうのも似合わないし」
確かに外面でしか、僕なんていうわけがない。物心ついてから、ずっと脳内はオレで考えて、思っている。

ガチャガチャと鍵を回すと、玄関を開けてオレを招く。
いつも整えられた綺麗な玄関で、ディスプレイされた小物も品がいい。
玄関の扉を閉めると、成春は靴を脱いでオレの肩に手をかけた。
「なあ…………オマエ、俺が家誘った意味分かってるか?」
おもむろに聞く成春の顔が、なんだか僅かに緊張しているように見えた。
一週間前に起こったできごとを忘れているわけではなく、また、フラッシュバックしてしまうのではないかという不安でいっぱいなのが見て取れる。

「……分かっているつもりです」

靴を脱いで腕を伸ばして、成春の腰をぐっと引き寄せる。
成春は、俺の頭の上に自分の顎を置いて、ふっと緊張を解くように息を吐き出し、
「オマエは、俺の特別だ。ちいせえことに嫉妬する必要はねえ。だから、今日は特別のことをするぞ」
一気に告げると、ちょっと照れたのか顔を少し赤くして、成春はオレの体からそっと逃れる。

「ってことで、先に風呂入ってこいよ。」
ものいいが即物的な気もして、オレの体温も上昇してしまう。
思いっきり、ヤリましょう宣言である。
激情に任せるより、なにより羞恥心が倍増する。期待してないわけではなかったが、改めて言われるとクルものがある。
最初の一回は、成春は覚えていないし、ノーカンにした。

だから、今日が本当の最初のセックスになるのだ。
促された浴室でタオルを手渡されながら、らしくもなくオレは少し緊張をしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

処理中です...