私の推しは勇者さま!?〜アラサー異世界奮闘記〜

白猫ミント

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突然の異世界

優しいおばあさん

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急に開かれた扉に一瞬思考が止まる。

びっくりしたー、焦った、、

心臓がばくばくと音をたてる。

すると、扉の向こうから白髪で小柄なおばあさんが顔を覗かせた。
「あらあら、ごめんなさいね~
こんな時間に外を歩いている人なんていない
と思ってたから」

「、、、あ、いえ!お気にならず」

不思議だ。耳から聞こえてくる言葉は
全く日本語でもなければ、英語やスペイン語なんかとも違う。今まで聞いたこともない言葉なのに
頭の中では理解できている。

おばあさんはゆっくりとドアを閉めると
一旦歩き出そうとしたが、すぐに止まりこちらに振り返った。

「あなた、、見慣れない格好ね~
あらあら、靴を履いてないじゃない」

すると先ほど閉めたばかりのドアを開けて、

「どうぞ、中へ入って。
昔、娘が履いていた靴があるから履いていきなさい」

そう言って中へ入っていく。
「え!あの、、!」

初対面でパジャマ姿に裸足という明らかに不審者の私を快く招き入れてくれる。
本当に良いのだろうか、、と思いながら、中へ入ってみる。 

部屋の中は綺麗に整頓されていて、
ふんわりローズマリーのような香りがする。
燻んだピンクの家具が可愛らしい部屋は
穏やかな時間が流れているようだった。
おばあさんは部屋の奥へ行って、またすぐに戻ってきた。

「これこれ、この靴どう?
サイズが合うといいんだけど、、」

「あの、本当によろしいんですか?
大切な娘さんの靴をお借りして、、」

おばあさんは懐かしむような、少し寂しいような
そんな目で靴を眺めながら

「いいのよ、随分昔のものだし、このまま朽ち果てていくより貴方のような素敵なお嬢さんに履いてもらった方がこの靴も喜ぶわ」

そう言って優しく微笑みながら
「それに、、貴方はどことなく私の娘に似ているから、、」

少し寂しげににっこりと笑って、靴を足元に置いてくれる。

ゆっくり靴に足を滑り込ませると、
踵まですっぽり収まった。

「まぁ、よかったわ!ぴったりね!」
おばあさんは嬉しそうに手を合わせながら喜んでいる。

本当に驚くほどぴったりだ。
何だか気持ちも少し落ち着く。靴があるだけで
こんなに安心感があるとは、、

「あの、じゃあお言葉に甘えて靴お借りしますね。」

「あらあら、いいのよ。貰ってちょうだい。
その方が私も嬉しいわ。それと、これも!まだ朝は肌寒いから」

そう言って肩に掛けてくれたのは、温かそうな毛糸のショールだった。
ここに来て初めて会った人がこんなに優しくて
温かい人だなんて、、なんてありがたいことだろう。

「本当にありがとうございます。
あの、私ここがどこだか分からなくて、、
よろしければ教えて頂けませんか?」

怪しまれないか心配だったが、まずは現状把握が
最優先だ。そんな心配を他所におばあさんは訝しむ様子もなく優しく教えてくれた。

「ここは、アストラ王国よ。
私が住んでいるこの街は、そのアストラ王国の王都リマ。
その様子だとお嬢さんは異界人(いかいびと)でしょう?」

「イカイビト?」

「この世界とは違う世界から来た人をここでは
“異界人”と呼んでいるのよ。
この国にも数人はいるとされているわ」


他にもいるんだ。
よかった、私だけじゃないのね。
そう聞いて少し元気が出てきた。

「あの!これから私どうしたらいいのか分からなくて、、
とりあえずどこか身を寄せられるところはないですか?」

「そうね~、私も異界人に会うのは初めてなのよ、、
たしかこの間聞いた話では、警備隊のところへ
行って申請をすればどこか紹介してくれると言ってたはずなんだけど、、
ごめんなさいね~、もう歳で記憶が曖昧で、、」

「いいえ!ありがとうございます。
じゃあ、とりあえずその警備隊のところへ行ってみます。
この辺りにありますか?」

困り顔で考えていたおばあさんが顔あげて

「ええ!ありますよ。
ここを出て左に進んで三つ目の通りを左手に曲がったところにあるわ」

「ありがとうございます!
とりあえずそこへ行ってみます。靴もショールも
本当にありがとうございました。
・・・一人で知らない世界へ来て、
本当に心細かったので嬉しかったです」

目が覚めて突然知らない場所にいて、
冷静に行動したつもりだったけど本当は怖くて一歩進むのも震えていた。
そんな中、優しいおばあさんに出会えて、助けてもらえて涙が出るほど嬉しくて安心した。
おばあさんの手を取り、心からの感謝の気持ちを
精一杯伝えた。

おばあさんと別れるのは名残惜しいけれど、
いつまでもこうしている訳にもいかない。
外に出ようと振り返りかけて、
そういえばおばあさんの名前を聞いていないことに気づいた。

「あの、お名前を伺ってもいいですか?」

「私はマリーよ。
私もあなたに会えてよかった。大したことはできなかったけど少しでもあなたの力になれたのならよかった。
アオイ、あなたならどんな困難があってもきっと乗り越えられるわ。
元気で頑張ってね!」

マリーさんの目には薄っすら涙が浮かんでいた。
温かくて優しい手で、私の手を包み込みこれからの無事を祈ってくれた。

「ありがとうございます。
また落ち着いたら会いにきますね!」

マリーさんは少し寂しそうな目をしたが、
すぐにまた優しくにっこりと笑って

「いってらっしゃい」

「はい!いってきます」

そう言うと私は外の世界へ一歩踏み出した。
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