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突然の異世界
再会
しおりを挟むミズキくんとともに、オクティマの部屋に向かうと扉の前でシュタインさんが待っていた。
シュタインさんは神妙な面持ちで、ミズキくんにコクリと頷く。
シュタインさんが、扉を開けるとそこには国王陛下と王妃様、王太子の3人に加え護衛だろうか騎士が数人控えていた。
陛下は深く落ち着いた瞳で私を見つめ、静かに告げる。
「もう一度、其方に機会を与える。
この場でオクティマの声が聞こえなければ、其方をオルクと認めることはできぬ」
チャンスは一度だけ。
陛下と謁見するまでの間、一度も聞こえていないのだから可能性は極めて低いことは分かっている。
それでも、このチャンスにかけるしかない。
皆が見つめる中、オクティマの前まで進む。
そして、そっとオクティマに触れる。
視界の端で、怪訝な顔をして壁にもたれ掛かっていた王太子がピクッと反応したのが分かった。
軽く深呼吸して、真っ直ぐにオクティマを見つめる。
「オクティマ、私だよ。
何か伝えたいことがあったんじゃないの?
なぜ、私に語りかけたの?
私はここにいるよ」
・・・・。
やはり声は聞こえない。
暫く額をオクティマにつけてぎゅっと目を瞑り祈る。
・・・やはり何も聞こえない。
これまでだ。
もうこれ以上は・・・
そっと目を開けて、静かにオクティマから離れようとしたときだった。
『・・ぅおそおおおおい!!!!』
!!!!
急に耳元で大音量の声が駆け抜ける。
驚きすぎてオクティマを呆然と見つめる。
急な大声に頭がクラクラする中、尚も声は続く。
『遅い!!!
お前どんだけ遅いんだ!!
こんなに遅いなんて信じられんわ!!』
息も荒々しくまくし立てる声に気圧されながら、聞いてみる。
「あ、あの、、何が遅いんでしょうか?」
『はあ??何が遅いって分かっとらんのか!
こうして、話せるようになるまでどれだけ時間がかかるんだ!
魔力を流すのがとんでもなく遅い!!』
「ま、魔力!?私って魔力あるんですか?」
『そんなことも解っとらんのか!
魔力はあるが流れが悪い。普通、オクティマに魔力が流れて溜まるまでこんなにはかからん!
こうして話せるようになるまで1日もかかったんだぞ!』
な、なるほど。。
何となく解ってきた。
例えるならば、携帯を使うには充電が必要なように、オクティマを扱うには魔力の充填がいるということ。
そして、それはオルクが魔力を流すと起動するのだが私は魔力の流れが悪く、起動するまでに1日かかったということか。
そりゃあ、携帯に充電機さして起動までに1日かかったらぶちギレるわな。
「あ、あの!アオイさま??
何か聞こえたのですか??」
シュタインさんの声が後ろから聞こえ、ハッと振り向くと皆が一様に驚いた顔をしている。
「あ、はい。
えっと、聞こえます。
かなりブチぎれてますが・・」
「ぶ、ぶち??」
シュタインさんが不思議そうな顔をしている。
「あ、いえ、かなり怒っているようです。
どうやら、オクティマに私の魔力が流れるのが遅いようで今ようやく話せるようになったと」
「!!、なんと!そういうことだったのですね!
オクティマは神具ですから魔力がなければ確かに
効力を発揮しません。
ですが、通常はオルクが触れるとすぐに反応があるものと思っていましたので、こちらも失念しておりました」
申し訳なさそうにシュタインさんが目を伏せる。
いや、普通はあり得ないことなんだろう。
なんか・・
すみません。
ここでふと疑問が浮かぶ。
オクティマが神具ということは、オクティマは道具の名前ということになるがこの声の主はオクティマでいいのだろうか。
「あの、あなたの名前はオクティマでいいの?」
オクティマに向かって話しかける。
『私の名前は“セル”だ。
オクティマはこの器の名前だからな』
後ろを振り返り、とりあえず話した内容を伝える。
「あの、このオクティマの主は“セル”という名前だそうです」
「おお!そうなのですね!」
シュタインさんが目をキラキラさせながら嬉しそうに応える。
皆が驚きに包まれている中、1人鼻息荒く怒ってる者がいた。
「そんなの!嘘かもしれないだろ!!」
後ろの端で大人しくしていた王太子クラインが声を荒げた。
「ふん!どうせ、この女が猿芝居でもしているんだろう!
俺たちには声が聞こえないんだから、何とでも言えるじゃないか!」
確かにそう言われれば、ぐうの音も出ないけど・・
「ふむ・・確かにそうとも言える。
何か証明できる方法はないか」
陛下も半信半疑な様子で私の方を見る。
証明って言ってもなぁ・・
一応、セルに方法がないか尋ねてみる。
「ねえ、セル。
何か証明する方法ないかな?」
『ふん!なぜ、此奴らに証明せねばならんのだ』
「そんなこと言わずに。
というか、私はオルクということでいいの??」
『私の声が聞こえているのだから、お前はまぁ一応はオルクだ。
まだ、魔力もまともに扱えないひよっこだがな』
そうなんだ・・
私、オルクなんだ。
理由が気になるところだけど、今は証明できる方法を探さなくては。
「仮にも私がオルクなら、それを証明しないとここを追い出されるの。
そうなったら、あなたの声を聞く人は誰もいなくなってしまうけどセルはそれでいいの?
あなたは、神の言葉を伝えるために生まれたんじゃないの?」
『・・・。
はぁ、全く!面倒な。
・・・そこの扉の左側にいるやつ』
後ろを振り向きながら、セルの声を皆に伝える。
「えっと、そこの扉の左側にいる衛兵さん。
彼はいつも昼過ぎにこの部屋でサボっていると、、セルが言っています」
そう言われた衛兵は驚きで目を見開き、
「な、何を勝手なことを!
陛下、自分はそんなことはしておりません!」
「あー、それと、サボっているときに右ポケットからタバコを取り出して吸っているとも」
陛下は険しい表情になり、近くの衛兵に彼のポケットを調べるよう指示を出す。
彼のポケットからは案の定、タバコが数本入った箱が出てくる。
「へ、陛下!!
違うのです!これは・・!」
彼が言い終わるより先に両サイドの衛兵がガシっと彼を拘束し、部屋の外へ連行する。
「そ、それとそこの赤毛の衛兵さんは、若い栗色の髪のメイドと密会し今日もイチャついていたと・・。
首元にはキスマークがあるはずだと・・」
それも即座に確認がとられ、彼は泣きそうな顔で引きずられるようにして連行された。
どうやらこの部屋は、衛兵たちのサボり場になっていたようだ。
おいおい、衛兵さん、何やってんの。
『ふん!まったく!
神聖な場所でふざけた事をするからだ』
かなり鬱憤が溜まっていたのか満足そうな声がする。
『ああ、そういえば、上から言付け預かってるぞ。
《来たる災いに備えよ》だとよ』
ええ!
ちょ、ちょっと待って。
そんな、さらっと!
・・来たる災い?
「急にそんな重要なことを・・
災いって?ねえ、その災いってもっと具体的に分からないの?」
そう聞くとやや不機嫌に、
『贅沢言うな。
災いが来ると分かるだけありがたいと思え』
えぇ・・これじゃどう対策すれば分からないと思うけど。
「あの!アオイさま?
災いと聞こえたのですが・・・」
シュタインさんが少し引き攣ったような顔で聞いてくる。
「あ、はい。
セルが神様から《来たる災いに備えよ》と言付かったそうです。
でも、これだけじゃ何の役にも立たないですよね・・」
そう言うと目を見開いたシュタインさんは陛下と視線を交わし、何やら小声で話している。
少ししてシュタインさんはこちらに向き直り、
「アオイさま。ありがとうございます。
何も役に立たないなどということは決してあり得ません。アオイ様がセル様のお言葉を聴いてくださらなければ、我々は災いが来ることすらも気づけなかったのですから。
今後考え得る対策をしてまいります」
そう微笑みながら言った。
シュタインさんは感謝の弁を述べてくれているが、セルから聞いたことを伝えているだけなので、あまり役に立っている実感はない。
どう応えるべきか迷って、ふと陛下の方を見ると陛下は静かに目を閉じていた。
そして再び目を開けると、
金青色の瞳で力強く真っ直ぐに私を見つめ、
「どうやら、其方の言ったことは全て真実だと認めざるを得ないようだ。
其方をオルクと認め、この王宮で我がアストラ王国のオルクとして従事することを命じる」
そうして、私はこのアストラ王国で神の言葉を伝える者“神伝者オルク”として認められたのである。
「おかえりなさい」
小さな声がぼそっと呟いた。
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