UNLEASH

いらはらい

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呪縛

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 いつもと変わらぬ日常が訪れると思っていた。

 いつもなら、一緒につるむアキとマコトがそれぞれ独りで行動していた。クラスメイトは不思議に思ったものの、誰しもその事を問うものは居なかった。よくある些細な事でケンカし、時間が経てばすぐにつるむだろうと思っていたからだ。
 だが、数日経っても二人が近づく事はなかった。クラスの一部があの二人に何があったのか、聞きやすそうなアキにそれとなく話す決意した次の日にアキの姿はなく、しばらく休むそうだと担任から軽くクラスに伝えただけだった。
 マコトは、端にあるアキの机に視線を移したが、すぐに視線を戻し、コツンと自分の机に頭をつけた。


 そんな日からしばらく経ったある日、寺の務めを終えたマサキは離れの自宅へと向かっていた。手には檀家さんからいただいた塩豆大福を下げている。これに合う美味しいお茶を淹れようと台所へ行き、ちょうど急須に茶葉を入れた時に呼び鈴が鳴った。
 おやおや、一緒にお茶をする人が来たのかな?と、ニコリと微笑み茶筒に蓋をし玄関へと向かった。
 玄関を開けるとそこにアキが立っていた。
「大丈夫かい?」
 どこか、憔悴しているような暗い表情だったために、挨拶よりもさきに気遣いの言葉をかけていた。
「この前は……すみませんでした……心配をかけた上に母に口裏を合わせてもらって……」
「いや、構わないさ……それより上がって。ちょうどお茶を淹れようと思っていてね。中で話を聞こう」
 マサキは優しく微笑み、アキを中へと招き入れようとした時だった。
「父が……亡くなりました……」
 ぽつりとアキは呟き、その呟いた言葉にマサキは驚いた顔でアキを見た。アキは淡々と無表情で喋り続けた。
「夜中に……母が働いてる病院に急患で運ばれたらしくて……」
 そう呟き、アキはうつむいた。マサキは一段高くなった玄関から降り、アキの傍へと歩み寄った。
「病気だったのかい?」
「いえ……金銭目的の強盗に襲われたみたいで……彼女らしい人が説明してたと……一度、意識は戻ったみたいで、母さんだとわかったら謝ったそうです……が……、そのまま……息を……」
 マサキにいきさつを語りながら、アキの目から雫が落ちていた。
 アキは慌ててその雫を拭ったが、次から次へと堰を切ったように雫が溢れていった。こらえようとするが止める事はできず、一度流れた感情は簡単に止められなかった。
 嗚咽が漏れ、ぐしゃぐしゃになった顔から流れる雫を荒々しく拭き取り、アキは言葉を出した。
「ボクは……ボクの……この気持ちはなんでしょうか?あんなヒドイ事をされたのに……逢いたくなかったのに……死んで嬉しいはずなのに……どうして!どうして……涙が止まらないんでしょうかっ……!ボクは……おかしいんでしょうか?」
 泣きじゃくるアキをマサキは優しく抱きしめ、震えるその背中を擦ってあげた。
「……つらかったね……アキくん。誰かを想って流す涙は悪いものじゃない。泣くことに引け目を感じなくてもいいんだよ?」
 優しく語りかけ、アキの背中を小さな子供をあやすように、優しく撫でた。
「目を背けたくなるヒドイことがあった……その過去があっても涙を流すのは、それでも『父親』だったと思っていたんだ……」
「……」
「少なくとも心の隅に、父親として大好きなところがあったのかもしれない。その存在が消え悲しんだ……だから、その気持ちは素直に受け止めいいんだよ……」
「……マサキさん」
 アキは、抱き締められたマサキの背中に腕を回し、また泣き出した。
 ふと、マサキは開けられたままの玄関先に視線を移した。
「……マコト?」
 その言葉にアキは慌て、マサキが見る先へと視線を向けた。そこにはマコトが険しい顔で立っていたのであった。

 
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