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終焉
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心電図はゆっくりと規則正しく波形を刻んでいた。
病室には身体に管を着けたアキがベッドに横たわっており、マコトはそれを遠くの窓越しでしか見ることが出来なかった。
病院に運ばれる間、色々と事情を聞かれたが"気づけば倒れたていた"と、それ以外何も言えなかった。
─霊が現れてアキの命を奪いに来た─
そう言われ"そうですか"と納得できる者などいるのだろうか。
他の証言もマコトと同じだったため、食中毒が疑われた。だが、検査をしてもウイルスや薬物反応もなく、おまけに内臓器官も脳もどこも損傷がなかった。外的要因もなく、原因不明とされたのであった。
廊下のソファーに抜け殻のように座っているマコトの隣に、マサキが無言で腰を下ろした。マコトは姿勢を変えず、力のない声で独り言のように口を開いた。
「……念珠が……呪いが解けたんだ。アキの命と引き換えに……こんな事、こんな事望んでいなかったのに……」
ポロポロと悔しそうに涙を流すマコトの肩をマサキは無言で抱き寄せ、なだめるように肩をさすった。マコトはマサキに寄りかかったまま声を押し殺し、涙を流した。
数日後、アキの意識は依然として戻らずにいたがそれ以外は安定しており、個室へと移動されていた。
当初はアキの大学の友人も見舞いに来ていたが、次第に少なくなり、マコトは時間さえあれば、アキの見舞いに足を運び声を掛けていた。
命が助かっただけでも救いだと思っていても、元気な姿を見たいと思う自分がいた。今日も変わらず目を開けないアキの手を握りポツリと呟いた。
「約束しただろ?ずーっと一緒にいようって。お前が居なくなったらオレは……。なぁ、オレを置いて行くなよ……戻って来いよ、アキ……」
いつも優しく微笑み掛けていた視線も優しく包む声も、今は閉ざされたままだった。震える声で大切な者の名を呼び、その手にそっと唇を添えた。
****
呪いが解け、髪を結う必要もなくなったマコトは、何年振りかの短髪になっていた。
アキ以外の日常は代わり映えのないモノだった。いつものように本堂の掃除をしていたマコトだが、そこにいつもは沈着冷静なマサキが、慌てた様子でマコトの方へと走ってきたのであった。
なにかやらかしたか?と思わず身構えたマコトだったが、マサキの口から出た言葉はそうではなかった。
「アキくんが!アキくんの意識が戻ったぞ」
その言葉にマコトは手にしていた雑巾を放り投げ、作務衣を脱ぎ捨てるように着替えた。
はやる気持ちを抑えながらもアキがいる病室へと向かうと、病室の前にアキの母親、ハルカが立っていた。マサキ達が来た事に気づきハルカは慌てて涙を拭った。
「連絡ありがとうございます。アキくんの目がさめて本当に良かったですね」
マサキは涙を拭うハルカにそっと寄り添い言葉をかけ、ハルカは涙目で頷いた。
「アキオ、マサキさんとマコトくんよ」
ハルカは病室に入りアキに声をかけた。ハルカのあとに続いて部屋に入ったマサキ達の目に、ベッドの背もたれごとではあったが、体を起こし外を眺めているアキが映った。
今すぐ抱きしめたい。
そんな衝動に駆られそうなマコトだったが、その気持ちを抑えアキに近寄った。
「アキ……」
そっと声を掛けたが、自分の声に振り返ったアキの雰囲気に違和感を覚えた。アキの表情はどこかぎこちない顔をしていたのだ。
アキはマコトの顔を見てしばらく考え、申し訳なさそうに口を開いた。
「キミは……誰だっけ?」
その言葉にマコトはこの世から色が消えたような感覚に陥った。
呪いを解く代償に、アキの命が犠牲になりかけた。命が助かっただけでもいい、意識が戻ってくれたら良い。そう願っていた。
だが、意識が戻ったアキの記憶からは、マコトの存在が丸ごと消えていたのであった。
病室には身体に管を着けたアキがベッドに横たわっており、マコトはそれを遠くの窓越しでしか見ることが出来なかった。
病院に運ばれる間、色々と事情を聞かれたが"気づけば倒れたていた"と、それ以外何も言えなかった。
─霊が現れてアキの命を奪いに来た─
そう言われ"そうですか"と納得できる者などいるのだろうか。
他の証言もマコトと同じだったため、食中毒が疑われた。だが、検査をしてもウイルスや薬物反応もなく、おまけに内臓器官も脳もどこも損傷がなかった。外的要因もなく、原因不明とされたのであった。
廊下のソファーに抜け殻のように座っているマコトの隣に、マサキが無言で腰を下ろした。マコトは姿勢を変えず、力のない声で独り言のように口を開いた。
「……念珠が……呪いが解けたんだ。アキの命と引き換えに……こんな事、こんな事望んでいなかったのに……」
ポロポロと悔しそうに涙を流すマコトの肩をマサキは無言で抱き寄せ、なだめるように肩をさすった。マコトはマサキに寄りかかったまま声を押し殺し、涙を流した。
数日後、アキの意識は依然として戻らずにいたがそれ以外は安定しており、個室へと移動されていた。
当初はアキの大学の友人も見舞いに来ていたが、次第に少なくなり、マコトは時間さえあれば、アキの見舞いに足を運び声を掛けていた。
命が助かっただけでも救いだと思っていても、元気な姿を見たいと思う自分がいた。今日も変わらず目を開けないアキの手を握りポツリと呟いた。
「約束しただろ?ずーっと一緒にいようって。お前が居なくなったらオレは……。なぁ、オレを置いて行くなよ……戻って来いよ、アキ……」
いつも優しく微笑み掛けていた視線も優しく包む声も、今は閉ざされたままだった。震える声で大切な者の名を呼び、その手にそっと唇を添えた。
****
呪いが解け、髪を結う必要もなくなったマコトは、何年振りかの短髪になっていた。
アキ以外の日常は代わり映えのないモノだった。いつものように本堂の掃除をしていたマコトだが、そこにいつもは沈着冷静なマサキが、慌てた様子でマコトの方へと走ってきたのであった。
なにかやらかしたか?と思わず身構えたマコトだったが、マサキの口から出た言葉はそうではなかった。
「アキくんが!アキくんの意識が戻ったぞ」
その言葉にマコトは手にしていた雑巾を放り投げ、作務衣を脱ぎ捨てるように着替えた。
はやる気持ちを抑えながらもアキがいる病室へと向かうと、病室の前にアキの母親、ハルカが立っていた。マサキ達が来た事に気づきハルカは慌てて涙を拭った。
「連絡ありがとうございます。アキくんの目がさめて本当に良かったですね」
マサキは涙を拭うハルカにそっと寄り添い言葉をかけ、ハルカは涙目で頷いた。
「アキオ、マサキさんとマコトくんよ」
ハルカは病室に入りアキに声をかけた。ハルカのあとに続いて部屋に入ったマサキ達の目に、ベッドの背もたれごとではあったが、体を起こし外を眺めているアキが映った。
今すぐ抱きしめたい。
そんな衝動に駆られそうなマコトだったが、その気持ちを抑えアキに近寄った。
「アキ……」
そっと声を掛けたが、自分の声に振り返ったアキの雰囲気に違和感を覚えた。アキの表情はどこかぎこちない顔をしていたのだ。
アキはマコトの顔を見てしばらく考え、申し訳なさそうに口を開いた。
「キミは……誰だっけ?」
その言葉にマコトはこの世から色が消えたような感覚に陥った。
呪いを解く代償に、アキの命が犠牲になりかけた。命が助かっただけでもいい、意識が戻ってくれたら良い。そう願っていた。
だが、意識が戻ったアキの記憶からは、マコトの存在が丸ごと消えていたのであった。
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