UNLEASH

いらはらい

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終焉

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 アキとマコトがそれぞれ違う道を歩きだしてから一年が過ぎようとしていた 。その間、たまにすれ違うこともあったが、それでも二人の仲は深まっていくばかりで、何もかもが順調に進んでいるように思えていた。

 ──呪いを除いては──

    
『明日は寺が在る自治体主催の花見イベントがある』とマコトから話しを聞いたアキは、ちょうど休みになったので手伝いをしようと、久しぶりに寺へと泊まりに来ていた。
 高校の時のように一緒にごはんを食べる事は少なくなっていたが、マサキはいつもと変わらずに接してくれる。
 この人が居なければ今を生きることも、マコトに出会うことも出来なかった。だからこそ、微力ながらも役に立ちたいとアキは思っているのだった。
 食後の片付けを終えて、言葉に甘え先に風呂を済ませたアキは、マコトのベッドに腰掛けて携帯端末をいじっていた。
 しばらくして、マコトが入ってきたが、その姿にアキは呆れた。濡れたままの髪の毛を乾かすこともなく、垂らしたままの姿だったのだ。スウェットの上から、タオルを肩にのせてはいたが……
「ちょっと……いくら暖かくなったからって濡れたままは良くないよ。ちょっと待ってドライヤー持ってくるから」
 そう言い、ドライヤーを持ってきたアキはマコトの髪の毛を丁寧に乾かした。
「なんか……髪の毛がサラツヤな気が……」
「でしょう?」
 いつものドライヤーなのに、自分で乾かした時と全く違う手触りに驚いたが、アキの自慢げな顔にマコトの表情は少々不服そうだった。
 髪を解き、呪いの姿で女性となったマコトのそんな横顔は、いつもとは違う可愛さがあると思っていた。
 そんな事をとても本人には言えないと思い、乾いた髪を束ねてあげようとサラリと撫でたが、細い首筋が目に入りその手を止めた。
「女性の身体にそこまで興味はないけど、キミならやっぱりそそられるよね。キミであってキミじゃない。だから、今までその身体に触れなかったんだけど……」
 アキはそう言い、細く柔らかなマコトの身体を後ろから抱きしめた。
「でも、呪いで女性となったキミもキミなんだと思う。だから……全て欲しいんだ」
 普段と違う細い首筋に軽く唇を落とした。マコトの身体にいつもとは違う感覚が流れマコトは慌て、アキの腕を振り払い困惑した顔を向けた。
「この身体の時に重ねてお前に何かあったらどうすんだよ」
「いいよ、キミと一緒ならどこでも」
「バカ言うな……」
 そう言いながらも手を握られ、顔を近づけるアキを拒む事ができず、マコトはそのままアキを受け止めたのであった。

 *****

「何も起きなかったね」
 最後まで事を終え、ベッドの中で背を向けたままのマコトを抱きしめたアキは呟くように言い、そのまましゃべり続けた。
「ねぇ……このまま呪いが解けなくてその身体ですごすとしたら子供できるのかな?」
「は?!」
 思わぬ言葉にマコトは驚き、何の冗談だと言う顔でアキを見た。だが、アキは真面目な顔でマコトを見つめていた。
「大学を卒業して就職したら、母さんにキミとの仲を言うんだ。セツナさんと父さんの件もあってちゃんと伝えていないから……それに今は再婚して一人じゃなくなったし」
「でも呪いが解けなかったら……どっち道お前と一緒に暮らせないんだぞ?」
「その時はお寺から通うよ」
「イヤイヤさすがにそれは……って言うか、明日は寺の手伝いするために来たんだろ?もう寝るぞ」
「はいはい」
「ったく、調子狂う」
「フフ。好きだよ、マコト」
「…………オレも……」


 花見イベント当日となり、朝から多くの人がイベント会場を行き来し、賑わっていた。手伝う二人は会場の雰囲気を味合う間もなく忙しさに追われていた。
 気づけばあっと言う間に時間は過ぎ、イベントは終了時間となっていた。
「さて、無事に終わったし、片付けましょうか」
 主催者のアナウンスがあり、マサキは二人に声を掛け、二人はテントの中の長机や椅子などの備品をトラックへと運んで行った。
「時間があったら、今度は二人で花見しようね」
 備品を渡し、まだ残っている備品を取りに戻る中、満開の桜を見ていたマコトに笑顔で言い、マコトは少し照れながらそうだなと頷いた。
 そんな穏やかな雰囲気を壊すような風が吹き、片付け途中のシートが飛ばされた。ちょうどそのシートが二人の前を飛んで行き、さすがに無視は出来ないと、二人は慌てて取りに向かったのであった。
 強風に煽られ、飛ばされたシートは満開に咲いた桜の前で止まり、遠くまで飛ばされなくて良かったと二人は安堵をした。
 シートを拾った二人は目の前に映るモノに思わず息が止まった。
 目の前にあの女が立っていたのだった。まだ日が暮れていないのに表情が見えず、女の周りから薄暗い空間が漂い、この世の者ではない青白い肌をより一層引き立てていた。
 どうして……とマコトの口から怖れを含んだ声が漏れた。
 〘時は満ちた……約束通り解いてやろう……お前の大事なものと引き換えに〙
 そう言い、青白い指で示すのはアキだった。
 このままではいけない、と思ったマコトはアキの手を掴み走り出そうとしたが、身体が動こうとはしなかった。
 いくら会場から離れた場所とは言え、誰もこの異様な空間に気づく者がいないのが不思議で仕方なかった。まるでここだけが切り取られたかのように、周りの景色も止まっているようだった。
 いつの間にかアキの眼の前に女が立ち、その手をアキの左胸へとひたりと這わす姿が目に入った。
「ヤメロ!!」
 見る見るうちにアキの口や目、そして鼻からも血が流れ出しその姿にゾワリとした感覚が全身を走った。
「お願いだ!!呪いは解けなくていい!だから!!だからアキに手を出さないでくれぇ!!アキを連れて行くな!」
 泣き叫ぶ自分の姿は、無様だと分かってはいた。だが、また目の前で大切な人が血を流し、居なくなるのを黙っていられなかった。
 だが、そんな悲痛な叫びは届かず、女の手はアキから離れることはなかった。
 涙で歪んだ視界に、アキの頭が動き、自分を見つめているのが映った。血が流れる顔で優しく微笑み口を動かしていたが、その声は聞こえず、崩れるようにアキの身体はその場に倒れた。
 マコトの叫び声と共に念珠が砕け、止まっていた世界が動きだし、マコトはその場に足から崩れた。思うように動かない身体で、倒れているアキの所へと這いずっていった。そして、血まみれになったアキを抱き起こし、泣きながらアキの名を叫んだ。
 その声に近くにいた人が近寄ってきたが、血まみれのアキを見て悲鳴を上げた。
「お願いだ……誰か…アキを助けてくれ……!」
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