UNLEASH

いらはらい

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 憎しみだけで存在する少女の霊は、奪ったアキの身体でマコトの首を絞めていった。
 マコトは抵抗する術もなく薄れ行く意識の中で、自分はこのまま死んでしまうのかと思った。最期をこんな形で迎えるとは。しかも、心を許した相手の手で。

 ──────

 身体が痛い。
 息をするにも小刻みにゆっくり、もしくは息をしないほうが楽なのではないか、というほどの痛みが小さな身体に襲いかかっていた。
 薄っすらと目を開け辺りを見回すと、その幼い瞳に映し出されたのは、ひどく残酷な状況だった。
 少年の目の前に、血まみれで倒れている女性がいた。それを見る少年も同じように横たわり、その素肌には見るに耐えれないほどの痣が複数あった。
「お……かぁ……さ……」
 息をするにも激痛が走るなか、少年•マコトは母に声をかけたが、母からの反応はなかった。その倒れている母親の傍らに誰かが立っていた。視線を上げその人物をみた。
 男が肩で息をしながら、倒れている母のそばに立っていた。その手には血の付いた棒を持ち、その表情は笑っているのか、泣いているのかマコトにはよくわからない表情だった。
 マコトの視界はボヤけ、次第に意識が薄れていこうとしていた。その中で、誰かに抱えられたのか身体が浮いた感覚と、様々な声がらしき音が響いていた。だが、目を開ける事はできず、そのまま暗闇へと意識は沈んでいったのだった。

「今日からよろしくな」
 目の前にマサキがいた。優しく微笑むマサキは今より少し若く見えた。
 あの惨劇から数年、マコトは施設で過ごしていたがマサキが現れ、一緒に住む事になった。この時、マコトは12歳になっていた。
 優しく微笑みながら接するマサキに対して、マコトは笑顔を向けることもなく、無表情で過ごしていた。
 たしかに、この寺は幼い頃に行った覚えがあるが、どうせここにも自分の居場所なんてない、と思っていたであった。そして、どうやってここを出ていこうかと考える日々送っていたのである。
 寺での生活が数日たち、少人数ではあるが様々な人が寺を訪れていた。マサキの人柄だろうか、法要以外に野菜を持って来る者や、人が増え大変だろうとおかずを持って来る者など、皆が笑顔でやってきていた。
 その中に、たまに来る少年と目が合う事があった。だが、その顔のよさに虫唾が走り、おまけに相手が自分と同じ年齢だと聞かされたときは、微笑んで話しかけてきても絶対に相手をしなかった。
 何事もなく過ぎて行く日々だったが、本堂の隅にある、離れとは別な部屋につながる廊下がある。その奥に何か特別な物があるとマコトは思っていた。マサキに、そこだけは入ってはいけないと言われていたからだ。
 売れるものがあるかもしれない。
 今日は毎週来る、あの少年•アキが来ている。この少年が来ている時は、自分がその場にいる必要がなかった。今がチャンスだ、と思ったマコトはその奥にある部屋に入りこんだのであった。
 少し独特な匂いと雰囲気の部屋には、様々な箱などがあった。マコトは一つ一つ手に取り物色していったが、その中でひときわ古ぼけた箱があった。今までの箱とは違う雰囲気の箱だったため、一瞬開けるのをためらったが、マコトはそれの紐をほどいたのであった。
 その瞬間、背後で空気を裂くような音がした。どうやら近くに雷が落ちたらしい。それと同時にマコトの全身に、経験したことのない不気味な感覚が走った。その感覚が何なのか分からず、思わず落雷した背後をゆっくりと振り向いた。
 だが何もなく、辺りはシン、と静まりかえっていた。
 なにもない。そう思い、箱のある方を向きなおした。が、振り向いた瞬間、マコトの口から短い悲鳴が出た。
 いつの間にか和服の女が無表情で、自分を見つめていたからだ。
 その女性は酷く白い肌だった。白いというより血色のない作り物のような色に見え、その青白い顔は目元が何故か暗く見えない。纏う雰囲気は怒るでもない、泣くでもない、無表情のままのように感じた。マコトは女から視線を外そうとしたにも顔を背けることができず、凝視するしかできなかった。
 すると女がスッと腕を上げ、マコトの胸へと指を這わし、呟くようなか細い声を発した。
『全てが満たされ花が散る頃、そなたの大事なモノと引き換えにそれを解いてやろう』
「マコト!!!」
 女が消えると同時にマサキが慌てて入ってきた。だが、マコトを見るなりマサキの表情が変わるのが分かった。その表情は怒りではなく呆れるのでもない、泣きそうな顔をしていた。
 その後ろにはアキがおり、心配そうに覗いていたが、マコトを見るアキの表情は驚いた顔に変わっていった。
 何が起きたのか自分の身体を見ると、胸がふっくらとしていたのだ。
 これが呪いにかかった日の出来事であった。
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