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23 ーヘレンド村ー
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週末明けて5月最後の水曜日、薄曇りだが雨は降らなそうだ。ヘレンド村への調査日である。
前もって聞いていた依子のアパート下で、譲治はレンタカーを停めた。と、着きましたのLINEをする間もなく、戸口から依子が出てくる。
運転席の窓を覗き込む。
譲治はウインドウを下げた。
「おはようございます。後ろでも前でも、お好きな方で。」
「おはようございます!上から見えました。前でいいですか。後ろに座ると景色が見えなくて、ちょっと酔いやすいんです。」
依子が助手席に座りながら言った。
早速目的地へ向かう。
ヘレンド村は、ブダペスト近郊で大変有名なリゾート観光地、バラトン湖の近くにある。
村に行くついでに、時間があれば景勝地観光もしよう、ということにしている。
バラトン湖までは幹線道路をほぼ真っ直ぐに2時間ほど。遠すぎず、わかりやすく、人気の観光地だが、車がないとなかなか行きづらい。
車窓を眺めながら、お互い気ままにポツポツと話をする。
「電車の旅というのも魅力的ではありますけど、着いた先の駅からどうにもならないみたいなんですよね。
流しのタクシーはないしチャーターしないといけない。
観光客なんかはツアーバスに申し込んで、ブダペスト間を往復するのが一般的みたい。」
依子は言う。
「私は車の運転好きですけど、のんびり電車の旅っていうのもゆっくりやってみたいもんですね。」
譲治も言う。
「バラトン湖は以前にも来たことがあるんですっけ?」
譲治が尋ねる。
「そうなんですよ。そもそもハンガリーは2回来たことがあって、1回目の時は湖畔のお城みたいなホテル。
地下に温泉があって、周りは紅葉の美しい森に囲まれてて。
もう25年前だから記憶が朧ですけど。
2回目は10年前。この時はバラトンアルマーディっていう街に友人と滞在しました。
25年前は晩秋だし、2回目は2月の一番寒い時だし、私の中でハンガリーは寒くて凍てつく国っていうイメージです。」
依子は続けて思い出を語る。
「すごいんですよ。
バラトン湖が全面ガッチガチに凍ってるんです。
湖岸なんか水を被って、地面はもちろん街灯もベンチも街路樹も全部氷の彫刻状態で。
普通の住宅地の路面も全部凍ってるし、坂の多いところなのに、みんなどうやって歩いたり運転してるのか。
まあ、人気があんまりなかったですけどね。シーズンオフだから。」
身振り手振りで広い湖面が凍りつく様子を示している。
「でも静かで美しかった。雪と氷の街を友人とたくさん歩きました。
いろんな話しながら。丘の上までトレッキングして。
そこから見た、凍りついたバラトン湖の景色、一生忘れません。」
遠くを見るような眼差しで、依子がかすかに微笑む。
譲治もシーズンオフの凍りついた街というのに興味を惹かれた。
「それは、私も行ってみたいですね。人混み苦手だから、シーズンオフの方がむしろゆっくりできるかも。」
「でもめっちゃくちゃ寒いですよ。」
依子が笑いながら言った。
「そのご友人というのは、この前言ってらした昔からのペンパルさんですか。」
譲治は、依子の経歴がいまいち謎でさらに聞いてみる。
「ペンパルというか、元々父親同士が仕事仲間で、彼女のお父さんが日本に出張に来た時に一緒に来たんです。
それ以来友人で、年末年始のグリーティングカードを交わす感じで。
私は英語苦手だし、向こうは筆不精だし、でそんなにべったりという関係ではなかったんですけど。」
それから依子の声の調子がちょっと沈む。
「実は彼女も同じようなタイミングで結婚して、同じタイミングで離婚したんですよね、しかも旦那のDVで。
私よりもっとひどい被害受けてたみたいです。
私が、これこれこうでさ、なんてメールしたら、実は私もだよ、みたいな話になって、これはもう、行くしかない!となって、すぐ激安航空チケット取って、カロリンの所へ飛びました。」
あ、カロリン、って名前です。彼女、そう依子は付け加えた。
「そういうことあるんですね。不思議な縁なんですね。」
譲治も静かに話す。
「ほんとにね。その滞在の間、私は適当に安宿探すつもりだったんですけど、自分のアパートに泊まってよ、って全部面倒見てくれました。
彼女のアパートの一室を借りて、毎朝一緒にパンとチーズをかじって、毎晩トカイワイン飲みながら、他愛もないおしゃべりして。
辛かったこともたくさん吐き出し合いました。
そういえばいろんなお友達や兄弟にも合わせてもらったなあ。
私あんまり英語喋れないけど、彼女はそういうの全然気にしてないように、ゆっくり会話に付き合ってくれました。」
依子の声が少し震えている。
「すごく良い経験できて素晴らしかったんですけど、あのカロリンとの旅のこと思い出すと、なんか楽しかった気持ちと同時にとても胸が切なくなっちゃって。」
「カロリンは数学の教師で頭いい子なんですよ。
でも、ちょっと不器用なところがあって、やっぱり人間関係に苦労するのかな。
離婚してから心の調子があんまり安定しなくて。
彼氏ができてもどうもうまくいかなくて長続きしないみたい。
本当にいい子なんですよ。大らかで優しくてちょっと天然ちゃんで。
絶対に彼女のいい所をわかってくれる、いいパートナーがいるはずなんだけど。」
「そのカロリンさんも、小石川さんにそんな風に思ってもらってて、幸せなんじゃないですか? そういう関係性が羨ましい。」
譲治は素直にそう思った。
「ハンガリーに移住した時もとても喜んでくれました。
そんなにしょっちゅう会ってるわけじゃないんですけど。
私も彼女に頼りたいわけじゃなくて、頭のどこかで気にしてくれてる、くらいの距離感が、ありがたいな、と思って。」
少し切ないような思い出をポツポツと話して、それそれが物思いに耽っていると、車はだいぶ郊外に出てきた。
「ちょっと水でも買って行きますか。」
ガソリンスタンドを見つけた譲治は依子に言う。
「あ、そう言えば、今更ですが私ほんとに気が利かないヤツなんで、何かご要望とかあったら、ご遠慮なくすぐ言ってくださいね。
ハッキリ言ってもらわないと、わからないダメな人間なんです。」
車を降りて売店まで歩きながら譲治は続ける。
「はっきり言ってもらって気を悪くするとか激昂するってことはないんで安心してください。ぼんやりした人間なんで。」
「お気遣いありがとうございます。」
依子は笑いながら言う。
「なんとなくわかってますけどね。私もそうですし、おあいこです。」
「いやいや、小石川さんはいつもすごく気を回してくれるじゃないですか。」
「とんでもない~。私めちゃくちゃ空気読めない系ですよ。
気を回してるように見えるのは、そうしないと、あらゆる場面で人間関係が破綻しちゃうんで、先回りして予防線張ってるだけです。」
あははは、と譲治が大きく笑ってくれて、依子はうれしくなった。
車窓の外の景色は、田園風景が続き、だんだんと緑や丘が増えてくる。
そろそろ到着というところ。
「最初はまずヘレンドの工房に行って、見られる施設をざっと見ましょう。
それから最寄り駅のアクセスを一応見て。」
譲治は予定をおさらいする。
依子は聞いた。
「そう言えば、私はぜひ来たかった所ですし、ご一緒できて大変楽しいですけど、田中さんはお一人の方が気が楽だったのでは? いまさらですけど。」
譲治がいつもの飄々とした口調で説明する。
「いや、全然。
この前も言いましたけど、小石川さんだとあまり緊張しないので大丈夫です。
あと、白状しますが、ヘレンド工房に併設されているカフェあるでしょう。あそこで、実際の食器でお茶がいただける、というので体験したかったんですが、どう考えてもおっさんが高級食器でアフタヌーンティーをいただく、という図が似つかわしくないなあ、と思いまして。
どうしても気後れしちゃうので、小石川さんに同伴いただきたいと。」
「なるほどなるほど!そういうことなら納得です。二人で入れば怖くないですもんね。」
依子は声をあげて笑うとそう言った。
ーーー
ヘレンド工房はしっかり観光向けにできているようで、広い敷地内に、工房、体験室、ショップ、カフェが併設されて、たっぷり楽しめるようになっていた。
工房を見学しながら実際に使われてきた古い設備や資料、過去のラインナップも総浚いすることができる。
ファンにとってはたまらん施設だろう、と譲治は思った。
それほど高級食器などに興味のない譲治にとっても、実際の整形や絵付け、釜入れなどの様子は、大変興味深く面白かった。
依子の様子を見ると、頬は上気し目をキラキラさせて夢中のようである。季節が良いこともあって、他の見学者もたくさんいた。
たっぷりと施設内を見学した後、お目当てのカフェでティータイムと洒落込む。
「いや~うれしい。このカップでお茶飲んでみたかったんですよ。
自分でこんなにいろんな種類は持てませんからね。」
依子もうれしそうだ。
「ふむ。
普段使ってるやっすいマグカップとあんまり感触が違うので、なんか手の中で壊しちゃいそうですね。」
譲治は恐る恐る飲んでいる。
「たしかに。軽いし卵の殻みたいですよね。
物理的には実際は磁器って硬いから思ってるより丈夫ですけどね。
普段使いの陶器の方が脆くて、どんどん欠けちゃいますよ。」
依子はしげしげと模様を見ながら指でなぞっている。
選んだのは、フォーシーズンというシリーズで、水彩画のような青地にハンガリーの草花が繊細に描かれていた。
譲治の選んだのは、依子が好きだと言ったアポニーシリーズのブルーである。
「しかしまあ、味は普通においしい高級紅茶の味ですね。」
冷静にコメントした依子が面白かった。
2人とも大満足して、施設を後にする。
その足で最寄り駅まで行って周辺の様子を見てみた。
小さなコンクリート製の駅舎で若干寂しい。
「駅前はやっぱりちょっと不便そうですね。
着いた人はみなさん車を手配してるか、ツアーみたいだし。」
依子が見渡して言う。
駅舎の中も見学してみる。
「今時刻表見てるんですが、めちゃくちゃ本数が少ないですね。
ヘレンドにもツアーの案内パンフがありましたし、ツアー会社と提携しているんでしょう。」
壁の時刻表を見ながら譲治が言う。
「でもこういう辺鄙なところにバックパック一つで旅に出るの楽しいですよね。スリルあって。
自分の突破力を試すというか、適応力を高めるためというか。」
また旅に出たいなあ、と言いながらホームの方へ出て行った。
譲治も後を追う。
「田中さんもドライブお好きなら、車中泊とかしますか?」
依子が聞く。
「まあ、そうですね。1人だと気兼ねしなくていいから。
小石川さんもそういうのお好きなんですね。意外とタフなんですね。」
譲治は、依子の小柄な見た目からイメージできない逞しさにちょっと驚いた。
「ええ。非日常を体験しに行くんでね。
駅とか空港でごろ寝とか全然平気。
日本にいた時は、車でイベント出店しに行って車中泊もよくしました。
とにかく安いのがいいですよね~。まあ治安がいい場合に限りですけれど。」
依子はベンチの背をなんとなく撫でながら言う。
ひとしきり見回って車に戻りながら、適当なところがあったら入って昼食にしようということになった。
ヘレンド村は、ヘレンド工房以外ほとんど何もないので、村のほとんど唯一の食堂を運良く見つけて、そこに入った。
木の柱と漆喰の白壁が、昔ながらの農家という見た目でアットホームな雰囲気だった。
中に入ると、内装も田舎の食堂で、使い込んだ木製の家具が優しい光を出している。
恰幅の良い女将さんらしき人に促され窓際のテーブルに着く。
どのテーブルも赤と白のチェックのテーブルクロスがかわいらしい。
格子窓から柔らかい陽射しが差している。
使い込んだメニューを見る。
「あっ、ハラースレーがある! これにしよ。決まり!」
依子が何やらうれしそうだ。
「私は魚のフライにしようかな。 何かお好みのものがありましたか?」
譲治が聞いてくる。
「25年前に初めてハンガリーに来た時、バスツアーでランチした場所で、ナマズのスープが出たんですよ。
辛くない真っ赤なパプリカのスープなんですけど、なんと具がナマズで。
意外な美味しさで。思い出込みでなんだか美味しかったな、と。
また食べてみたかったんです。」
依子は説明してくれる。
「ナマズですか?」
譲治はびっくりした。
「ええ。けっこう泥臭いんですけどね。私わりと平気なんですよ。鯉とかどじょうも好きなんです。」
そうして依子は店員を呼んで注文をお願いした。
しばらくして食事が届く。
どちらも美味しそうだ。
譲治は、湯気を立てている依子のシチューに目をやる。
「ちょっと味見してみます? 食べたことないでしょ?」
依子がそう言ってニコニコと譲治に勧める。
「正直言ってすごく興味はありますね。」
譲治は素直に申し出を受けることにした。
「まだ私は手をつけてませんから。どうぞご遠慮なく。ちょっとお行儀悪いけど。」
そう言って依子はシチュー壺を皿ごと譲治の方へ押した。
欧米では皿を交換しながらシェアする、という行為がテーブルマナーとしてはあまり良くないとされているので、本来なら料理が届く前に厨房で分けて欲しい旨をお願いするのだが、この店の店員さんは英語が通じなかった。
注文は指差しで済ませていたのである。
譲治も店員が見ていないのを確認して、ササっとひと匙もらった。
「あ~なるほど。これは川魚ならではの風味ですね。
私もそんなに苦手ではないです。」
依子は、良かった、と言って帰ってきたシチューを、添えられたパンと一緒に食べ始めた。
「私もどじょう鍋は食べたことありますよ。浅草の。あれは美味しかった。」
譲治が思い出して言った。
「ああ!もしかして駒形どじょうですか?
私も昔何度も行きました。おいしいですよね~!」
「大量に入れるごぼうとネギがたまらないですよね。店内の雰囲気もいいし。」
共通の経験に喜びながら、うららかな春のランチタイムを過ごした。
ーーー
落ち着いた遅めのランチを終え、バラトン湖も見てから帰ろう、ということになって、車に戻る。
車で湖周辺の街をしばらく流して、とあるビューポイントで車を停めた。
水色の湖水の色を堪能する。
シーズン中の周辺の街は賑やかで、新緑が美しく、おとぎばなしに出てくるような雰囲気だった。
「バラトン湖近くにワインで有名なエリアがあるらしいですね。」
譲治が口を開く。
「ああ、そうらしいですね。
ワイナリー巡りもしたいなあ。そう言えばこの前『さくら』の斉藤さんも言ってたかな。」
「小石川さんはお酒はあまり興味ないですか?」
譲治が聞く。
「いえいえ、大好きですよ。好きなんですけど、弱いんであまり飲めなくて。元々胃腸があんまり丈夫じゃないので、美味しいものたくさん飲んだり食べたり、羨ましいなあ~って思います。」
依子が答える。
「と言いつつ、痩せはしないんですよね、これが。
だから、自重筋トレとかしてささやかながら重力に抵抗してます。」
「私も老いに抗ってなんとかジョギングと筋トレとしてますよ。
あ、先日やっと王宮の丘に登って、ついでに動画も撮ってきました。
夕方だったんですが、砦からの景色が本当にきれいだった。
夕暮れから夜に変わる時間を狙って行ったんですが、素晴らしかったです。」
譲治が珍しく饒舌に話してくれる。
「小石川さんに言われたように、行って良かったです。
もっと早く行っておけば良かった。今度は昼間に行って、水面が光るドナウの流れをみたいですね。」
そんな譲治の話を聞いて、依子は、自分の言ったことを気に留めていてくれたんだ、とうれしかった。
「帰る頃には暗くなっていたんですが、途中の回廊でバイオリン弾きのおじさんがいました。
なんだか哀愁のあるメロディで、ちょっと心打たれました。」
譲治はあの時の、街灯に浮かび上がるハンチングのバイオリン弾きを思い出して言う。
「ああ、私も何度か見ました。すごく雰囲気ありますよね。切ない感じで。」
依子も何度か見たバイオリン弾きを思い出した。
どうやら夕方以降にいる常連らしい。
「さて、では戻りますか。」
譲治が言って、2人は車へ戻った。
ーーー
帰りの車中は静かだった。と言っても気まずいわけではない。
久しぶりに紫外線に一日中当たり、心地よく疲れたのもある。
それに、会話はなくとも、隣に穏やかに過ごせる人がいる、という心地よさに浸っていたのだ。
信号待ちで、ふと依子が隣の譲治の様子を見ると、譲治も気づいて依子を見る。あるいは、依子がふと視線を感じて譲治を見ると、なんとなくこちらを見ていた譲治と目が合う。
目が合うとお互いにこっと小さく微笑む。
そんなことがあって、2人ともそれぞれ、それだけでなんだか温かな気持ちになった。
街に徐々に灯が入り、夕闇迫るブダペストに戻ってきた。
譲治はまた依子のアパート前まで送ってくれた。
「この後レンタカーを返さないといけないですよね。
ご一緒しなくて申し訳ありません。お疲れなのに甘えっぱなしで。」
一応一緒に車を降りてくれた譲治に依子が言う。
「とんでもない。仕事ですし。
貴重な一日を割いていただいて、お礼を言うのはこちらです。おつかれさまでした。」
譲治がぺこりと頭を下げる。
「お疲れ様でした。」
依子も深々と礼をした。
譲治は再び車に乗り、ウインドウを開けて言った。
「それじゃおやすみなさい。」
依子も、おやすみなさい、と言って小さく手を振った。
それを見た譲治は車を動かして、帰って行った。
依子は、小さく上げた手を下ろすのを忘れたまま、車が見えなくなるまで見送って、アパートへ入る。
自分の部屋に至る階段をゆっくり登りながら、今日一日一緒だった譲治の顔や声が思い浮かんだ。
久しぶりに、寂しくない一日で、心がとても温かかった。
でも、と同時に切ないような怖いような気になる。
一人で、異国の地で、がんばらねばならないのに、誰かと一緒にいる心地良さに慣れちゃいけないな、と思った。
でも、人間は良くも悪くも慣れる生き物。
心地良さに慣れるのはあっという間だけど、孤独に慣れることだってそんなに難しくない。
大丈夫。私は大丈夫。今までだって一人でやってきたんだから。
今日の思い出を、ひとときの安らぎとして胸にしまい一度鍵をかける。
そしてまた一人の生活への鍵の方を開けたのだった。
前もって聞いていた依子のアパート下で、譲治はレンタカーを停めた。と、着きましたのLINEをする間もなく、戸口から依子が出てくる。
運転席の窓を覗き込む。
譲治はウインドウを下げた。
「おはようございます。後ろでも前でも、お好きな方で。」
「おはようございます!上から見えました。前でいいですか。後ろに座ると景色が見えなくて、ちょっと酔いやすいんです。」
依子が助手席に座りながら言った。
早速目的地へ向かう。
ヘレンド村は、ブダペスト近郊で大変有名なリゾート観光地、バラトン湖の近くにある。
村に行くついでに、時間があれば景勝地観光もしよう、ということにしている。
バラトン湖までは幹線道路をほぼ真っ直ぐに2時間ほど。遠すぎず、わかりやすく、人気の観光地だが、車がないとなかなか行きづらい。
車窓を眺めながら、お互い気ままにポツポツと話をする。
「電車の旅というのも魅力的ではありますけど、着いた先の駅からどうにもならないみたいなんですよね。
流しのタクシーはないしチャーターしないといけない。
観光客なんかはツアーバスに申し込んで、ブダペスト間を往復するのが一般的みたい。」
依子は言う。
「私は車の運転好きですけど、のんびり電車の旅っていうのもゆっくりやってみたいもんですね。」
譲治も言う。
「バラトン湖は以前にも来たことがあるんですっけ?」
譲治が尋ねる。
「そうなんですよ。そもそもハンガリーは2回来たことがあって、1回目の時は湖畔のお城みたいなホテル。
地下に温泉があって、周りは紅葉の美しい森に囲まれてて。
もう25年前だから記憶が朧ですけど。
2回目は10年前。この時はバラトンアルマーディっていう街に友人と滞在しました。
25年前は晩秋だし、2回目は2月の一番寒い時だし、私の中でハンガリーは寒くて凍てつく国っていうイメージです。」
依子は続けて思い出を語る。
「すごいんですよ。
バラトン湖が全面ガッチガチに凍ってるんです。
湖岸なんか水を被って、地面はもちろん街灯もベンチも街路樹も全部氷の彫刻状態で。
普通の住宅地の路面も全部凍ってるし、坂の多いところなのに、みんなどうやって歩いたり運転してるのか。
まあ、人気があんまりなかったですけどね。シーズンオフだから。」
身振り手振りで広い湖面が凍りつく様子を示している。
「でも静かで美しかった。雪と氷の街を友人とたくさん歩きました。
いろんな話しながら。丘の上までトレッキングして。
そこから見た、凍りついたバラトン湖の景色、一生忘れません。」
遠くを見るような眼差しで、依子がかすかに微笑む。
譲治もシーズンオフの凍りついた街というのに興味を惹かれた。
「それは、私も行ってみたいですね。人混み苦手だから、シーズンオフの方がむしろゆっくりできるかも。」
「でもめっちゃくちゃ寒いですよ。」
依子が笑いながら言った。
「そのご友人というのは、この前言ってらした昔からのペンパルさんですか。」
譲治は、依子の経歴がいまいち謎でさらに聞いてみる。
「ペンパルというか、元々父親同士が仕事仲間で、彼女のお父さんが日本に出張に来た時に一緒に来たんです。
それ以来友人で、年末年始のグリーティングカードを交わす感じで。
私は英語苦手だし、向こうは筆不精だし、でそんなにべったりという関係ではなかったんですけど。」
それから依子の声の調子がちょっと沈む。
「実は彼女も同じようなタイミングで結婚して、同じタイミングで離婚したんですよね、しかも旦那のDVで。
私よりもっとひどい被害受けてたみたいです。
私が、これこれこうでさ、なんてメールしたら、実は私もだよ、みたいな話になって、これはもう、行くしかない!となって、すぐ激安航空チケット取って、カロリンの所へ飛びました。」
あ、カロリン、って名前です。彼女、そう依子は付け加えた。
「そういうことあるんですね。不思議な縁なんですね。」
譲治も静かに話す。
「ほんとにね。その滞在の間、私は適当に安宿探すつもりだったんですけど、自分のアパートに泊まってよ、って全部面倒見てくれました。
彼女のアパートの一室を借りて、毎朝一緒にパンとチーズをかじって、毎晩トカイワイン飲みながら、他愛もないおしゃべりして。
辛かったこともたくさん吐き出し合いました。
そういえばいろんなお友達や兄弟にも合わせてもらったなあ。
私あんまり英語喋れないけど、彼女はそういうの全然気にしてないように、ゆっくり会話に付き合ってくれました。」
依子の声が少し震えている。
「すごく良い経験できて素晴らしかったんですけど、あのカロリンとの旅のこと思い出すと、なんか楽しかった気持ちと同時にとても胸が切なくなっちゃって。」
「カロリンは数学の教師で頭いい子なんですよ。
でも、ちょっと不器用なところがあって、やっぱり人間関係に苦労するのかな。
離婚してから心の調子があんまり安定しなくて。
彼氏ができてもどうもうまくいかなくて長続きしないみたい。
本当にいい子なんですよ。大らかで優しくてちょっと天然ちゃんで。
絶対に彼女のいい所をわかってくれる、いいパートナーがいるはずなんだけど。」
「そのカロリンさんも、小石川さんにそんな風に思ってもらってて、幸せなんじゃないですか? そういう関係性が羨ましい。」
譲治は素直にそう思った。
「ハンガリーに移住した時もとても喜んでくれました。
そんなにしょっちゅう会ってるわけじゃないんですけど。
私も彼女に頼りたいわけじゃなくて、頭のどこかで気にしてくれてる、くらいの距離感が、ありがたいな、と思って。」
少し切ないような思い出をポツポツと話して、それそれが物思いに耽っていると、車はだいぶ郊外に出てきた。
「ちょっと水でも買って行きますか。」
ガソリンスタンドを見つけた譲治は依子に言う。
「あ、そう言えば、今更ですが私ほんとに気が利かないヤツなんで、何かご要望とかあったら、ご遠慮なくすぐ言ってくださいね。
ハッキリ言ってもらわないと、わからないダメな人間なんです。」
車を降りて売店まで歩きながら譲治は続ける。
「はっきり言ってもらって気を悪くするとか激昂するってことはないんで安心してください。ぼんやりした人間なんで。」
「お気遣いありがとうございます。」
依子は笑いながら言う。
「なんとなくわかってますけどね。私もそうですし、おあいこです。」
「いやいや、小石川さんはいつもすごく気を回してくれるじゃないですか。」
「とんでもない~。私めちゃくちゃ空気読めない系ですよ。
気を回してるように見えるのは、そうしないと、あらゆる場面で人間関係が破綻しちゃうんで、先回りして予防線張ってるだけです。」
あははは、と譲治が大きく笑ってくれて、依子はうれしくなった。
車窓の外の景色は、田園風景が続き、だんだんと緑や丘が増えてくる。
そろそろ到着というところ。
「最初はまずヘレンドの工房に行って、見られる施設をざっと見ましょう。
それから最寄り駅のアクセスを一応見て。」
譲治は予定をおさらいする。
依子は聞いた。
「そう言えば、私はぜひ来たかった所ですし、ご一緒できて大変楽しいですけど、田中さんはお一人の方が気が楽だったのでは? いまさらですけど。」
譲治がいつもの飄々とした口調で説明する。
「いや、全然。
この前も言いましたけど、小石川さんだとあまり緊張しないので大丈夫です。
あと、白状しますが、ヘレンド工房に併設されているカフェあるでしょう。あそこで、実際の食器でお茶がいただける、というので体験したかったんですが、どう考えてもおっさんが高級食器でアフタヌーンティーをいただく、という図が似つかわしくないなあ、と思いまして。
どうしても気後れしちゃうので、小石川さんに同伴いただきたいと。」
「なるほどなるほど!そういうことなら納得です。二人で入れば怖くないですもんね。」
依子は声をあげて笑うとそう言った。
ーーー
ヘレンド工房はしっかり観光向けにできているようで、広い敷地内に、工房、体験室、ショップ、カフェが併設されて、たっぷり楽しめるようになっていた。
工房を見学しながら実際に使われてきた古い設備や資料、過去のラインナップも総浚いすることができる。
ファンにとってはたまらん施設だろう、と譲治は思った。
それほど高級食器などに興味のない譲治にとっても、実際の整形や絵付け、釜入れなどの様子は、大変興味深く面白かった。
依子の様子を見ると、頬は上気し目をキラキラさせて夢中のようである。季節が良いこともあって、他の見学者もたくさんいた。
たっぷりと施設内を見学した後、お目当てのカフェでティータイムと洒落込む。
「いや~うれしい。このカップでお茶飲んでみたかったんですよ。
自分でこんなにいろんな種類は持てませんからね。」
依子もうれしそうだ。
「ふむ。
普段使ってるやっすいマグカップとあんまり感触が違うので、なんか手の中で壊しちゃいそうですね。」
譲治は恐る恐る飲んでいる。
「たしかに。軽いし卵の殻みたいですよね。
物理的には実際は磁器って硬いから思ってるより丈夫ですけどね。
普段使いの陶器の方が脆くて、どんどん欠けちゃいますよ。」
依子はしげしげと模様を見ながら指でなぞっている。
選んだのは、フォーシーズンというシリーズで、水彩画のような青地にハンガリーの草花が繊細に描かれていた。
譲治の選んだのは、依子が好きだと言ったアポニーシリーズのブルーである。
「しかしまあ、味は普通においしい高級紅茶の味ですね。」
冷静にコメントした依子が面白かった。
2人とも大満足して、施設を後にする。
その足で最寄り駅まで行って周辺の様子を見てみた。
小さなコンクリート製の駅舎で若干寂しい。
「駅前はやっぱりちょっと不便そうですね。
着いた人はみなさん車を手配してるか、ツアーみたいだし。」
依子が見渡して言う。
駅舎の中も見学してみる。
「今時刻表見てるんですが、めちゃくちゃ本数が少ないですね。
ヘレンドにもツアーの案内パンフがありましたし、ツアー会社と提携しているんでしょう。」
壁の時刻表を見ながら譲治が言う。
「でもこういう辺鄙なところにバックパック一つで旅に出るの楽しいですよね。スリルあって。
自分の突破力を試すというか、適応力を高めるためというか。」
また旅に出たいなあ、と言いながらホームの方へ出て行った。
譲治も後を追う。
「田中さんもドライブお好きなら、車中泊とかしますか?」
依子が聞く。
「まあ、そうですね。1人だと気兼ねしなくていいから。
小石川さんもそういうのお好きなんですね。意外とタフなんですね。」
譲治は、依子の小柄な見た目からイメージできない逞しさにちょっと驚いた。
「ええ。非日常を体験しに行くんでね。
駅とか空港でごろ寝とか全然平気。
日本にいた時は、車でイベント出店しに行って車中泊もよくしました。
とにかく安いのがいいですよね~。まあ治安がいい場合に限りですけれど。」
依子はベンチの背をなんとなく撫でながら言う。
ひとしきり見回って車に戻りながら、適当なところがあったら入って昼食にしようということになった。
ヘレンド村は、ヘレンド工房以外ほとんど何もないので、村のほとんど唯一の食堂を運良く見つけて、そこに入った。
木の柱と漆喰の白壁が、昔ながらの農家という見た目でアットホームな雰囲気だった。
中に入ると、内装も田舎の食堂で、使い込んだ木製の家具が優しい光を出している。
恰幅の良い女将さんらしき人に促され窓際のテーブルに着く。
どのテーブルも赤と白のチェックのテーブルクロスがかわいらしい。
格子窓から柔らかい陽射しが差している。
使い込んだメニューを見る。
「あっ、ハラースレーがある! これにしよ。決まり!」
依子が何やらうれしそうだ。
「私は魚のフライにしようかな。 何かお好みのものがありましたか?」
譲治が聞いてくる。
「25年前に初めてハンガリーに来た時、バスツアーでランチした場所で、ナマズのスープが出たんですよ。
辛くない真っ赤なパプリカのスープなんですけど、なんと具がナマズで。
意外な美味しさで。思い出込みでなんだか美味しかったな、と。
また食べてみたかったんです。」
依子は説明してくれる。
「ナマズですか?」
譲治はびっくりした。
「ええ。けっこう泥臭いんですけどね。私わりと平気なんですよ。鯉とかどじょうも好きなんです。」
そうして依子は店員を呼んで注文をお願いした。
しばらくして食事が届く。
どちらも美味しそうだ。
譲治は、湯気を立てている依子のシチューに目をやる。
「ちょっと味見してみます? 食べたことないでしょ?」
依子がそう言ってニコニコと譲治に勧める。
「正直言ってすごく興味はありますね。」
譲治は素直に申し出を受けることにした。
「まだ私は手をつけてませんから。どうぞご遠慮なく。ちょっとお行儀悪いけど。」
そう言って依子はシチュー壺を皿ごと譲治の方へ押した。
欧米では皿を交換しながらシェアする、という行為がテーブルマナーとしてはあまり良くないとされているので、本来なら料理が届く前に厨房で分けて欲しい旨をお願いするのだが、この店の店員さんは英語が通じなかった。
注文は指差しで済ませていたのである。
譲治も店員が見ていないのを確認して、ササっとひと匙もらった。
「あ~なるほど。これは川魚ならではの風味ですね。
私もそんなに苦手ではないです。」
依子は、良かった、と言って帰ってきたシチューを、添えられたパンと一緒に食べ始めた。
「私もどじょう鍋は食べたことありますよ。浅草の。あれは美味しかった。」
譲治が思い出して言った。
「ああ!もしかして駒形どじょうですか?
私も昔何度も行きました。おいしいですよね~!」
「大量に入れるごぼうとネギがたまらないですよね。店内の雰囲気もいいし。」
共通の経験に喜びながら、うららかな春のランチタイムを過ごした。
ーーー
落ち着いた遅めのランチを終え、バラトン湖も見てから帰ろう、ということになって、車に戻る。
車で湖周辺の街をしばらく流して、とあるビューポイントで車を停めた。
水色の湖水の色を堪能する。
シーズン中の周辺の街は賑やかで、新緑が美しく、おとぎばなしに出てくるような雰囲気だった。
「バラトン湖近くにワインで有名なエリアがあるらしいですね。」
譲治が口を開く。
「ああ、そうらしいですね。
ワイナリー巡りもしたいなあ。そう言えばこの前『さくら』の斉藤さんも言ってたかな。」
「小石川さんはお酒はあまり興味ないですか?」
譲治が聞く。
「いえいえ、大好きですよ。好きなんですけど、弱いんであまり飲めなくて。元々胃腸があんまり丈夫じゃないので、美味しいものたくさん飲んだり食べたり、羨ましいなあ~って思います。」
依子が答える。
「と言いつつ、痩せはしないんですよね、これが。
だから、自重筋トレとかしてささやかながら重力に抵抗してます。」
「私も老いに抗ってなんとかジョギングと筋トレとしてますよ。
あ、先日やっと王宮の丘に登って、ついでに動画も撮ってきました。
夕方だったんですが、砦からの景色が本当にきれいだった。
夕暮れから夜に変わる時間を狙って行ったんですが、素晴らしかったです。」
譲治が珍しく饒舌に話してくれる。
「小石川さんに言われたように、行って良かったです。
もっと早く行っておけば良かった。今度は昼間に行って、水面が光るドナウの流れをみたいですね。」
そんな譲治の話を聞いて、依子は、自分の言ったことを気に留めていてくれたんだ、とうれしかった。
「帰る頃には暗くなっていたんですが、途中の回廊でバイオリン弾きのおじさんがいました。
なんだか哀愁のあるメロディで、ちょっと心打たれました。」
譲治はあの時の、街灯に浮かび上がるハンチングのバイオリン弾きを思い出して言う。
「ああ、私も何度か見ました。すごく雰囲気ありますよね。切ない感じで。」
依子も何度か見たバイオリン弾きを思い出した。
どうやら夕方以降にいる常連らしい。
「さて、では戻りますか。」
譲治が言って、2人は車へ戻った。
ーーー
帰りの車中は静かだった。と言っても気まずいわけではない。
久しぶりに紫外線に一日中当たり、心地よく疲れたのもある。
それに、会話はなくとも、隣に穏やかに過ごせる人がいる、という心地よさに浸っていたのだ。
信号待ちで、ふと依子が隣の譲治の様子を見ると、譲治も気づいて依子を見る。あるいは、依子がふと視線を感じて譲治を見ると、なんとなくこちらを見ていた譲治と目が合う。
目が合うとお互いにこっと小さく微笑む。
そんなことがあって、2人ともそれぞれ、それだけでなんだか温かな気持ちになった。
街に徐々に灯が入り、夕闇迫るブダペストに戻ってきた。
譲治はまた依子のアパート前まで送ってくれた。
「この後レンタカーを返さないといけないですよね。
ご一緒しなくて申し訳ありません。お疲れなのに甘えっぱなしで。」
一応一緒に車を降りてくれた譲治に依子が言う。
「とんでもない。仕事ですし。
貴重な一日を割いていただいて、お礼を言うのはこちらです。おつかれさまでした。」
譲治がぺこりと頭を下げる。
「お疲れ様でした。」
依子も深々と礼をした。
譲治は再び車に乗り、ウインドウを開けて言った。
「それじゃおやすみなさい。」
依子も、おやすみなさい、と言って小さく手を振った。
それを見た譲治は車を動かして、帰って行った。
依子は、小さく上げた手を下ろすのを忘れたまま、車が見えなくなるまで見送って、アパートへ入る。
自分の部屋に至る階段をゆっくり登りながら、今日一日一緒だった譲治の顔や声が思い浮かんだ。
久しぶりに、寂しくない一日で、心がとても温かかった。
でも、と同時に切ないような怖いような気になる。
一人で、異国の地で、がんばらねばならないのに、誰かと一緒にいる心地良さに慣れちゃいけないな、と思った。
でも、人間は良くも悪くも慣れる生き物。
心地良さに慣れるのはあっという間だけど、孤独に慣れることだってそんなに難しくない。
大丈夫。私は大丈夫。今までだって一人でやってきたんだから。
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そしてまた一人の生活への鍵の方を開けたのだった。
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