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25 ーベーグルと初夏の散歩ー
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譲治は、賑やかだった石井家を無事に見送って、やっと一息ついた。
ひたすら在宅ワークに精を出す変化のない淡々とした日常が戻ってきた。
6月に入ってからは、急に季節が進んだようである。
先日まで新緑が爽やかで美しいと思っていた街路や公園は、どんどん緑が深くなり、そろそろ初夏の装いである。
淡々とした日常生活が戻るのはありがたい。
刺激的な、どこかふわふわと地に足のつかないような生活が続くのは性に合わない。刺激もたまにあるからこそ楽しいのだ。
そうは思いつつも、先月は頻繁に会っていた依子のことが頭に浮かぶ。
いざ必要がなくなると寂しいものだ。
かと言って賑やかすぎる石井家のメンツみたいなノリだと疲れる。
我ながら贅沢なもんだよな。と自嘲しつつ、小石川さんに連絡してみよう、と思い立った。
譲治は昼休みにLINEを送ってみる。
「こんにちは。お変わりありませんか。先だってはいろいろお世話になりました。」
ぽちぽちぽち、と考え考え文章を打つ。
「お礼かたがたお昼でもいかがですか。」
どこがいいかな、とこれまで行った所を掘り起こしてみるが、そもそも全然自分では出かけないので思いつかない。
考えながら、今日の昼ごはんを用意する。
買っておいた日持ちする黒パンを数切れと、いつも作り置きしている茹で野菜サラダと、コーヒー。
皿に盛っていると、シュポッと着信音がした。
「田中さんもその後お元気ですか。お誘いありがとうございます。
とてもうれしいのですが、今ちょっと立て込んでまして、来週でもよければ。」
依子からだ。
譲治は少し意外だった。
いつも、依子自身が言うように、自由業ですぐ予定を空けられるので、じゃあ、明日、とかあさってとか、すぐに会えるかと思っていたのだ。
意外だ、というより、がっかりしたというのが本当のところかもしれない。
譲治はそう気づいた。
「お忙しいのに申し訳ありません。ご都合良い日時があれば、お知らせください。ついでに場所や食べたい物のご希望も。」
譲治は返す。
譲治が簡単な昼ごはんを食べ終わった頃に返事が来た。
いつもはワンツーで返信が来るので、本当にバタバタしているのだろう。
「来週火曜日のランチでいかがですか。
ちょっと気分転換したい気分なので、テイクアウトして散歩しながら、とかどうですか?」
「散歩いいですね。私も少し歩きたいです。」
譲治が返す。
「それじゃ、鎖橋の入口に11時集合で、もし雨だったら直前変更しましょう。」
依子が指定してきた。
「了解です」
譲治が返信。
依子から締めのスタンプ。
それじゃもう1週間がんばりますか。
少しばかり寂しさも感じながら、再び譲治は仕事に戻るのだった。
ーーー
依子はこの頃、季節が良くなってきたと共に、案件が重なり始めて、久しぶりにバタついていた。
5月中に譲治の手伝いで自分の仕事を薄くしていたツケがまわってきている。
もっとも、なぜか仕事というのは波があって、固まる時は固まるし、暇な時はめちゃくちゃ暇なのである。
まず日本のお得意さんから、小物と絵はがきの注文が入っているので急いで数を揃えないといけない。
それから、個展に来てくれた日本人協会の職員の方からのミニ講座の話、加えて、7月末のイベント出店の準備。
そして自主制作。
週末はバイトだから、とにかく体調を崩さないように自己管理できるか、という点がハラハラしている。
全然大丈夫なはずの作業量だと思っても四十肩がきたり、ギックリ腰がきたり、お腹壊したり、理由不明の倦怠感で起きられなかったり。
そういうお年頃なのが切ない。
更年期の入口に差し掛かってもいるのである。
そんな不調に、当初は苛立ち情けなく、自分の怠惰さにうんざりしていたのだが、いい加減諦めはついている。
これが加齢なんだから、自分の体を受け入れるしかない。
さっき、譲治からLINEが入って、お散歩ランチしましょう、ということになった。
とてもうれしいのではあるが、あと1カ月半、7月末までは突っ走らねばならないので、あんまり浮ついて集中が途切れないように、気分転換を兼ねての散歩にさせてもらったのだ。
一週間後だから、少しやっていることを整理して気兼ねなく出かけられるようにしとこう。
あ、そうだ、買い物とかもついでにその時でいいか。
心の中で算段する。
とにかく一度引きこもると出不精なので、何か用事で出かけるきっかけを作らないと、冷蔵庫は空になるし生活がギリギリになるのだった。
ーーー
一週間後。鎖橋のたもと。
「こんにちは。」
斜め後ろから声がかかって振り向くと、依子が手を振りながら小走りに向かってくる所だった。
「こんにちは。天気が良くて良かったですね。」
譲治が答える。
「ほんとに! まずお昼ゲットしに行きましょうか。
私ちょっとリクエストがあって。 田中さん何かご希望ありました?」
依子は少し息が上がっている。
「いや、特には。」
譲治が答える。
「ちょっと行った所にベーグル屋さんがあるんですよ。
前通りかかった時にすごく美味しそうで。行ってみてもいいですか?」
「ベーグルいいですね。じゃ行ってみましょう。」
依子と譲治は連れ立って、歩いて2、3分の新しいベーグル屋に向かう。
店内は明るくモダンで、さまざまな具を挟んだベーグルサンドが目にもきれいでおいしそうである。
ああでもないこうでもない、と相談しながら3種類買ってシェアすることにした。
鎖橋を渡って、広場を通り、丘を登る。
ケーブルカーもあるが、歩いても15分程度だから散歩にはちょうどいい。
坂道のせいか、いつもより言葉少なに黙々と歩く。
王宮の丘は今日も観光客でにぎわってはいたが、平日だから混んでいるというほどでもない。
適当な木陰のベンチを見つけて2人は並んで座った。
ベンチの2人の間にさっき買ったものを広げて並べる。
チーズとサーモン、ブルーベリージャムとクリーム、プレーンのゴマとチーズ、それからホットコーヒーと水。
全部半分に切ってもらっているので、一種類ずつ楽しめる。
いただきま~す、と言って依子がかぶりつく。
それを見て譲治も一口。
「うん、おいしい!」
依子は気に入ったようだ。
「ベーグル久しぶりですが、生地本体が美味しいですね。」
譲治も大満足な味だった。
「今日はお誘いいただけてうれしいです。本当いい天気で良かった。すごくリフレッシュしました。」
透明な薄い青の空を仰ぎ見て依子が言う。
譲治は今日最初に会った時からちょっと気になったことを聞いてみた。
「なんだか今日は元気ないですね。疲れてます?
無理に誘ってしまったんじゃ。。」
「いえいえ、ごめんなさいね、ぼーっとしちゃって。
ちょっと最近バタバタしてるので頭がいっぱいなのかな。
だから今日の散歩は一息入れるのにちょうど良かったんですよ、本当に。」
食べおわっていた依子は、着ていたスプリングコートのポケットに手を入れて、長く伸びてベンチに寄りかかる。
「でも口数が少ないのは、しゃべるのが面倒なわけじゃなくて、だんだん田中さんに慣れてきた、というか心許せるようになってきた、というか。」
そして譲治を見て微笑む。
「慣れてない間柄だと、どうしてもたくさんの言葉で空気を埋めようとしちゃうでしょ。
でも、田中さんと一緒だと無理しなくていいというか。会話がなくても気にしないで自然にしててくれる、っていう安心感があるから。」
「それは私もそうですよ。小石川さんは、私が不調法者でも気を悪くしないでいてくれるから。」
譲治も素直に口に出す。
「それはとても光栄です。」
依子は照れ隠しのように、少しおどけた様子で胸に手を当て軽く礼のポーズをした。
「今お忙しい時期なんですか?」
譲治が聞く。
「忙しい時期、というか、なぜか仕事が重なって立て込むタイミングってのがあって、今そうなんですよ。
仕事があるのはありがたいことです。
来月末にね、ジャパンエキスポっていう日本文化を楽しむお祭りがあるんですよ。
『さくら』が飲食で出店しますし、私も和小物の販売で出すんです。
良かったらいらしてくださいね。」
「へえ。楽しそうですね!」
ベンチから立ち上がり、砦のテラスから眺めを見ようと移動することにした。
「やっぱりここからの眺めはいいですね。今日は初夏の陽気でとても明るい。」
依子がしみじみと言う。
「なるほど、ドナウ川が本当にきれいだ。向こうの国会議事堂もすごいし。」
譲治は昼のブダペスト市内一望の景色に感嘆した。
「田中さんの見たのと同じ、夕方の景色も見たいなあ。でも夕方から夜はさすがに一人歩きできないかな。」
依子が寂しそうに言うので、譲治は思わず言ってしまう。
「私がお供しますよ。ボディガード代わりに。」
「ありがとうございます。 田中さんは優しいですよね。穏やかだし。」
手すりに両腕と顎を乗せて景色を見ていた依子がそのまま譲治に視線を向けてふわっと笑った。
「そうですかね。気が利かなくてダメな奴なんですが。」
譲治はぽりぽりと顎を掻く。
「うん。優しいですよ~。自信持って。気が利かなくても、ちゃんと気を遣ってくれてる、ってのはよく伝わってます。」
「それは小石川さんが汲み取ってくれるからじゃないですか。
たいていの人は、なんかぶっきらぼうな奴だ、って感じであんまり親しくなれないですから。」
「まあ、私も似たとこあるからかな~。
そつなく社交的な大人でいるのってけっこう難しいですよね。
マイペースな人間だから。」
依子は真っ直ぐ立ち上がって、帰りましょうか、と言った。
そんなことをポツポツ話しながら、ぶらぶらと丘を下って帰ることにする。
前に来た時にバイオリン弾きに出会った回廊に差し掛かった。
「あ、ここですよ。前にバイオリン弾きのおじさんに会ったの。」
譲治は思い出して言う。
「今度は一緒に来ましょう。」
そうですね、とうれしそうに依子は言った。
ひたすら在宅ワークに精を出す変化のない淡々とした日常が戻ってきた。
6月に入ってからは、急に季節が進んだようである。
先日まで新緑が爽やかで美しいと思っていた街路や公園は、どんどん緑が深くなり、そろそろ初夏の装いである。
淡々とした日常生活が戻るのはありがたい。
刺激的な、どこかふわふわと地に足のつかないような生活が続くのは性に合わない。刺激もたまにあるからこそ楽しいのだ。
そうは思いつつも、先月は頻繁に会っていた依子のことが頭に浮かぶ。
いざ必要がなくなると寂しいものだ。
かと言って賑やかすぎる石井家のメンツみたいなノリだと疲れる。
我ながら贅沢なもんだよな。と自嘲しつつ、小石川さんに連絡してみよう、と思い立った。
譲治は昼休みにLINEを送ってみる。
「こんにちは。お変わりありませんか。先だってはいろいろお世話になりました。」
ぽちぽちぽち、と考え考え文章を打つ。
「お礼かたがたお昼でもいかがですか。」
どこがいいかな、とこれまで行った所を掘り起こしてみるが、そもそも全然自分では出かけないので思いつかない。
考えながら、今日の昼ごはんを用意する。
買っておいた日持ちする黒パンを数切れと、いつも作り置きしている茹で野菜サラダと、コーヒー。
皿に盛っていると、シュポッと着信音がした。
「田中さんもその後お元気ですか。お誘いありがとうございます。
とてもうれしいのですが、今ちょっと立て込んでまして、来週でもよければ。」
依子からだ。
譲治は少し意外だった。
いつも、依子自身が言うように、自由業ですぐ予定を空けられるので、じゃあ、明日、とかあさってとか、すぐに会えるかと思っていたのだ。
意外だ、というより、がっかりしたというのが本当のところかもしれない。
譲治はそう気づいた。
「お忙しいのに申し訳ありません。ご都合良い日時があれば、お知らせください。ついでに場所や食べたい物のご希望も。」
譲治は返す。
譲治が簡単な昼ごはんを食べ終わった頃に返事が来た。
いつもはワンツーで返信が来るので、本当にバタバタしているのだろう。
「来週火曜日のランチでいかがですか。
ちょっと気分転換したい気分なので、テイクアウトして散歩しながら、とかどうですか?」
「散歩いいですね。私も少し歩きたいです。」
譲治が返す。
「それじゃ、鎖橋の入口に11時集合で、もし雨だったら直前変更しましょう。」
依子が指定してきた。
「了解です」
譲治が返信。
依子から締めのスタンプ。
それじゃもう1週間がんばりますか。
少しばかり寂しさも感じながら、再び譲治は仕事に戻るのだった。
ーーー
依子はこの頃、季節が良くなってきたと共に、案件が重なり始めて、久しぶりにバタついていた。
5月中に譲治の手伝いで自分の仕事を薄くしていたツケがまわってきている。
もっとも、なぜか仕事というのは波があって、固まる時は固まるし、暇な時はめちゃくちゃ暇なのである。
まず日本のお得意さんから、小物と絵はがきの注文が入っているので急いで数を揃えないといけない。
それから、個展に来てくれた日本人協会の職員の方からのミニ講座の話、加えて、7月末のイベント出店の準備。
そして自主制作。
週末はバイトだから、とにかく体調を崩さないように自己管理できるか、という点がハラハラしている。
全然大丈夫なはずの作業量だと思っても四十肩がきたり、ギックリ腰がきたり、お腹壊したり、理由不明の倦怠感で起きられなかったり。
そういうお年頃なのが切ない。
更年期の入口に差し掛かってもいるのである。
そんな不調に、当初は苛立ち情けなく、自分の怠惰さにうんざりしていたのだが、いい加減諦めはついている。
これが加齢なんだから、自分の体を受け入れるしかない。
さっき、譲治からLINEが入って、お散歩ランチしましょう、ということになった。
とてもうれしいのではあるが、あと1カ月半、7月末までは突っ走らねばならないので、あんまり浮ついて集中が途切れないように、気分転換を兼ねての散歩にさせてもらったのだ。
一週間後だから、少しやっていることを整理して気兼ねなく出かけられるようにしとこう。
あ、そうだ、買い物とかもついでにその時でいいか。
心の中で算段する。
とにかく一度引きこもると出不精なので、何か用事で出かけるきっかけを作らないと、冷蔵庫は空になるし生活がギリギリになるのだった。
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一週間後。鎖橋のたもと。
「こんにちは。」
斜め後ろから声がかかって振り向くと、依子が手を振りながら小走りに向かってくる所だった。
「こんにちは。天気が良くて良かったですね。」
譲治が答える。
「ほんとに! まずお昼ゲットしに行きましょうか。
私ちょっとリクエストがあって。 田中さん何かご希望ありました?」
依子は少し息が上がっている。
「いや、特には。」
譲治が答える。
「ちょっと行った所にベーグル屋さんがあるんですよ。
前通りかかった時にすごく美味しそうで。行ってみてもいいですか?」
「ベーグルいいですね。じゃ行ってみましょう。」
依子と譲治は連れ立って、歩いて2、3分の新しいベーグル屋に向かう。
店内は明るくモダンで、さまざまな具を挟んだベーグルサンドが目にもきれいでおいしそうである。
ああでもないこうでもない、と相談しながら3種類買ってシェアすることにした。
鎖橋を渡って、広場を通り、丘を登る。
ケーブルカーもあるが、歩いても15分程度だから散歩にはちょうどいい。
坂道のせいか、いつもより言葉少なに黙々と歩く。
王宮の丘は今日も観光客でにぎわってはいたが、平日だから混んでいるというほどでもない。
適当な木陰のベンチを見つけて2人は並んで座った。
ベンチの2人の間にさっき買ったものを広げて並べる。
チーズとサーモン、ブルーベリージャムとクリーム、プレーンのゴマとチーズ、それからホットコーヒーと水。
全部半分に切ってもらっているので、一種類ずつ楽しめる。
いただきま~す、と言って依子がかぶりつく。
それを見て譲治も一口。
「うん、おいしい!」
依子は気に入ったようだ。
「ベーグル久しぶりですが、生地本体が美味しいですね。」
譲治も大満足な味だった。
「今日はお誘いいただけてうれしいです。本当いい天気で良かった。すごくリフレッシュしました。」
透明な薄い青の空を仰ぎ見て依子が言う。
譲治は今日最初に会った時からちょっと気になったことを聞いてみた。
「なんだか今日は元気ないですね。疲れてます?
無理に誘ってしまったんじゃ。。」
「いえいえ、ごめんなさいね、ぼーっとしちゃって。
ちょっと最近バタバタしてるので頭がいっぱいなのかな。
だから今日の散歩は一息入れるのにちょうど良かったんですよ、本当に。」
食べおわっていた依子は、着ていたスプリングコートのポケットに手を入れて、長く伸びてベンチに寄りかかる。
「でも口数が少ないのは、しゃべるのが面倒なわけじゃなくて、だんだん田中さんに慣れてきた、というか心許せるようになってきた、というか。」
そして譲治を見て微笑む。
「慣れてない間柄だと、どうしてもたくさんの言葉で空気を埋めようとしちゃうでしょ。
でも、田中さんと一緒だと無理しなくていいというか。会話がなくても気にしないで自然にしててくれる、っていう安心感があるから。」
「それは私もそうですよ。小石川さんは、私が不調法者でも気を悪くしないでいてくれるから。」
譲治も素直に口に出す。
「それはとても光栄です。」
依子は照れ隠しのように、少しおどけた様子で胸に手を当て軽く礼のポーズをした。
「今お忙しい時期なんですか?」
譲治が聞く。
「忙しい時期、というか、なぜか仕事が重なって立て込むタイミングってのがあって、今そうなんですよ。
仕事があるのはありがたいことです。
来月末にね、ジャパンエキスポっていう日本文化を楽しむお祭りがあるんですよ。
『さくら』が飲食で出店しますし、私も和小物の販売で出すんです。
良かったらいらしてくださいね。」
「へえ。楽しそうですね!」
ベンチから立ち上がり、砦のテラスから眺めを見ようと移動することにした。
「やっぱりここからの眺めはいいですね。今日は初夏の陽気でとても明るい。」
依子がしみじみと言う。
「なるほど、ドナウ川が本当にきれいだ。向こうの国会議事堂もすごいし。」
譲治は昼のブダペスト市内一望の景色に感嘆した。
「田中さんの見たのと同じ、夕方の景色も見たいなあ。でも夕方から夜はさすがに一人歩きできないかな。」
依子が寂しそうに言うので、譲治は思わず言ってしまう。
「私がお供しますよ。ボディガード代わりに。」
「ありがとうございます。 田中さんは優しいですよね。穏やかだし。」
手すりに両腕と顎を乗せて景色を見ていた依子がそのまま譲治に視線を向けてふわっと笑った。
「そうですかね。気が利かなくてダメな奴なんですが。」
譲治はぽりぽりと顎を掻く。
「うん。優しいですよ~。自信持って。気が利かなくても、ちゃんと気を遣ってくれてる、ってのはよく伝わってます。」
「それは小石川さんが汲み取ってくれるからじゃないですか。
たいていの人は、なんかぶっきらぼうな奴だ、って感じであんまり親しくなれないですから。」
「まあ、私も似たとこあるからかな~。
そつなく社交的な大人でいるのってけっこう難しいですよね。
マイペースな人間だから。」
依子は真っ直ぐ立ち上がって、帰りましょうか、と言った。
そんなことをポツポツ話しながら、ぶらぶらと丘を下って帰ることにする。
前に来た時にバイオリン弾きに出会った回廊に差し掛かった。
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