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44 ー元日散歩ー
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新年、元日の朝。
というかもう昼近くである。
譲治は、依子からのLINEで飛び起きた。
案の定、昨晩はうれしさと己の中の熱のおかげでなかなか寝付けず、結局明け方近くに寝ついたのだ。
せっかく元旦はまた依子を誘って一緒に過ごそうと思っていたのに。
遅れをとった。
カーテンを開けると、外はすっかり雪景色で真っ白。
朝日に照り輝いていた。
昨晩は細かい雪が降り続いていたが、明けた新年の最初の日は、いい天気である。
空気は相変わらず凍てついているが、それを暖かい朝日が切り拓いていく。
「おはようございます。
新年最初の朝日を一緒に見ませんか。王宮の砦から眺めたいな、と思って。」
依子からである。
「おはようございます。それじゃ、鎖橋のたもと集合でいいですか。」
譲治は返信した。
オッケー、とスタンプが来た。
急いで支度して、アパートを出る。
トラムに乗って集合場所の鎖橋についた。
依子が手を振って出迎える。
「おはよう。昨晩寒くしちゃったけど風邪ひきませんでした?」
「全然。今までにないほど元気です。」
同じことを考える人が大勢いて、けっこう混んでいた。
雪が道路に乗っていたので、足元があまり良くなかったが、丘の上まで登った。
2人で、いつものテラスから街を眺める。
空は薄雲りだったが、雲の中に太陽の白い丸い姿が見え、世界は真っ白に発光しているようだった。
静かに静かに心で祈る。
ずっとこの人が、健康で幸せでありますように。
2人は同時に同じことを思っていた。
周囲に大勢いる来訪者たちも、みな美しい景色を静かに見ていた。
途中、何軒か出ていた屋台で、ホットワインとプレッツェルなどを買ってかじりながら帰る。
「依子さんはお正月休みとかいつもどうしてるんですか?」
「うーん、自営業の作家だから休みは基本的にないのよ。
時間があれば何かやってるかな。あとは普通にバイト。まあ最近はちゃんと休むようにしてるけど。
また譲治くんに迷惑かけちゃいけないものね。」
譲治くん、と呼んでくれたことも、まだぎこちなさがあることも、譲治にはいちいち胸に迫るものがあって、密かに感激していた。
「今日はどこか行きたいとこないですか?」
今日は一日一緒にいたくて、聞いてみた。
「譲治くんはお休みなの? お仕事とか大丈夫?」
「さすがに元日は休みですよ。明日からは通常モードですけど。」
「そっかあ。じゃあね、リクエストしていい?」
「どうぞどうぞ。」
「譲治くんのウチ!」
依子は無邪気に言っている。
「前から興味あったんだけど、仕事場じゃない?
なんか迷惑だろうな、と思って言い出せなくて。」
「はあ、まあいいですよ。でもなんにもないですよ、ほんとに。」
「いいのいいの。
他の在宅ワーカーさんがどんな風に仕事してるのか見たいのよね。」
依子はうれしそうだ。
昨晩、譲治に襲われかけたことを忘れているんだろうか。
こういうところがこの人、危なっかしいんだよな。と、思いつつも、譲治もうれしかった。
たまたま大晦日は珍しく家中掃除したからラッキーだった。
なんにもないんだったら、何かお茶とかお菓子買ってく?と言われて、それもそうだな、ということで、途中のスーパーで、お茶と果物、甘いものなどを少し買って行った。
ーーー
「お邪魔しま~す。」
依子は玄関でブーツを脱ぎ、きちんと揃えてあがった。
「わあ、ちゃんと片付いてるじゃない。」
キョロキョロしている。
「ちょうど大晦日で大掃除した後でラッキーでした。
でなかったら呼んでませんよ。」
依子は窓の方へ行って、閉まっていたカーテンを開けていいかと聞く。
どうぞ、と譲治は言った。
「おお、そっか一階なんですもんね。でも家賃は安めなのよね?」
依子は外の景色を眺めながら言った。
と言っても中層ビルの多い街区の路地側なので、大したものが見えるわけではない。
通りから丸見えになるので基本的に光だけ通す白いカーテンを閉めている。
「まあ、そうですね。
男だからまあいいか、って感じですけど、依子さんは絶対上層階でいてくださいよ。
お茶淹れるので適当に見て回っててください。」
譲治はキッチンに行って電気ケトルでお湯を沸かす。
カップや、お菓子を入れるお皿を探したが、ろくなもんがない、ということに今更気づく。
人が来ることなんて想定していない生活が長かったからだ。
依子さんがこれからも出入りするなら、今度IKEAにでも買い足しに行くか...。現状じゃ気が利かないにもほどがあるな。
仕方ないので、有り合わせのちぐはぐな食器で、ティーバッグの紅茶と、ハンガリーのクリスマスはお正月にはつきものの伝統菓子を出した。
さっきスーパーで買ってきたものだ。
依子は遠慮なくリビング、寝室、洗面所などを覗いて回っていた。
ほんとに何もないということに、妙に関心している。
譲治はリビングにほとんど全ての機能を集めていて、パソコン周りと仕事机だけが唯一と言っていい家具だった。
お茶とお菓子をそちらに持っていこうと思ったところで、はたと気づく。
椅子さえない。
仕事机のワーキングチェアのみだ。
仕方ないので、キッチンカウンターに持って行った。
ワーキングチェアを持ってきて、自分は立ってることにするか。
依子は仕事机のパソコンモニターの脇に飾っていた小箱を見ていた。
譲治が、依子の個展で買ったものだ。
「ずっと飾っててくれたの?」
依子は感激している。
譲治はちょっと恥ずかしくなって頭に手をやって言った。
「母に、とか言ったのは適当だったんです。自分が欲しかっただけ。」
うれしい、と依子は言った。
唯一のチェアに依子を座らせて、譲治はカウンターに寄りかかってお茶を飲む。
「ほんと、ミニマリストも極まってるのね。すごいわ。
私なんかもう、すぐ家中雑多になっちゃって。」
クッキーを食べ終わった依子は感心したように言った。
「いや、依子さんが今日来てくれて、自分の部屋がいかにヤバいか気付きました。
依子さんがいつ来てくれてもいいように、今度椅子とかカップとか買いに行きましょう。」
譲治は申し訳なさそうに言った。
「そんなのいいのに。
だってこういうのがあなたのスタイルでしょ? お金だってかかるし。」
「いや、依子さんにはまた気軽に来て欲しいし、来てくれるからには、心地良く過ごしてほしい。
あなたのためにかけるお金なら全然平気です。」
譲治は優しい。
「うれしいです。でも無理しないでね。」
依子は興味のあった、譲治の仕事の進行の仕方や、区ごとのアパートの家賃相場、街の治安などを聞いたり、2人は雑多な話でしばし盛り上がるのだった。
「ねえ。いつまでも譲治くんを立たせっぱなしも、申し訳ないから私そろそろ帰りますね。十分見学させてもらったし。」
「僕は全然平気ですよ。」
「そういうわけにはいきません。」
依子は脱いでいたコートを手に取る。
「今晩も一緒に過ごしてはいけませんか? 明日からまた仕事始めだし。」
譲治は率直に聞く。
「もちろん大丈夫よ。また夕飯一緒に食べましょ。
じゃあ、ちょうどいいから帰りに食材買っていこうかな。リクエストある?」
依子もうれしそうに答える。
「あなたの作るものならなんでも。」
譲治はにこっとして言った。
「一緒に行ってはだめですか?」
「ダメじゃないけど、今朝ちょっと仕事始めしちゃったから散らかってるの。
お料理も落ち着いてしたいから、夕方また来てくれる?」
依子が言う。
「わかりました。じゃ、また7時くらいで? 僕もちょっと動画編集でもしよう。」
じゃあ、そういうことで、とコートを着ようとする依子を、譲治はちょっとと手招きする。同時に眼鏡を外してカウンターにぽいっと投げる。
「なあに?」
カウンターに寄りかかっていた譲治は目の前に来た依子の腕を捕まえて、開いた足の間に閉じこめた。
「僕の部屋に来といてこのまま帰る、ってことないですよね?」
依子はちょっと目を見開いてびっくりしている。
その頬に手をあてて顔を近づけキスをした。
ついばむように、触れるだけのキスを何度か。それから少し口を開いて舌で依子の唇を舐める。
さっき食べていたクッキーの砂糖らしき甘さが残っている。
そうしているうちに、依子の唇も綻んでくる。依子は両手を譲治の胸において握りしめている。その手を取って、何度も口付ける。指一本一本に、それから手の甲と、返して手首の内側と。
それから譲治は左腕を依子の背中に回してさする。腰まで下ろしてヒップに手当てる。
今日の依子もラフな格好だった。ハイネックのシャツと、ジーンズ。
服の上からでも依子の柔らかな肌が感じられた。
確かに痩せ型ではないが、太っているというほどでもない。右手は首の後ろに当てて、自分が好きな所にキスできるよう依子の姿勢をコントロールする。
依子の頬、あご、耳、首筋。
触れられるところはくまなく唇で探索する。
「んん、譲治くん...」
依子はたまらずため息のような声を出す。
それを聞いて我慢できず、依子の唇を激しく奪った。
お互いの呼吸を飲み込むように、深く、何度も角度を変えて、お互いの口腔内を味わい、舌で探索する。
依子がふらり、と姿勢を崩したので、譲治は体を入れ替えて、依子の背をカウンターに押し付ける。
自分の右手はカウンターの上について、左手で依子の背中を支え、覆い被さるようにして、また依子に深くキスし直した。
依子がまた譲治の名を呼び、軽く胸を叩く。
「ね、ねえ。まだ真っ昼間だよ。」
依子がハアハア言いながら言葉を絞り出す。
「別に構いません。」
「構います! 元日なんだからちゃんとご飯食べて、一年をスタートさせないと!」
依子はちょっと譲治を睨んでいる。
譲治は両手をあげて言う。
「すみません。反省します。」
じゃ、7時ね! と言って依子はそそくさと出て行った。
ぐずぐずしてると押し倒されるとわかったのだろう。
反省するつもりないけどね。
譲治は内心で思った。
というかもう昼近くである。
譲治は、依子からのLINEで飛び起きた。
案の定、昨晩はうれしさと己の中の熱のおかげでなかなか寝付けず、結局明け方近くに寝ついたのだ。
せっかく元旦はまた依子を誘って一緒に過ごそうと思っていたのに。
遅れをとった。
カーテンを開けると、外はすっかり雪景色で真っ白。
朝日に照り輝いていた。
昨晩は細かい雪が降り続いていたが、明けた新年の最初の日は、いい天気である。
空気は相変わらず凍てついているが、それを暖かい朝日が切り拓いていく。
「おはようございます。
新年最初の朝日を一緒に見ませんか。王宮の砦から眺めたいな、と思って。」
依子からである。
「おはようございます。それじゃ、鎖橋のたもと集合でいいですか。」
譲治は返信した。
オッケー、とスタンプが来た。
急いで支度して、アパートを出る。
トラムに乗って集合場所の鎖橋についた。
依子が手を振って出迎える。
「おはよう。昨晩寒くしちゃったけど風邪ひきませんでした?」
「全然。今までにないほど元気です。」
同じことを考える人が大勢いて、けっこう混んでいた。
雪が道路に乗っていたので、足元があまり良くなかったが、丘の上まで登った。
2人で、いつものテラスから街を眺める。
空は薄雲りだったが、雲の中に太陽の白い丸い姿が見え、世界は真っ白に発光しているようだった。
静かに静かに心で祈る。
ずっとこの人が、健康で幸せでありますように。
2人は同時に同じことを思っていた。
周囲に大勢いる来訪者たちも、みな美しい景色を静かに見ていた。
途中、何軒か出ていた屋台で、ホットワインとプレッツェルなどを買ってかじりながら帰る。
「依子さんはお正月休みとかいつもどうしてるんですか?」
「うーん、自営業の作家だから休みは基本的にないのよ。
時間があれば何かやってるかな。あとは普通にバイト。まあ最近はちゃんと休むようにしてるけど。
また譲治くんに迷惑かけちゃいけないものね。」
譲治くん、と呼んでくれたことも、まだぎこちなさがあることも、譲治にはいちいち胸に迫るものがあって、密かに感激していた。
「今日はどこか行きたいとこないですか?」
今日は一日一緒にいたくて、聞いてみた。
「譲治くんはお休みなの? お仕事とか大丈夫?」
「さすがに元日は休みですよ。明日からは通常モードですけど。」
「そっかあ。じゃあね、リクエストしていい?」
「どうぞどうぞ。」
「譲治くんのウチ!」
依子は無邪気に言っている。
「前から興味あったんだけど、仕事場じゃない?
なんか迷惑だろうな、と思って言い出せなくて。」
「はあ、まあいいですよ。でもなんにもないですよ、ほんとに。」
「いいのいいの。
他の在宅ワーカーさんがどんな風に仕事してるのか見たいのよね。」
依子はうれしそうだ。
昨晩、譲治に襲われかけたことを忘れているんだろうか。
こういうところがこの人、危なっかしいんだよな。と、思いつつも、譲治もうれしかった。
たまたま大晦日は珍しく家中掃除したからラッキーだった。
なんにもないんだったら、何かお茶とかお菓子買ってく?と言われて、それもそうだな、ということで、途中のスーパーで、お茶と果物、甘いものなどを少し買って行った。
ーーー
「お邪魔しま~す。」
依子は玄関でブーツを脱ぎ、きちんと揃えてあがった。
「わあ、ちゃんと片付いてるじゃない。」
キョロキョロしている。
「ちょうど大晦日で大掃除した後でラッキーでした。
でなかったら呼んでませんよ。」
依子は窓の方へ行って、閉まっていたカーテンを開けていいかと聞く。
どうぞ、と譲治は言った。
「おお、そっか一階なんですもんね。でも家賃は安めなのよね?」
依子は外の景色を眺めながら言った。
と言っても中層ビルの多い街区の路地側なので、大したものが見えるわけではない。
通りから丸見えになるので基本的に光だけ通す白いカーテンを閉めている。
「まあ、そうですね。
男だからまあいいか、って感じですけど、依子さんは絶対上層階でいてくださいよ。
お茶淹れるので適当に見て回っててください。」
譲治はキッチンに行って電気ケトルでお湯を沸かす。
カップや、お菓子を入れるお皿を探したが、ろくなもんがない、ということに今更気づく。
人が来ることなんて想定していない生活が長かったからだ。
依子さんがこれからも出入りするなら、今度IKEAにでも買い足しに行くか...。現状じゃ気が利かないにもほどがあるな。
仕方ないので、有り合わせのちぐはぐな食器で、ティーバッグの紅茶と、ハンガリーのクリスマスはお正月にはつきものの伝統菓子を出した。
さっきスーパーで買ってきたものだ。
依子は遠慮なくリビング、寝室、洗面所などを覗いて回っていた。
ほんとに何もないということに、妙に関心している。
譲治はリビングにほとんど全ての機能を集めていて、パソコン周りと仕事机だけが唯一と言っていい家具だった。
お茶とお菓子をそちらに持っていこうと思ったところで、はたと気づく。
椅子さえない。
仕事机のワーキングチェアのみだ。
仕方ないので、キッチンカウンターに持って行った。
ワーキングチェアを持ってきて、自分は立ってることにするか。
依子は仕事机のパソコンモニターの脇に飾っていた小箱を見ていた。
譲治が、依子の個展で買ったものだ。
「ずっと飾っててくれたの?」
依子は感激している。
譲治はちょっと恥ずかしくなって頭に手をやって言った。
「母に、とか言ったのは適当だったんです。自分が欲しかっただけ。」
うれしい、と依子は言った。
唯一のチェアに依子を座らせて、譲治はカウンターに寄りかかってお茶を飲む。
「ほんと、ミニマリストも極まってるのね。すごいわ。
私なんかもう、すぐ家中雑多になっちゃって。」
クッキーを食べ終わった依子は感心したように言った。
「いや、依子さんが今日来てくれて、自分の部屋がいかにヤバいか気付きました。
依子さんがいつ来てくれてもいいように、今度椅子とかカップとか買いに行きましょう。」
譲治は申し訳なさそうに言った。
「そんなのいいのに。
だってこういうのがあなたのスタイルでしょ? お金だってかかるし。」
「いや、依子さんにはまた気軽に来て欲しいし、来てくれるからには、心地良く過ごしてほしい。
あなたのためにかけるお金なら全然平気です。」
譲治は優しい。
「うれしいです。でも無理しないでね。」
依子は興味のあった、譲治の仕事の進行の仕方や、区ごとのアパートの家賃相場、街の治安などを聞いたり、2人は雑多な話でしばし盛り上がるのだった。
「ねえ。いつまでも譲治くんを立たせっぱなしも、申し訳ないから私そろそろ帰りますね。十分見学させてもらったし。」
「僕は全然平気ですよ。」
「そういうわけにはいきません。」
依子は脱いでいたコートを手に取る。
「今晩も一緒に過ごしてはいけませんか? 明日からまた仕事始めだし。」
譲治は率直に聞く。
「もちろん大丈夫よ。また夕飯一緒に食べましょ。
じゃあ、ちょうどいいから帰りに食材買っていこうかな。リクエストある?」
依子もうれしそうに答える。
「あなたの作るものならなんでも。」
譲治はにこっとして言った。
「一緒に行ってはだめですか?」
「ダメじゃないけど、今朝ちょっと仕事始めしちゃったから散らかってるの。
お料理も落ち着いてしたいから、夕方また来てくれる?」
依子が言う。
「わかりました。じゃ、また7時くらいで? 僕もちょっと動画編集でもしよう。」
じゃあ、そういうことで、とコートを着ようとする依子を、譲治はちょっとと手招きする。同時に眼鏡を外してカウンターにぽいっと投げる。
「なあに?」
カウンターに寄りかかっていた譲治は目の前に来た依子の腕を捕まえて、開いた足の間に閉じこめた。
「僕の部屋に来といてこのまま帰る、ってことないですよね?」
依子はちょっと目を見開いてびっくりしている。
その頬に手をあてて顔を近づけキスをした。
ついばむように、触れるだけのキスを何度か。それから少し口を開いて舌で依子の唇を舐める。
さっき食べていたクッキーの砂糖らしき甘さが残っている。
そうしているうちに、依子の唇も綻んでくる。依子は両手を譲治の胸において握りしめている。その手を取って、何度も口付ける。指一本一本に、それから手の甲と、返して手首の内側と。
それから譲治は左腕を依子の背中に回してさする。腰まで下ろしてヒップに手当てる。
今日の依子もラフな格好だった。ハイネックのシャツと、ジーンズ。
服の上からでも依子の柔らかな肌が感じられた。
確かに痩せ型ではないが、太っているというほどでもない。右手は首の後ろに当てて、自分が好きな所にキスできるよう依子の姿勢をコントロールする。
依子の頬、あご、耳、首筋。
触れられるところはくまなく唇で探索する。
「んん、譲治くん...」
依子はたまらずため息のような声を出す。
それを聞いて我慢できず、依子の唇を激しく奪った。
お互いの呼吸を飲み込むように、深く、何度も角度を変えて、お互いの口腔内を味わい、舌で探索する。
依子がふらり、と姿勢を崩したので、譲治は体を入れ替えて、依子の背をカウンターに押し付ける。
自分の右手はカウンターの上について、左手で依子の背中を支え、覆い被さるようにして、また依子に深くキスし直した。
依子がまた譲治の名を呼び、軽く胸を叩く。
「ね、ねえ。まだ真っ昼間だよ。」
依子がハアハア言いながら言葉を絞り出す。
「別に構いません。」
「構います! 元日なんだからちゃんとご飯食べて、一年をスタートさせないと!」
依子はちょっと譲治を睨んでいる。
譲治は両手をあげて言う。
「すみません。反省します。」
じゃ、7時ね! と言って依子はそそくさと出て行った。
ぐずぐずしてると押し倒されるとわかったのだろう。
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譲治は内心で思った。
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