【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした

シマセイ

文字の大きさ
11 / 88

第11話「指導室の尋問と迫る魔の手」

しおりを挟む
ずっしりとした重厚な扉が開けられ、アレンは老教師に促されるまま、指導室へと足を踏み入れた。

室内は、窓から差し込む午後の日差しで薄明るく照らされていた。壁一面の本棚には、様々な魔導書や研究書がびっしりと並び、中央には頑丈そうな木製の机が置かれている。

老教師は、その机の奥に腰を下ろし、腕を組んでアレンを見つめた。その目は、温厚な授業中とは打って変わって、鋭く、威圧感に満ちている。

リナリアは、心配そうにアレンの背後から様子を窺っていた。彼女の心臓は、早鐘のように激しく鼓動している。

「リンク君」

老教師の声が、静かな室内に重く響く。

「君が、学院の規則で禁じられている『禁断の魔道具』を所持しているという報告があった。心当たりはあるかね?」

アレンは、きょとんとした表情で首を横に振った。

「禁断の魔道具、ですか?
初めて聞きました。
どんなものなんですか?
美味しいんですか?」

その、まるで子供のような問いかけに、老教師の眉がわずかにひそめられた。

「美味いかどうかは知らん。だが、それは極めて危険なものだ。下手をすれば、己自身はおろか、周囲の人間をも破滅させる力を持つと言われている」

老教師は、そう厳しく言うと、机の上に一枚の羊皮紙を広げた。そこには、昨日の廊下での騒動の一部始終が、詳細に記されていた。

「昨日の件だ。ヴァイス君の『ファイア・ショット』を、君は至近距離で受けたはずだが、ほとんど無傷だったと聞いている。一体、どのようにして身を守ったのかね?」

アレンは、自分の制服の焦げ跡を指さしながら、正直に答えた。

「えっと、僕もよく分からないんです。
ただ、ゼノンが火を出してきた時、なんだか危ない気がして、ポケットの中の石をぎゅって握ったら、全然熱くなかったんです」

その言葉に、老教師の鋭い眼光が、アレンのズボンのポケットへと向けられた。

「その『石』とは、一体何だね?
見せてくれるか」

アレンは言われるまま、ポケットからあの黒い、いびつな多面体の石を取り出した。

老教師は、それを興味深そうに、しかし警戒するように見つめた。

「それは……確かに、ただの石ではないな。
魔力を帯びているようにも見えるが……。
どこで、このようなものを手に入れたのかね?」

アレンは、少し困ったように頬を掻いた。

「えっと……僕のスキルで、昨日、出しました」

「……君の、『種』スキルで、このようなものを?」

老教師の声には、明らかな疑念が滲んでいた。
『種』スキルが、こんなにも異質な物体を生み出すなど、常識では考えられないからだ。

「はい。
リナリアに『硬い種を出して』って言われたので、すごく硬いものをイメージしたら、これが出てきました。
僕もびっくりしました」

アレンの言葉を聞いていたリナリアは、慌てて口を開いた。

「先生、それは本当です!
昨日の実験に私も立ち会っていました。
アレンは、本当にあのスキルでこの石を生み出したんです!」

リナリアの必死の訴えに、老教師は訝しげな視線を向けたが、嘘をついているようには見えなかった。

老教師は、しばらく沈黙した後、重々しく口を開いた。

「リンク君、君のスキルが常識外れであることは、昨日の騒動で理解した。だが、この物体が本当に君のスキルで生み出されたものだとしても、その性質は不明だ。もし、それが本当に『禁断の魔道具』と呼ばれる類のものであれば、放置することはできない」

「先生、そんな!
ただのちょっと硬い石ころですよ?
それに、あれのおかげでアレンは助かったんです!」

リナリアは、必死にアレンを庇おうとする。

老教師は、静かに手を上げた。

「分かっている。だが、念には念を押す必要がある。明日、君のその『石』を、専門の魔道具鑑定士に詳しく調べてもらうことにする。それまでの間、その石は私が預かる」

老教師はそう言うと、アレンに手を差し出した。

アレンは少し迷ったが、先生の真剣な表情を見て、おとなしく黒い石を差し出した。

その石を受け取った老教師は、厳かに言った。

「もし、これが本当に危険な魔道具だと判明した場合、君には相応の処分が下されることになる。肝に銘じておきなさい」



その日の夜。

王都の片隅に立つリンク家の屋敷。
アレンは自室のベッドに寝転がりながら、落ち着かない気持ちで天井を見つめていた。
ポケットから、あの冷たくて重い石がなくなってしまったからだろうか。
それとも、老教師の厳しかった表情が、頭から離れないからだろうか。

(明日、あの石はどうなっちゃうんだろう……)

そんなことを考えていると、部屋のドアがコンコン、と控えめにノックされた。

「アレン様、夜分に申し訳ありません。
リナリア様がお見えになり、アレン様のお部屋に通すよう言付かっております」

小さなメイドの声に、アレンは驚いてベッドから飛び起きた。

「え、リナリアが?」

急いでドアを開けると、そこには心配そうな顔をしたリナリアが、メイドの後ろに立っていた。彼女の表情は、昼間よりもさらに焦りの色を帯びている。

「アレン……!
ごめんなさい、こんな夜遅くに。
でも、どうしても伝えておきたいことがあって、お父様にお願いして、あなたの家まで送ってもらったの」

リナリアは、息を切らしながら言った。

「大変なことになったわ。
さっき、ゴードンさんがこっそり教えてくれたんだけど……学院の一部で、あなたのことについて、良くない噂が広まっているみたい」

「良くない噂?」

「ええ。『下級貴族のアレン・リンクが、出所不明の危険な魔道具を使って、ゼノン様を陥れた』とか、『本当は恐ろしい力を持つ禁断のスキルを持っているのに、ずっと隠していた』とか……」

アレンは、ますます訳が分からなくなった。

「僕が、ゼノンを陥れた?
それに、隠してた力なんて、ないよ。
僕のスキルは、ただの『種』だし……」

「分かってるわ、アレンはそんなことしないって!
でも、ゼノン様の一派が、裏でそういう噂を流しているみたい。
きっと、今回のことで恨んでいるんだわ」

リナリアの声は、不安に満ちていた。

「明日、魔道具の鑑定結果が出たら、きっと彼らはそれを利用して、あなたを追い詰めようとするはずよ。何か対策を考えないと……」

その時、アレンの脳裏に、ゼノンの冷たい眼差しと、「覚えていろ」という心の声が蘇った。

初めて、アレンは、自分を取り巻く状況が、ただの学院内の騒動ではない、もっと危険なものになりつつあることを、漠然と感じ始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~

弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。 一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める―― 恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。 大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。 西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。 ※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。 この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

ひ弱な竜人 ~周りより弱い身体に転生して、たまに面倒くさい事にも出会うけど家族・仲間・植物に囲まれて二度目の人生を楽しんでます~

白黒 キリン
ファンタジー
前世で重度の病人だった少年が、普人と変わらないくらい貧弱な身体に生まれた竜人族の少年ヤーウェルトとして転生する。ひたすらにマイペースに前世で諦めていたささやかな幸せを噛み締め、面倒くさい奴に絡まれたら鋼の精神力と図太い神経と植物の力を借りて圧倒し、面倒事に巻き込まれたら頼れる家族や仲間と植物の力を借りて撃破して、時に周囲を振り回しながら生きていく。 タイトルロゴは美風慶伍 様作で副題無し版です。 小説家になろうでも公開しています。 https://ncode.syosetu.com/n5715cb/ カクヨムでも公開してします。 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887026500 ●現状あれこれ ・2021/02/21 完結 ・2020/12/16 累計1000000ポイント達成 ・2020/12/15 300話達成 ・2020/10/05 お気に入り700達成 ・2020/09/02 累計ポイント900000達成 ・2020/04/26 累計ポイント800000達成 ・2019/11/16 累計ポイント700000達成 ・2019/10/12 200話達成 ・2019/08/25 お気に入り登録者数600達成 ・2019/06/08 累計ポイント600000達成 ・2019/04/20 累計ポイント550000達成 ・2019/02/14 累計ポイント500000達成 ・2019/02/04 ブックマーク500達成

処理中です...