【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした

シマセイ

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第18話『忍び寄る影と新たな種』

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秘密の庭での豊穣な日々は、アレンにとって夢のような時間だった。
毎日、新しい野菜や果物の種をスキルで生み出し、ゴードンさんの知識とリナリアの助けを借りながら、畑は驚くべき速さで緑に染まっていく。

甘くてジューシーなトマト、蜜のような甘さのニンジン、ホクホクのジャガイモはもちろんのこと、アレンの突飛な発想から生まれた、ほんのり塩味のするキュウリや、噛むとプチプチと炭酸が弾ける不思議なブドウなど、その種類は増える一方だった。

収穫された作物は、学院長を通して、学院の厨房に届けられ、生徒や教師たちの間で評判を呼んだ。特に、アレンの作った野菜を使った料理が出た日は、食堂が賑わいを見せたという。もちろん、アレンたちが秘密の畑の存在を口外することはなかった。

そんな充実した日々を送るアレンとは対照的に、ゼノンの苛立ちは募っていた。

配下からの報告で、アレンが学院長や庭師と共に行動していること、そして、学院の裏手の旧実験農場に出入りしていることは掴んでいた。しかし、そこで一体何が行われているのか、具体的な情報は一切入ってこない。

「一体、あのクズは何をしているというのだ……?
学院長まで巻き込んで……」

ゼノンは、自室で報告書を握りつぶした。
鑑定不能の石、そして学院長の異例の行動。
全てが、彼の焦燥感を煽っていた。

(何かある。
奴は、必ず何か隠している……)

その疑念は、日に日に彼の心を蝕み、アレンに対する監視の目を、さらに厳しくさせていった。



ある日の午後。
アレンは、リナリアと共に秘密の庭で収穫作業をしていた。
太陽が西に傾きかけ、畑は金色に染まっている。

「ふー、今日もたくさん採れたね!」

大きなカゴいっぱいの野菜を見て、アレンは満足そうに笑った。
隣でリナリアも、額の汗を拭いながら頷く。

「ええ、本当に。
この調子だと、そろそろ貯蔵庫がいっぱいになっちゃうわね」

その時、アレンはふと、足元の土の中に、見慣れない小さな塊を見つけた。
それは、光を吸い込むように黒く、表面は微かに脈打っているようにも見える。

「あれ?
これ、なんだろう?」

アレンが不思議に思って手に取ろうとした瞬間、リナリアが鋭い声で叫んだ。

「アレン、危ない!
触っちゃダメ!」

リナリアの剣幕に、アレンは思わず手を引っ込めた。

「どうしたの、リナリア?
ただの黒い土くれみたいだけど……」

リナリアは、警戒した様子でその黒い塊を見つめる。

「あれは……魔力汚染の残留物よ。
旧実験農場が『死んだ大地』になった原因の一部なの。
長い年月をかけて、地中に凝縮された、負のエネルギーの塊よ。
触ると、体調が悪くなったり、最悪の場合、魔力暴走を引き起こす可能性もあるわ」

その説明に、アレンは顔をしかめた。
足元には、まだあちこちに、そんな危険なものが眠っているのか。

「こんな危ないものが、まだ残ってるんだ……。
ゴードン先生は、何も言ってなかったけど……」

「きっと、表土の下深くに埋まっているから、気づかなかったんでしょう。
でも、アレンが土を蘇らせたことで、地層が動いて、表面に出てきたのかもしれないわ」

リナリアは、近くに落ちていた木の枝で、慎重にその黒い塊を土の中に押し戻した。

「とにかく、見つけても絶対に触らないこと。
分かったわね、アレン?」

「うん、分かった」

アレンは素直に頷いたが、その黒い塊が、何故か彼の心に小さな引っ掛かりを残した。

(あれは、ただの危ないものなのかな……?
なんだか、あの黒い石に、少しだけ似ているような気が……)

その夜。
アレンは自室で、今日見つけた黒い塊のことを考えていた。
眠る前に、いつものようにスキルで明日の朝のおやつをイメージする。

「明日は、甘くて、ちょっと酸っぱくて、皮がパリパリの赤い実がいいな……」

手のひらに現れたのは、いつもなら瑞々しいはずの赤い実ではなく、昨日、畑で見つけた黒い塊に、どこか似た、禍々しい色の小さな種だった。

「え……?」

アレンは、自分の手のひらにある異質な種を見て、目を丸くした。
それは、まるで闇を凝縮したかのように黒く、表面からは、微かにだが、不吉なオーラが漂っているような気がした。

(なんだろう、これ……?
僕がイメージしたのは、あんなんじゃないのに……)

これまで、アレンのスキルが、彼のイメージと違うものを生み出すことは一度もなかった。
不安を感じながらも、アレンはその黒い種を、そっと小さな箱の中にしまった。

その晩、アレンは、奇妙な夢を見た。
黒い大地が広がり、そこから無数の黒い影が蠢き出す夢だった。
その影たちは、何かを探しているように、うごめきながら、アレンの方へとゆっくりと近づいてくる――。

アレンは、嫌な予感に胸騒ぎを覚えながら、朝を迎えた。
手のひらに残る、微かな黒い魔力の残滓が、昨夜の出来事が夢ではなかったことを告げていた。

彼の『種』スキルに、小さな異変が起こり始めていた。
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