【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした

シマセイ

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第23話『聖なる種の芽吹きとスキルの復活』

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「ん……お腹、すいた……」

リナリアの腕の中で、アレンがゆっくりと目を開けた。
魔力を使い果たした体に、まず最初に訪れるのは、いつもの、しかし今回は本当に切実な空腹感だった。

「アレン!
気がついたのね!」

「アレン坊、よくやったぞ!」

リナリアとゴードンさんの心配そうな顔に囲まれて、アレンは自分が気を失っていたことを理解した。
彼は、おそるおそる自分の手のひらを開く。
そこには、あの神々しいまでに白く輝く『聖なる種』が、確かに握られていた。

「……よかった。
できたんだ、僕……」

安堵の笑みを浮かべるアレン。
まずは彼の体を回復させるのが先決だ。
リナリアとゴードンさんは、アレンに畑で採れたばかりのトマトやキュウリを次々と食べさせた。
生命力あふれる作物が、彼の空っぽの魔力を、急速に満たしていく。

「ふぅ……。
生き返った……」

すっかり元気を取り戻したアレンは、立ち上がると、その手に握られた『聖なる種』を、改めて見つめた。
これが、最後の希望だ。



「この聖なる種を植えるには、それにふさわしい、清浄な場所が必要じゃ」

ゴードンさんはそう言うと、アレンたちを、生き返った畑の中でも、特に土の状態が良く、一番日当たりの良い中央の一角へと案内した。

アレンは、リナリアとゴードンさんが固唾をのんで見守る中、その場所に小さな穴を掘ると、祈るように、『聖なる種』をそっと埋めた。

種が、土に触れた、その瞬間。

パァァァッ!

これまでに見たどの光とも比較にならない、温かく、清らかな、そしてあまりにも神々しい光が、地面から溢れ出した。
その光は、まるでさざ波のように秘密の庭全体へと広がり、畑に育つトマトやニンジン、ジャガイモたちが、一斉に喜びの声を上げるかのように、その葉をきらきらと輝かせ始めた。

そして、種を植えた場所から、ゆっくりと、しかし力強く、銀色に輝く双葉が顔を出す。

その双葉から放たれる清浄な光の波動が、目には見えない魔力の流れとなって、畑の土壌の奥深くまで染み込んでいく。
アレンのスキルを蝕んでいた、あの黒く、淀んだ『魔力汚染』の気配が、まるで朝霧が晴れるかのように、浄化されていくのが分かった。

アレンは、その光景を見て、自分の体の中にずっとあった、あの黒くて重たいモヤモヤが、すーっと消えていくのを感じた。

「あ……」

体が、スキルが、軽くなる。
彼は、確かめるように、おもむろに手のひらを上へ向けた。

(いつもの……元気が出る、美味しい木の実……)

スキルを発動させると、その手のひらには、何の抵抗もなく、つやつやと輝く完璧な木の実が現れた。
それは、スキルが不調になる以前のものよりも、さらに瑞々しく、美味しそうに見える。

アレンは、その木の実を、期待と少しの不安を胸に、口の中へと放り込んだ。

ポリッ!

「……!」

アレンの目が、驚きと喜びに、大きく、大きく見開かれた。

「おいしいーっ!
いつもの味だ!
いや……違う!
いつもより、もっともっと、美味しい!」

香ばしさも、甘みも、食べた後の満足感も、全てが格段にレベルアップしている。
彼のスキルは、ただ元に戻っただけではなかった。
聖なる力によって浄化され、その質そのものが、向上していたのだ。

「よかった……!
本当によかった、アレン!」

リナリアが、目に涙を浮かべてアレンに抱きつく。
ゴードンさんも「おお……おお……!」と、感極まって言葉にならない。

三人が、スキルの復活を喜び合っている、その時だった。

ふと見ると、先ほど芽吹いた『聖女の涙』の芽が、目の前でぐんぐんと成長を続けていた。
あっという間に、美しい銀色の葉を豊かに茂らせた、見事なハーブの姿になる。

そして、その株の中央で、固く閉じていた一つの蕾が、まるで夜明けを迎えるかのように、ゆっくりと、その花びらを開き始めた。

咲いた花は、まるで光そのものを固めて、寸分の狂いもなく削り出した水晶細工のようだった。
その神々しいほどに美しい白い花びらからは、甘く、そして心がすーっと洗われるような、清らかな香りが漂ってくる。

花が、完全に開いた、その瞬間。

花の中心から、一滴、朝露のような、しかし虹色の光を宿した美しい雫が、ぽたり、とこぼれ落ちた。
その雫は、下の銀色の葉の上で、まるで宝石のように、きらきらと輝いた。

ゴードンさんが、感動と畏敬の念に打ち震えながら、囁いた。

「おお……!
あれこそが、花の姿をした、本物の『聖女の涙』……!
伝説は……伝説は、真であったか……!」



アレンたちは、その神々しい花の美しさと、目の前で起きた奇跡の光景に、ただただ見とれていた。
スキルは完全に復活し、秘密の庭には、伝説の聖なる植物が根付いたのだ。

だが、その頃。
ゼノンの元には、配下からの新たな報告が届けられていた。

「アレン・リンクの一派は、旧教会裏で何かを見つけ出した後、秘密の庭に閉じこもっている模様。
その後、庭からは、数度にわたり、強い光が観測されています」

「光、だと……?」

ゼノンは、忌々しげに呟いた。

「奴らが手に入れたもの……それが、奴の力の秘密に繋がる鍵のはずだ。
もはや、お前たちのような役立たずに任せてはおけん」

ゼノンは立ち上がると、その目に、冷たい決意の炎を宿した。

「次は、この私が直々に出向いて、その秘密を根こそぎ暴き、奪い尽くしてやる」

アレンたちの手にした大きな希望の光。
その光を嗅ぎつけ、より深い闇が、すぐそこまで迫ってきていた。
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