ランドール家の逆襲〜干された実家を科学で救う〜

シマセイ

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第95話:新しい朝と、知識の種蒔き

王都を揺るがした三日間の騒乱は、嘘のように静まり返った。
宰相の逮捕と隣国軍の撤退により、僕たちの商会が発信した情報が真実であったと証明されたのだ。
王家もついに、僕たちの通信網を国家の重要なインフラとして正式に認めざるを得なくなった。
しかし、勝利の余韻に浸っている暇は僕たちにはなかった。

「トウヤ、大変よ!」

執務室のドアが勢いよく開き、シャーロットが山積みの書類を抱えて飛び込んできた。
彼女の目の下には、連日の徹夜作業による濃いクマができている。

「一斉送信の負荷で焼き切れた魔導鉱石の数が、予想以上に多いの!」

「全体の何割くらいがダメになったんだ?」

僕が尋ねると、シャーロットはドサリと書類を机に置いた。

「王都内のステーションだけで約三割、中継用の大型鉱石に至っては半分が完全に沈黙しているわ!」

「あの限界突破の代償としては、これでも安く済んだ方かもしれないな。」

僕は苦笑しながら、新しい鉱石の調達リストに目を通した。
インフラというものは、作る時よりも維持する時の方が遥かにコストと労力がかかる。

「トウヤ、鉱石の調達よりも厄介な問題があるわ。」

いつの間にか部屋に入ってきていたエリーゼが、静かな声で口を挟んだ。
彼女の手には、王家から発行されたばかりの新しい布告書が握られている。

「通信網が国に認められたことで、地方の有力者たちから『自分たちの領地にもステーションを設置しろ』という要望が殺到しているの。」

「それは良いことじゃないか?」

「設置すること自体はね。」

エリーゼは一つため息をつき、布告書をテーブルに広げた。

「問題は、それを正しく運用できる人材が地方には全く足りていないということよ。」

彼女の指摘は、僕がずっと懸念していた問題の核心を突いていた。
情報を送る機械があっても、それを読み解き、真偽を判断する『知識』がなければ、結局は一部の賢い者に利用されるだけになってしまう。
マルクのような地方の若者が抱えていた劣等感も、そうした教育の格差から生まれていたはずだ。

「……なら、教える場所を作るしかない。」

僕は窓の外の広場を見下ろしながら言った。
そこでは、商会のスタッフが新しい瓦版を配り、市民たちが熱心にそれを読んでいる。

「教える場所、って学校のこと?」

シャーロットが目を丸くして尋ねた。

「そうだ。」

僕は振り返り、二人の顔を真っ直ぐに見つめた。

「一部の貴族や商人だけじゃなく、誰でも通信の技術と情報の扱い方を学べる『技術講習所』を設立するんだ。」

「なるほど、情報インフラの次は教育インフラというわけね。」

エリーゼは面白そうに微笑み、扇をパチンと閉じた。

「それなら、北部で協力してくれた山岳の民の代表も呼ぶべきね。」

「ああ、ライラたちにも正式な通信の扱い方を学んでもらおう。」

僕は頷き、新しい計画の青写真を頭の中に描き始めた。
僕たちの戦いは、権力者から情報を奪い返す段階を終えた。
これからは、その情報をどう使い、どう社会を豊かにしていくかという、長く地道な挑戦が始まるのだ。
新しい朝の光が、未来に向けた知識の種蒔きを祝福するように、王都の街並みを明るく照らしていた。

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